旧友と三分間の再開
「変わらないもんだね」
「いや、変わら・・・・美智子は変わったね」
冷たい夜風が酔いを覚ましてくれ、視界を鮮明にしてくれる。
要望としては、酔いを覚まさないで欲しかった。
現実が、棘のように速度を落とさずに刺さってくる。
彼女が悪いわけじゃないのは、理解している。大人になりきれない心が嫉妬やら妬みやらで満たしてしまうのだ。
今の私は、彼女と同じ土俵には立てていない。
同じ空間で、仕事をしていた頃は、勝手にライバルとして思っていたことも、彼女に失礼だと思った。
夜の中でも輝いている美智子の口から零れてくる仕事話は私の心模様の読めなさは心の傷をえぐり、塩をこすられているみたい。
まるで、塩の上をゴロゴロと回さられているキュウリみたいに痛々しい。
「引越しをして、帰り道が変わったの」
夜風に遊ばれている長い髪を手で直しながら言った言葉にある予感が過る。
自然と髪をおさえている左手に目が行く、いや、左手の薬指に目が行く。
「結婚した?」
話の節を折る形で聞いてしまったが、止まらない追求心にブレーキはない。千里ちゃんと同じでハードルなんて見えやしない。
「ふふっ」
あ、したなと彼女が零す笑みで憎くもわかってしまった。
「一ヶ月前にね・・・・」
「そっか、おめでとうございます
じゃあ、痴漢には気をつけて」
「話終わり?物好きな痴漢見てみたいな」
「人妻を襲って興奮する輩もいるから」
早く話を切り上げたい気持ちが先走ってしまい美智子の表情は怪訝な顔に変わっていくが、彼女も思うことがあるのか潔く引き下がろうとしてくれる。
恥ずかしい気持ちと羨ましい気持ちが混ざり、黒く汚いのが、心に染みを作っていく。
これが、嫉妬なんだ。
久々に感じた感情だな。
「また、話しようね」
人当たりの良い笑顔が夜の住宅街に映る。
「時間があったら」
時間なんて直ぐに作れる。
少し足掻いてみて、大人気なくてみっともない自分が夜空の下で美智子が去る背中を見ていた。
私は、実家と一人暮らしのアパートを行き来している。
気分によって帰る場所が違うのは良い刺激と、一人になりたい時とか家出をしたとしても屋根があるから安心だ。
今日は、アパートだなと足を進めた。
ボロ臭いアパートが似合う私。
出版社に勤めていた頃から住み慣れた家の扉を開ける。
出版社は、弱肉強食の世界でよく私なんかが、入れた世界だと思う。
仕事量も星の数ほどにあり、家には寝に帰る日々に病気で倒れた事でわかった。わたしには何にもないことを。
病院から家に帰れば部屋には、簡単な家具しかない。
RPGの町人の部屋みたい。
仕事に生きていたわけじゃなかったつもりが、仕事に生きるキャリアウーマンになっていたんだと自分を褒めた。ただ、それだけだった。
キャリアとか実績や体調を全部崩して得た長期療養が逆に重く心を締め付けられている。
殺風景の中にあるソファーにバッグを投げ、腰を下ろした。気持ちいい酔いが廻る。
母親にメールでも送らなければとは思うんだが、石の様に重い体が動いてはくれない。次第に瞼も重くなってきた。最後に見た景色には、窓から射し込まれる月の光と何もない白い壁だけだった。




