不眠症とネット中毒
文才ないからか、主人公を可愛く出来ない。
母親も可愛くない。
だからこのタイトルは合っていると思う。
ある人からは、主人公は嫌いなタイプだと言われた。私が書く主人公は嫌われるのかも知れないです。
まず、この作品を読む前に作者は、この作品を書く際のファッション(スタイルとも書く)は、短パンにキャミソール姿で書こうとしていたのを幻滅しないで下さい。
ふと、先が長くなると感じた私は、そこらに置いといた(皆は落ちていると言うけど)Tシャツを着て机に向かった。
タグが前に着ていたのを気づくのは書き終わってからだ。
物が散乱した狭くも広くもない部屋は静寂が仕切っていた。
カーテンの隙間からは黒い景色が見える。
黒い景色を見ながら手探りでスマホを探すため掛け布団から腕を出す。
何時もと変わらない場所に置いといたはずだが、目視をしていないから距離が分からず、スマホから遠ざかるのがもどかしい。
固く四角い物が手に触れ逃げないようにがっしり握り充電器を抜いた。ロックの画面で四桁の番号を慣れた手つきで入力していく。スマホから放たれる光に目が霞むし目の奥が痛い。
ロック解除をした待ち受けにでかでかと四時十二分と現在の時刻が残酷に冷淡に表示されていた。
途端に腹の底から這い上がってくる苛立ちに理性を持っていかれてしまい、バッと起き上がり目の前の壁にスマホを投げつける勇気がないので枕で我慢した私を誰か褒めて欲しい。
四時十四分に菜緒のすすり泣きの音が漏れた。
「私が、朝起こしに行ったら暴れていたのよ、え、私は大丈夫よ」
ありがとう、優しいのねと朝から胸焼けがするやり取りをラジオに食卓につく。
六時半ちょっと過ぎに私を起こしに来た母が見た光景は、枕片手に時計を叩いている私を最初はその光景にきょとんと驚いてたが、次第に状況が分かっきたのか、急いで下に下がり愛しい男に事細かく話している中私が食卓に顔を出したのだ。
キッチンの前にある食卓はキッチンに開けられた窓から射し込まれる陽でテラテラに輝きキラキラと埃が踊っている。
器用に電話しながら朝食を並べる母に感心と猫かぶり女と思いながらトーストにバターを塗りたくる。
電話を終えた母が前に座り、トーストに自作の生姜ジャムを塗りたくる。生姜独特の匂いが鼻を通りいっぱいになる。
「で? 朝はどうしたの」
トーストを細かく手で千切りるから皿の外にもパンくずが零れてテーブルも皿と化してる。
「自暴自棄になっただけ」
「寝れないだけでかい?クソガキじゃないんだから大人らしく暴れたらどうよ」
「あれでも暴れているつもりだし、不眠症の辛さを分からないからだ」
三年前から不眠症に悩まされて分かったことは、母の対応は氷みたいに冷たく栗の棘の如く対応と人間の欲で誰が何と言おうと一番大事なのは睡眠ということだった。
睡眠がキッチリ確保されていたら、趣味の悪い生姜ジャムを食べるだろうし男にだって盛りの効いた猫みたいに体をしなやに絡めることも容易いことだろう。
睡眠が確保出来なかったら生姜ジャムどころかバターもマズイしトーストは段ボールみたいな食感に感じてアリを見る目で男を見るようになる。
男は視界に入らなくなることもしばしばありと付け足す。
母は睡眠を摂取出来てるから世界が明るく回るんだよと言ってやりたいが、世界は睡眠一つで円滑に回っているならネギの値段に悩まないと至り言葉をパンと一緒に飲み込んだ。
キッチンに置かれた木製の時計を見た母はせかせかと後片付けを始めるのを一つの映画のワンシーンを観るように眺めながら冷やされた牛乳を喉に通す。
トーストで温められた喉に冷たい牛乳が食道を通り、胃に落ちていくのが分かる。
小さい頃から地味に好きな瞬間だった。
母が男と会うときはメイクが濃いのとプラスにきつい香水を首に撒き散らすのを気づいたのは何時からだろう。
最近では特技と言える位にまでの命中率になったのを誰に自慢しようかと考えたが、よく考えれば恥ずかしい事に気づきやめた。
「今日の晩御飯オムライスにしようと思うけどいいかしら」
耳たぶにピアスを通しながら問われた。
「いいじゃん」
母は根から恨ましてはくれないのだ。
一人ぼっちになった食卓は窓から流れてくる日常の音と時計の針が鳴らす音以外は無音が流れ、こぼれたパンくずをジッーと見つめる。
浮気をする母はいきいきとして若々しく羨ましいと感じた。
恋をする気力が今の私には小さじ一も満たない。
浮気はイケナイ事と世間一般の回答がこの家では通じないのがまた、面白くて私は好きだが、浮気された方はやるせないだろう。
篭った時計のチクタクの音を耳にしながらアルバイトに行かなくてはと支度の準備の前に、パンくずを台布巾でテーブルからはらった。
陽は出ているけど、朝ということもあって暑くもなく寒くもない良好的な気温の中履き慣れてくたびれたスニーカーで歩いていく。
空は澄み渡っているのと対照的に私の心は曇天模様に塗り潰され足取りが重い。
職場が、嫌な訳じゃないのは明確だった。
愚痴を言い合える友達がいるし、慣れている仕事だからスムーズに進むことから仕事関係じゃない。
理由は無いが憂鬱なんだ。
特に朝は何もかもが億劫と感じて、化粧も本当は面倒だが、人様に見せれる顔じゃ無いからするだけで、しなくても何ら困らない。
私の顔で不愉快になり訴えられるなんて無いだろうけど、予防として誤魔化している。
誤魔化されているかわからないけど。
そんな憂鬱を纏いながら、通勤する私を清々しい空は見下ろしているのが、また憂鬱を増やした。
「空を見上げる余裕があるわけだから良いと思うけど、違うのか」
ぶつぶつとモップ掛けをしながら駄弁るこの子は、本庄千里分かっていることは、年齢不詳で中卒のネット中毒な女。
片時も携帯を手放さないのが、職場で有名となっていて、トイレでも食事中でも、最近は注意されてなくなったが、仕事中でもネットを見ていたほどだ。
その内、「今トイレなう」とか写真付きで呟きそうで怖いわ。
「でも、分かりますよそれ」
床を摩る程度の力でモップ掛けをする二人に誰も気づかない。
「清掃なんて可愛くもカッコ良くもない仕事しているからか、ウェイトレスとか光って見えて憂鬱になりますよ」
「千里ちゃんは若いんだし、やれば出来るじゃない、おばさんと違って」
千里の年齢は分からないが、肌だったりファッションだったり何より纏うオーラが若いから清掃なんて辞めて、それこそウェイトレスとか可愛い制服が着れる仕事に就けばいいのに、こんなトイレの便器と然程変わらない色の制服よりと密かに思っていた。
「一度、やったことあるんですけど、なんか、合わなかったんですよ」
「仕事が?」
千里は、床のタイルにこびり付いた汚れを一生懸命モップで磨く。
汚れは落ちずに図太くこびり付いていた。
「いや、可愛い制服着たら、蕁麻疹出来てしまって、それから可愛い制服の仕事無理でここに」
まぁ、制服だけじゃなくて携帯離せなくてクビもありましたと良い笑顔で言う千里。
また、変わった体質な事でと返しといた。
「働いたら負けとかありますけど、どう思います?」
私達の会話は急カーブが多い。
「働いたら負けとか言いながらウェイトレスとして働く子は勝ちなのかしら?負けなのかしら?」
それに対応できる柔軟性を私は持ち合わせている。
「職種にもよると思います。
私、清掃しているなんてネットに言えないから医療事務やっているって嘘ついてますもん」
わざわざネットに言う事かとも思ったが、スルーしとこう。
「それ、嘘にも程があるでしょう」
「資格は持っているんですよ」
「なら、やればいいのに、勿体無いな」
「蕁麻疹出来ましたから」
女の話は日常家庭の生ゴミの様に尽きない。
「菜緒さん今日の仕事終わりに洒落たレストラン行きません?」
やっと汚れが、剥がれて満足した千里は、菜緒に向き合う。
「ネットのネタだけに?」
「奢りますよ」
「行くわ」
どんだけネットに書くネタが欲しいんだと呆れながらも千里との交流は楽しいと感じる。
私も、自分より若い子に何集ってんだろう。