4話
親父は、豪快に笑った。
「そうだろう、そうだろう。うちのラーメンは 宇宙一さ。食材集めには苦労したからなぁ」
「材料って、宇宙のあちこちから集めて来たの ?」
「惑星の定住移民団のところを、ずいぶん巡っ たもんさ。地上は船団よりも天然食材が豊富で な。そこの飯が、これがまた何を食ってもどれ もこれも美味いんだなぁ」 聞きながらガネーシャも目をキラキラさせ、 よだれを拭った。
「もともとラーメンが好きで、船の中じゃ三食 ラーメンさ。それで、天然食材でラーメンを作 れねぇかと、あっちこっち調べて回ったんだが な。びっくりするじゃねぇか。その昔、地球で はラーメンを天然食材で作っていた、と、そう 聞いたわけさ」
「ホントに? わたくし、ちっとも知らなかっ たですわ」 「ホントもホント。今時ラーメンって言えば合 成ラーメンのことだがな、それも、地球産天然 ラーメンの末裔ってわけさ」
親父は得意げに、本物の豚や葱と出会った時 のこと、出汁の取り方を何年もかけて研究した ことを語って聞かせた。そしてついに本場地球 の味の再現に成功した瞬間のことも、しみじみ と語った。
「ちょうどそのころかなぁ、跳躍エンジンにガ タが来てな。運び屋稼業も続けられなくなった し、ここの船団ならずいぶん良い天然食材を仕 入れられるんで。思い切って、船を改造して流 しの屋台にしてみたってわけさ」
ガネーシャは、最後の親父のこの言葉がちょ っと気になって、他に誰もいない店内なのに、 声をひそめて親父にそっと尋ねた。
「運び屋って、密輸か何かをしていたんですの ?」
「はあ?」
親父は、きょとんとする。
「冗談じゃねぇ。俺ぁな、生まれてことかた、 まっとうな仕事しかやってねぇよ。貴重な食材 だって、ちゃんとしたルートで仕入れしてらぁ 。馬鹿にするなよ、嬢ちゃん」
「でも、宇宙海賊なんでしょ?」
ガネーシャが言った。親父はガネーシャを見 つめ、少し沈黙してから、それから突然吹き出 し、腹をかかえて爆笑した。
「宇宙海賊ってのは、ただの店の名前だよ。そ の前は、個人運送」
「所属は?」
「昔はよそに所属していたが、最後はここで廃 船手続きをしたからなぁ」
「ってことは、どこかの協会からユミノミオ籍 に移して、そこで跳躍船として廃船手続きを通 して今はゴンドラ登録とか、そんなような?」
「そう。えらく詳しいな、嬢ちゃん」
「安心いたしましたわ」
ガネーシャは大げさにため息をついた。
「それならば、この船はわたくしのものも同然 ですもの。わたくしは、ガネーシャ・カレル・ ユミノミオ」
ユミノミオ。その名に、親父は仰天する。ユ ミノミオは企業が運営する移民船団で、国家の 総長に当たるのが会長ユミノミオであり、全市 民の雇用主だ。その血族の一員であり、再上層 階級の一人がいま、親父の目の前にいる。ピン クのワンピースの、その襟元の刺繍。プレジデ ントチームの証であるPマークがあることに、親 父はようやく気づいた。
「もしも海賊船が密入国していたのだとしたら 、わたくしとしても見逃すわけには……」
「そ、そ、そんな。俺ぁ、なんも違反なんかし てねぇよ。ちょ、ちょっと待っててください、い ま、いま登録証を探して来やすんで。えーと、 どこにしまったっけか……」
すると、今度はガネーシャが口元に手を添え てころころと笑った。
「ごめんなさい。わたくしのほうが勝手に、オ ジサンを宇宙海賊と勘違いしたんですもの。気 になさらないで。むしろ、我が船団の天然食材 を評価いただいたことに、心より感謝いたしま すわ。それよりも」
ガネーシャは真面目な顔になり、親父をまっ すぐに見つめた。
「地球がどこにあるのか、教えてくださらない ?」
「え?」
「地球の味を、どこでどうやって知ったのか。 それだけでも」
「いや、それは……」
親父は、きまり悪そうに頭を掻いて言った。
「みんながよ、俺のところのラーメンを、本物 の地球の味だって言うから。俺もつい、その気 になっちまって」 「じゃあ、地球に行ったことは?」
「言ったろ。海賊じゃない、ただの跳躍貨物船 だから、正規の航路しか利用しちゃいねぇ。地 球航路なんて、存在しねえからなぁ」
「そうよね」
人類が地球というふるさとを見失って以来、 もう長い。無数の移民船団が旅立った時、二度 と地球には戻らない理由が、何かあったらしい 。
「地球って、どんなものが食べられるのかしら 」
どこか遠くを見るような目で、うっとりとガ ネーシャは漏らす。
「ねえ、オジサン。この船、また跳躍できるよ うに修理したら、地球を探しに行けると思わな い?」
「この船で、地球探索の旅に出ようってか? そしたら、食事は毎日ラーメンになっちまうぜ 」
親父の言葉に、ガネーシャはにんまりと笑っ た。
おわり




