一話
ガタンと少し揺れてガネーシャの乗ったゴンドラは料亭「宇宙海賊」に接岸する。
「到着しました」
パイロットにそう言われ、ガネーシャは眺めていた窓から目をパイロットの方に向け、シートベルトを外し、エアロックに向かう。
「わたくしが戻るまであなたはここで待っていて」
そう言ってガネーシャは少し長めの薄いピンク色のスカートをヒラリと翻し料亭「宇宙海賊」に繋がるエアロックに向かう。エアロックを渡る通路の途中で少し立ち止まる。
通路は透明な強化プラスチックで出来ており、そこに写る自分の姿の向こう側にある、ユミノミオ移民船団を眺める。
運河を渡る大小さまざまな光り輝くゴンドラ達。運河と言っても、本当に水が有るわけではなく、基本的には宇宙空間で、運河と移民船を隔てる物は赤と青に点滅する警告灯だけだ。そんな運河がこの移民船団には大小無数にある。その運河を渡るゴンドラ達をその向こうに光る星達をバックに少し眺める。
視線を少し手前に戻し強化プラスチックに写る自分の姿を見て、身だしなみのチェックをする。
白を基調としたブラウスの襟元に小さくユミノミオの惑星と船団をモチーフにした刺繍が「P」という文字と共に施されている。スカートはピンク色。ガネーシャの好きな色だ。もちろんそのスカートにもアクセントで腰の辺りにユミノミオの刺繍小さく施されている。そして白いブラウスに黒く長い髪が映える。ガネーシャはそんな自分の姿を少し見つめる。
上から下まで一通り眺め、問題のない事を確認し、また料亭「宇宙海賊」に向かって歩き出す。そしてふと店の前で立ち止まる。
「それにしても・・・・・・」
そう言って改めて店構えを見るガネーシャ。
「とても料亭には見えないわね」
年期の入った中型の船を改造したおんぼろの食堂船は、今にも機密漏れを起こしそうで不安になってしまう。
「ま、まあ、それだけ老舗って事よね」と、ガネーシャはまるで自分に言い聞かせるように独り言を呟く。
エアロックを潜り抜け、店の出入り口に立ち、扉を開けようとするが、店の周りには異臭がこもっており、「宇宙海賊」の名前も相まって、扉を開くのを躊躇ってしまう。帰ろうか、とも考えたが、意を決し店の中に通じる扉を開ける。
店の中は外観の通り、古汚く四方の壁はあちこち油汚れや煙で燻されて茶色く変色している。
「きったない店ね! 本当にここ食堂船なの?」
その言葉が聞こえたのか、カウンターに座る店主だろう親父が、電子新聞をカウンターに置いてガネーシャの方をギロリと鋭い目つきで睨む。その鋭い目の下、左頬には深く刻まれた傷跡。その顔を見てガネーシャは少し怯んだが、端からの見た目は臆することなくテーブル席に腰掛けるように演じる。
「そっちじゃなくてカウンターに座ってくれ」
「な、わたくしは客・・・・・・」
ガネーシャの言葉を遮るようにまたあの鋭い刺すような目つきでガネーシャを見る親父。
「ふ、ふん!」少し強がりながらもガネーシャは言われた通り、カウンターに席を移す。カウンターは薄汚れており、丸椅子もキイキイと音を立てる。
「ねえ、あなた。メニュー位出したらどうなの? 全く・・・・・・」
そうブツブツと言うと、親父はメニューの書かれたEパッドを投げるようにガネーシャに渡す。その態度にまた腹をたてるが、そこは気を静め、メニューを見る。するとそこにはラーメンの文字が並んでおり、声に出してしまうガネーシャ。
「はぁ? 何ここ! ラーメン屋!?」
その言葉がまた気に障ったのか、ガネーシャを睨みつける。またその眼に怯むが、それでもガネーシャは文句を言い続ける。
「全く、あのパイロット店を間違えたのね。こんな合成食のラーメン屋なんかにつれてきて!」
「うちは天然物しか使っちゃいねーよ」
そう強く一言だけぶっきらぼうに言い放つ親父。
親父の言葉に思わず少し吹き出してしまう。その後、またガネーシャはまた親父に言ってしまう。
「ラーメンなんて合成食の固まりでしょ? そんなもの食べるに値しないわ!」
「じゃあ、帰ればいい」
親父にそう言われ、席を立とうとしたその時、ガネーシャのお腹がギューッと派手になる。
「ま、まあ、たまには不味いラーメンでも食べてあげようかしら」そう言って、赤くなった顔の前にさっとメニューを持ち上げ顔を隠すガネーシャ。
「じゃあ、この特製豚骨ラーメンを頂こうかしら。天然物のね」
メニューから顔を放し、意地の悪い顔で親父に注文する。
「ふん!」と一言言って調理に取りかかる親父。調理に取りかかる親父は先程までの無愛想な顔と打って変わって真剣な表情に変わる。