目覚め そのに
そして、物語は動き出す。
「どうやら記憶喪失のようですね。 あらためまして。 私はトーガ、天界へと続く門の番人をしています。 あなたは佐藤太一君でしたが神化の儀式によって長にシュユと言う新たな名前を授かりました。 ですから今後はシュユと名乗ってください。」
だんだん頭がクリアになってきた。
神化の儀式によって名前が変わり、魂の定着が終わった、ということだろう。
「トーガさん、お久しぶりです。 これから僕は何をすればいいのでしょうか?」
「おや、思い出してきたようですね。 ではそこにある服に着替えてください。」
今現在、手術のときに患者の着るような服装をしている僕、佐藤太一改めシュユはまず着替えることにした。
用意されていた服は、他薦コスプレ喫茶で着た軍服に似ていた。
インナーは機能性重視のもの、上着はミリタリーな感じで丈夫そうだ。 ボトムスも材質は分からないが肌触りもよく、加えて足と一体になっているかのように体の動きをまったく邪魔しない。
日本円でいくらなのだろうか? ビールなら100本くらいでいけそうだけど。
服の入っていた籠の中にはまだ色々と入っている。
靴下にブーツ、ベルトに、ベルトに通すことができるけど開かない小さなかばん、それに厚手のコート、厚めの手袋、武器よりのグローブに財布、タオル数枚にハンカチも2枚、空の水筒にジッポライター、軍用の懐中電灯、寝袋に簡易テントまであった。
あったのだが・・・
「トーガさーん。 これ全部身につけるんですか?」
「ああ、別にそれでも良いのですが。 その腰のかばんはたくさん物が入り、しかも持ち主しか開けられないという防犯機能つきのかばんなんですよ。 契約魔法を使って持ち主として登録してみてください。」
契約魔法とは、特殊な装備だけでなく精霊や霊獣などを使い魔として使役する際も用いられる神なら使えて当然の初級魔法らしい。
もう魔法使えるのか。 さすが聖人。
「この契約魔法は、言ってしまえば持ち主の名前を書くようなものです。 魔力制御の初歩である魔力による肉体強化や飛行、潜水などを行う際に体の表面や体内に魔力を纏うのですが、その練習法として一般的なのは指先に魔力を展開し、徐々に範囲を広げ、全身に纏えるようになったら、次に部分的な展開、最後にその展開速度や切り替えの速さを鍛えます。 その最初の段階、つまり指先に魔力を纏わせ、魔力をインク代わりに名前や図形を書くというのが契約魔法です。」
「・・・僕はもう魔力を持っているんですか?」
魔力があると、力がみなぎってくる!?みたいなイベントがあるのかと思っていました。
「ええ。 神格は1から19までは1上がるごとに第12番目の世界の宮廷魔導師の平均魔力のおよそ5倍程度上昇するとされています。 つまり単純な魔力量はすでに人間の中で言えば十分に上位に入れる程度には上昇している、ということです。」
後で聞いたら、DQで例えるとMPは500程度あるそうだ。
うむ。分かりやすい。
「まずは、魔力の流れや展開する様子をイメージすることが重要です。 初歩的な術は変質させた魔力を身に纏うだけで効果を発揮するので教えられることは実はあまり無いんです。」
肉体強化は鎧のように硬質化させた魔力を纏い、飛行するためには重力ベクトルの制御や気圧の制御、潜水ではそれに加え酸素量の調節など全てイメージで行うとのこと。
ちなみに、神格が20以上になれば呼吸や食事、物理的なダメージなどによる影響を眠っていても無効化できるそうだ。 故に肉体強化だけを重点的に行い、その力で神格を高めるのが普通らしい。
「まずは、指先を怪我して血が流れる様子をイメージしてください。」
「・・・。」
「次に、その血の流れを心臓から送り出す所からイメージしてみてください。」
「・・・。」
「最後に、その血を指先で固めるイメージをしてください。」
「・・・。」
「その固めた血を契約したいものに押し付ければ、契約完了です。」
「えっ?」
「分かりにくいですよね。 でもこのあと天界のギルドに行ってもらいますが、契約魔法の使い方の説明は、たぶんこんなものですよ?」
トーガさん曰く自分の中にある魔力の存在やその量の感知はさらに教えるのが難しいらしく、他の世界では常に魔力に晒され、その流れを常に感じることから普通は物心がつくころには誰でも自然にできるそうだ。
加えて、地球のように魔力の存在しない世界自体が非常に稀なのだという。
ただし、そのおかげで魔力を使い果たしても体調に変化が起こらないらしい。
通常は魔力の減少により思考力、集中力の低下や、倦怠感、人によっては吐き気や頭痛といった症状が出るそうだ。
・・・風邪薬でも飲めば良いよ。
「とにかく、そのイメージで血液の変わりに魔力を流せればいい、ということですね?」
「ええ、そのとおりです。」
まずは魔力探しだな。
天界では、神術(神様クラスでないと使えない大規模な魔術の総称らしい)によって魔力の流れが一定に保たれているため、修行には向かないそうだ。
そのため、トーガさんが門の監視をしつつわざと室内の魔力の流れを乱し、揺らぎを作ってくれている。
この乱れを感じる。 それが魔法を使う第一歩となるのだ。
自分の魔力の存在を感知する方法を教えろ。
といわれるのは
息の仕方教えろ。
といわれるようなものだと思ってください。