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酒は命よりも重いらしい。 ソースは俺。

消えたはず。だった。


「君が佐藤太一君ですね?」


最期は「これが、僕の人生最後のクリスマスか。終わってみると普通だな。」などと少し恥ずかしい台詞を吐き、そのまま眠りについたはずなのに。

何故か自分は立っているし、目の前には僕より少し背の高い、しかし線はかなり細い30代位のイケメンがいた。


「はい。そうですけど・・・?」

「ああ。 申し遅れました。 私はトーガといいます。 第101番目の世界から第200番目の世界までに存在する天界に通じる門の番人を主に行っています。 いわゆる天使です。」

「ということは、ここは天界への入り口で、僕はこれから天国に?」


確かに、目の前には開け方の分からない門らしいものがある。


「いえ、どちらも違います。 これは冥府への門で君はここから出てきたのですよ。」

「・・・と言うことは僕はやはり死んだんですね?」

「いえ、あなたの結んだ契約では本来、全てが消える。 つまり、魂まで消えるため、冥界に行く事も無かったのです。 それに未だに記憶が残っているでしょう? それが君の結んだ契約が変更された証と言えると思いますが?」

「!? じゃあ妹は!?」

「おっと失礼。 そちらに変更はありません。 ご心配なく。」

「・・・良かった。」

「変更されたのは、対価の方です。」

「でも、契約内容は変更できないと言われた気が。」

「人には、ね。 変更を申し出たのは君が全財産を渡したお酒の好きな女神様ですよ。」

「ミズホ様が?」


ピンクジャージ様の名前はミズホというそうだ。 あの次の日に聞いた。


「君はいい子だ。 消し去るには惜しいと異世界に住まう神々(酒飲み友達たち)にビールを差し入れながら助ける方法が無いか相談してまわったそうです。」

「・・・なぜビールなんですか?」

「彼女の好みと、あとお酒に限らず君が存在していた第119番目の世界の品は神々に好評なため、だと思います。」

「なるほど。 でその結果はどうなったのでしょうか?」

「結果、100柱を超える神々の嘆願により神々の長、君に分かりやすい言い方だと神々の王様によってある儀式が行われました。」


すごいことになっていた。 僕の命や記憶はビール何百本と交換できたようだ。

・・・複雑な心境なう


「その嘆願の内容は君に神格を与えてほしいという事、つまり君を神様にして欲しいということです。 そして現在存在する全ての最高神と連絡を取り、君に加護を与えても良いと言う最高神が存在するのか、を確認しその結果、2柱の女神様が名乗り出られたため、神化の儀式の第一段階が行われました。 君はその女神様たちに対価の一部を肩代わりしていただき、今ここに存在できていると言うわけです。」


・・・もしかしてミズホ様の言っていたクリスマスプレゼントとはこのことなのだろうか?

教えてくれ!! 後何本ビールを買えばいい!?

混乱してます。 はい。


「で、太一君。」

「はい。」

「神になる気はありますか?」

「・・・なるとどうなるのでしょうか?」

「そうですねぇ。 君が得る神格は1、つまり聖人レベルです。 選択肢としては天使として天界の簡単な仕事に従事するか、加護を与えてくださった女神様たちの管理する世界で人助けをするかの二択ですね。 もちろん、恩を仇で返すべく好き放題されてもかまいませんが。」

「・・・。」

「冗談です。」

「・・・分かりました。 神に、というか聖人になって人助けをします。」


元々消えるだけだったこの命、誰かのために燃やすことができるならこれ以上のことは無いはずだ。


「分かりました。 ではついてきて下さい。」




しばらく空の上のような白と青の階段を上ると扉があり、中に入ると神殿のような巨大な建物とその向こうにはさらに巨大な門があった。

門の大きさは少なくとも凱旋門の数倍はあると思われる。

そして神殿に入ると廊下の先に扉があり、その中には・・・


守衛室のような部屋があった。 ぶっちゃけありえない。

おそらく仮眠用のベットが2つ、壁一面にはモニターが、おそらくは100個あるのだろう。

マイクのようなものが大きめの事務机の上に鎮座し、事務イスにはモニターを見つめる女性が・・・


「あ、トーガさんお帰りなさい。 その人が例の男の子かな?」

「はいそうです。 太一君、彼女は私と同じく門番をしている天使のミカナさんです。」

「はじめまして。 天使のミカナです。 これから君のサポートをすることになると思うのでよろしくね。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


ミカナさんは背は170センチくらい、スタイル的には少し細め、茶髪の似合う美人さんだった。


「ところで、例の、とはどういう意味なんでしょうか?」

「ああ。 普段酒を飲んでるか寝てるかのミズホ様がたかが人間一人のために駆け吊り回ったって話題になってたんだよ。 しかも神格まで与えようとしてるって。 君の名前を知らない神様の方が少ないと思うよ? しかも加護を与えると名乗り出た女神様たちも曲者ぞろいだしね!!」

「・・・ははは。」


乾いた笑いしか出てこなかった。

やはり、神格を与えると言う行為は、とてもすごいことらしい。

そしてミズホ様に出会えたという幸運はまさに奇跡だったようだ。

いつか恩返しをしよう。 うん。

あと、曲者って何だ。どういう曲者なんだろうか?


「でも良かったね。 ゲンコウ様の神業はすごいけど何の価値も無い人間一人のために、本来使われることなんてありえないんだよ? 旧ザ〇が、νガ〇ダムを倒すくらいありえないんだよ?」


お歳暮はビールに決定しました。 本当にありがとうございます。

どの位ありえないかはよく分からないがスミカさんの表情を見る限り、尋常ではないのだろう。


「そうですね。 ゲンコウ様が他に助けた人間なんて私は知りませんし。 ゲンコウ様は人間がお嫌いなんですよ。」

「そんな風には見えませんでしたけど?」

「きっとあれだね! シスコン同士通じるものがあったんだよ。 私が知ってる限り助けた人間はみんな妹かその兄だったと思うし!」

「なるほどなー。」


・・・まあ結果よければ全てよし。


「こほん。 さて、太一君。」

「はい。」

「さっそくですが、神化の儀式を行う前に注意事項を説明します。」

「おねがいします。」

「おねがいしまーす。」

「・・・スミカさんは門の監視をお願いします。」

「ちぇー、つまんねーの。」

「・・・まず、君の魂を人の器から神の器へと入れ替える作業があります。 この作業で何割かの人は記憶を失うことがあります。 ただし、それは一時的なものですし、いずれ元通りになるそうです。」

「了解です。」

「次に、器に魂を定着させるために100年前後眠ることになります。 そこで。」


仮眠用じゃないのね。 そしてマジレスするともっときれいなベットがいいな。


「100年も眠って肉体は平気なんですか?」

「はい。 神格が20未満の神は寿命があるので人間の太一君の肉体も本来なら朽ちてしまいます。 しかし、神化の儀式は最高神と神々の長によって行われるため、時間の概念なんてあってないようなものです。 太一君の体感時間では数時間眠るくらいだと思いますし、寿命の減少に至っては、むしろ寿命の倍近くの増加が起こると思います。」

「それは、神様になるからですか?」

「はい。神格はたとえ最低の1であっても肉体の強化や寿命の増加、神業の行使など多くのメリットを与えてくれます。」


知らない単語についても聞いておくべきかな?


「まあ、とりあえず儀式やってもらってねんねしなよ! いたずらはしないからさぁ!!」

「スミカさん?」

「なんでもないでーす。」

「・・・とにかく儀式場はこの部屋に来る途中にあった部屋です。そこで、神様たちが全員揃い次第行いますので、太一君はこの薬を飲んでベッドで寝ていてください。」

「・・・分かりました。」


いつの間にかトーガさんの手には水色の液体の入ったドリンク剤のようなビンが握られていた。

そして、話もそこそこにベットに座り、薬を飲むと強烈な睡魔に襲われ、僕はすぐに眠ってしまった。


 

回想は終わりです。

一話に戻ります。

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