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ある天使は言った。「あえて言おう。 無駄である、と。」

注文した日の翌朝。

僕は2人と訓練していた。

イリスの青魔法とエルマの黒魔法はかなり上達していたが、まだまだ甘い。

僕の白魔法は、白熱電球に手をかざしたくらいの熱量までしか上手く制御できないため、拷問には使えるかもしれないけど戦闘中に使えない。

・・・まあ、懐中電灯にも劣った最初と比べると随分上達したと思うけど。

そのため、最近は体術より魔法の練習を進めている。

妖魔との戦闘ではあまり役に立たないことが多いので、対人戦は自警軍の依頼が出されている間はそっちでやることにした。


「そういえばさ。」

「何よ?」

「なんですかぁ?」

「エルマは分かるけど、イリスは何で弓と盾を注文したの?」

「それはぁ、イメージしやすいからですよぉ。」

「イメージ?」

「はいぃ。 戦うときに私の魔法だとぉ、飛ばしたり盾を出すことが多くなりそうなんでぇ。 だからぁ、弓と盾を触媒にしたらいいかなぁってぇ。」

「なるほど・・・。」

「ま、シュユにはしばらく必要ないでしょうね。」

「・・・そうだね。」


朝食後。

アリアさんとオリビアにインゴッドを渡した。


「お土産です。 アリアさんに必要かはわからないですけど。」

「ありがとね。 装備を強化しようかと考えてたとこでね。 助かるよ。」

「サンキュー。 なに作ろうかなー。」

「そういえば、獣魔の討伐依頼が来てるんだがシュユも来れるかい?」


傭兵団にきた魔獣の討伐依頼はアリアさんとオリビアの2人が処理しているが、妖魔や獣魔の討伐依頼は3人で行くようにしている。


「はい。 対象はなんですか?」

「シャドーボバックらしい。 妖魔がいたらそれも、だけどね。」

「そうですか。 で、いつごろ出発しますか?」

「準備が済み次第、で頼む。」

「了解です。」


ということで1日山狩りをした。

シャドーボバックにシャドーバックルなど獣魔を7匹討伐したけど、妖魔は発見できなかった。



翌朝。


「火球撃!!」

「ふっ。 はっ!!」


エルマの放った、黒魔法によって強化された火炎魔法を避ける。

ちなみに漢字なのは、僕が漢字は1文字で意味を表す、ということをいったらイメージに反映させやすいから教えて、と頼まれた為である。

発声することでより鮮明なイメージを描き、黒魔法によって具現化しているらしい。


「次行くわよ!! 雷鞭!!」

「くっ。 はあっ!!」


雷鞭は、雷を鞭のように振るう中級雷魔法の強化版である。 元々広範囲の敵を感電させ、動きを鈍らせる魔法なので、強化後には触れると意識が飛びそうになる上にヘビのように絡み付こうとする。

・・・エルマが操作してるんだけどね?


「さすがに慣れたようね。」

「おう。」


速度も相まって完全に避けきれないけど、エルマの操作を読むことでハルバードによって打ち消すことが最近出来るようになった。


「新技行くわよ。」

「えっ。」

「連岩角!!」

「ふぅっ。 はっ。 せい!!」


地面から斜めに撃ちだされた岩の槍は、僕を貫こうと伸びてきた。

かわしきれない部分はハルバードで切り崩した。


「やっぱ速度が足りなかったわね・・・。」

「当たったらまずそうだったけどね?」

「大丈夫よ。 イリスの練習になって良いじゃない?」

「・・・即死じゃなかったら、だけどね。」


イリスは青魔法による治療をカシアさんに習っている。


「じゃあぁ、次は私の番ですねぇ?」

「うん。 頼むよ。」

「ではぁ、水の矢ぁ!!」

「おっと。 ん!! はっ。」


イリスも漢字魔法使い(命名、僕)である。

水を生成、矢のように飛ばし水圧で相手の体勢を崩す魔法である。

・・・将来的には水圧で貫通するらしい。

とはいえ、今は消防車の放水にさえ負けてるけど。


「次はぁ、剛水波ぁ!!」

「はああっ!!」


迫り来る水の壁を断ち切る。

ハルバードには破壊が付加されているため、魔法を切りつけると制御不能にできる。

破壊効果は、僕の意思を汲み対象を決定していることがエルマの分析で明らかになっていたので、避けるだけだった前の訓練を変更し、今に至る。


「むぅ。 じゃぁ、私も新技いきますよぉ?」

「・・・おう。」

「巨水連弾!!」

「なっ!? はっ、せい!! らあっ!! ふっ。 はっ、ぐうっ!?」

「当たりましたねぇ?」

「はぁっ。 今のは凄いね。」


直径70センチくらいの水の塊がバレーのスパイクのように連続で撃ちだされた。

撃ちだすタイミングと位置を操作しているのか、避けた所や進路を塞ぐように飛んでくるし、切りつけても残った水はそのまま突っ込んでくる為、避けきれなくなってしまった。

・・・プールで飛び込みに失敗したときみたいな痛みだな。


「練習をお風呂でしたんですよぉ。」

「それはやめなさい。」

「・・・はいぃ。」


イリスは公衆浴場の清掃など、水流操作によって仕事を請けているがどうやら仕事中にも新技開発をしているようだ。

・・・今の所、請求書は来ていない。


「でも、あの速度であの大きさを生成できるようになったのね。」

「すごいでしょぉ!!」

「ま、あの威力じゃ魔獣も倒せないけどね。」

「・・・そうなんですよねぇ。」


青魔法は直接的な攻撃向きではない。

相当の熟練者なら水圧で鎧を断つくらいできるけど、普通は溺死させるくらいである。

・・・それも出来るようになるのはかなり上達してからだけどね。

ただし、自由を奪ったり壁を作って攻撃を受け止めるなど防御に関しては最も簡単に可能となる。

青魔法と茶色魔法は実際に水や土を生成する為、守りに使いやすい反面攻撃への応用は知恵を必要とするのだ。


「あの壁は十分実戦レベルだったよ。 剛水波、だっけ? あの量の水を生成できるようになってるとは思わなかったよ。」


おそらく300リットルはあった。


「そうね。 私も負けてられないわ。」

「・・・ありがとうございますぅ。 もっと訓練しますぅ!!」

「じゃ、続けようか。」


2人は凄い速度で魔法が上達している。

エルマの話だと、僕の魔力が増えることで2人のコアが驚異的な速度で成長しているため、らしい。

魔力の無駄が大きかったとしても僕の魔力が十分にあるため魔法が発動し、その感覚を覚えることで上達する、という魔力的にリッチな条件が2人を強くしているようだ。


朝食後。

昨日の依頼主が妖魔の探索隊を出したそうなので、明日以降討伐依頼が来るかもしれないとアリアさんに言われた。

ギルドへ行き、依頼を見たけど良いのがなかったので自警軍へ行った。



翌日。

ギルドへ行くと変わった依頼を見つけた。

内容は、狩りの手伝い。 条件は前衛職の男性の傭兵であること。

ここまでは珍しいことではない。

男性限定の依頼はよくある。

・・・男性ばかりのチームに助っ人とはいえ女性が来るとトラブルを招くからだ。

変わっているのは依頼主が匿名であることだ。

本来、ギルドは依頼主を公表する。

理由は当然メンバーが安心して働けるように、である。

ただ暗黙のルールとして匿名となるケースがある。

ギルドにある程度の発言権を持つ人からの依頼、である。

信頼は出来るが依頼中の出来事などは守秘義務が生じるし、当然その誓約を破れば少なくともビスト帝国内でギルドから依頼を受けることは不可能となる。


「すいません。」

「あっ、シュユさん。 おはようございます。」

「おはようございます。 この依頼のことなんですけど。」

「ああ、その依頼ですか・・・。」

「どう、したんですか?」

「ええ。 実はその依頼はとある方の依頼なのですが・・・。」

「が?」

「詳しくは私も知らないのですが、男性限定なのは訳ありらしいんですよ。」

「訳あり、ですか?」


・・・どういう訳なんだろうか?


「面接があるそうなので、請けるつもりなら依頼主に連絡しますが。」

「面接ですか・・・。 依頼が出たのはいつですか?」


ギルドは24時間営業である。

依頼はいつ出されるかは分からないので交代でギルドに張り付いているチームもいる。


「えっと、昨日の夕方ごろですね。」

「面接を受けた方はいままでに何人ほどいますか?」

「まだ誰も。 この街だと面倒なことになりそうだから、って受けてくれる方は少ないんですが今回の依頼の男性限定ってとこも相まって話は聞かれるんですが面接までは・・・。」

「そうですか・・・。 ところで報酬額が歩合、となってるんですけどどういうことですか?」

「それは私には分かりません。 面接で直接お聞きになったほうが良いかと。」

「・・・。 じゃ、請けます。」

「ありがとうございます!! では、面接の時間を確認いたしますのでギルドカードを。」

「えっと・・・はい、どうぞ。」

「確かに。 では、少々お待ちください。」


正直、最近依頼内容が同じようなものばっかりで飽きていたので、この変わった依頼に興味があった。


で、5分後。


「お待たせしました。 まずはギルドカードをお返しいたします。 面接の時間ですが、出来るだけ早く来て欲しい、とのことで、こちらが地図です。」


ギルドカードと共に渡された地図には印がつけられていた。

・・・やっぱり高級住宅街に印がある。


「ありがとうございます。 では、早速行ってきます。」

「いってらっしゃいませ。」


20分後。

大きな屋敷の前に到着。


「すいません。」

「ん? なんだね?」

「ギルドで依頼を請けて来たんですけど、地図に印が付いている場所はここで合ってますか?」

「どれ・・・ああ、この家だね。 ちょっと待っててくれ。」


門番に取り次いでもらった。

中に案内され、とある部屋で待つように言われた。


「お待たせしました。 あなたがシュユ様で、間違いないでしょうか?」

「はい。」

「では、念のためギルドカードを提示していただけますか?」

「はい、どうぞ。」

「では、少々お待ちください。」


5分後くらい。


「確かにシュユ様であることを確認させていただきました。 これはお返しします。」


ギルドカードを受け取った。


「早速ですが面接を始めさせていただきます。 まずは今回の依頼内容ですが、とある方の狩りに同行していただき、護衛を勤めてもらいますがよろしいですね?」

「はい。」

「では次に、あなたは天使様ですよね?」

「ええ。 そうですが。」

「今までのあなたの態度を見れば問題ないとは思いますが、護衛対象となる方に対しても礼儀正しく振舞っていただきますが、よろしいですね?」

「もちろんです。」

「では最後に、あなたがどのようにして護衛対象を守るつもりか教えていただけますか?」

「はい。 アルタイル。」


アルタイルを召喚した。


「!? これが神業、でしょうか?」

「はい。 この子はアルタイルといって僕の指示や思いを汲み、シールドを展開します。」

「なるほど・・・。 では、実際にその強度を見せていただきたいのですが、よろしいですか?」

「はい。」

「では、ついてきてください。」


少し歩き中庭に到着。

おそらく私兵の人たちが訓練をしていた。


「ダグ、きてくれるか?」

「はい!! ・・・なんでしょうか?」

「彼の実力を見たい。 手伝ってくれ。」

「了解です。」

「ではシュユ様、彼との模擬戦をお願いします。 シュユ様はその的を守りきってください。」


指差れた所には人型の訓練用の的があった。


「私が止めるまで、あの的を守りきれたら合格とします。 よろしいですね?」

「はい。」

「では、用意してください。 ダグ、あの的を攻撃しろ。」

「はっ。」

「・・・用意できました。」


籠手を装備し、的の前に立った。


「では、はじめ!!」

「貫け!!」


ダグさんは、火炎の槍を3本撃ちだした。


「デネブ!!」


デネブを召喚する。

デネブはイメージどおり的の前でシールドを展開、槍を受け流した。


「凄いな・・・。 なら、打ち砕け!!」


上空に生成された大岩が降ってきた。


「アルタイル!! 受け止めろ!!」


召喚されたアルタイルは空へと舞い上がり、シールドで岩を押し返した。

岩は、的の反対方向へと落ちた。


「ならこれならどうだ!! 猛き精霊たちよ、我が魔力を糧にその力を振るえ!! ブレードダンス!!」


ブレードダンスは、まず地面や空気中から砂利や塵を集め、風に乗せて連続で打ち出す。

高速の風で吹き付けられた砂利は対象の表面を削り取る、という中級の風魔法である。


「デネブ!!」


的を守っていたデネブにシールドを維持させる。

シールドは後方へと暴風と砂利を難なく受け流す。

おそらく、この魔法は何かの布石じゃないかと思う。


「そこだ!! 刺し貫け!!」


地面から岩の槍が勢い良く生えて、デネブへと迫る。

・・・そうか。 さっきの魔法でシールドの性質を見たのか。

おそらくシールドの先端にピンポイントで攻撃すれば受け流すことが出来ない、と踏んだのだろう。

実際それは合っている。

ハルバードの刃が受け流せない唯一の場所がそこだった。

・・・ただ。


「なに!?」


シールドに触れた岩の槍は難なく受け止められ、砕け散った。

受け流すシールドが受け止めてはいけない、なんて誰が決めたのかな?

全ての盾がアトラスの破壊槌で、本気で何度も殴りつけたが傷1つ、つかなかったのだ。

並大抵の攻撃では何をしても無駄である。


「そこまで。 シュユ様、実力は確かに確認させていただきました。 では、こちらへ。 ダグ、片づけを。」

「・・・はい。」

「ダグさん、ありがとうございました。」

「こちらこそ、いい経験をさせていただきました。 カクト様をよろしくお願いいたします。」

「は、はい。」


カクト様って誰?

・・・護衛対象のことかな?



お読み頂きありがとうございます。

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