神は言った。「枝豆な。居酒屋で冷凍とか出されると奇跡起こしたくなるよね。悪い意味で。」
女性は引いていた。 ドン引きだった。
「・・・えっと、千円で良いから。顔上げて、てか立って? 誰か来たら完璧アウトだから。」
さっきまで見ず知らずの人に嬉々としておごらせようとしていた彼女でも土下座はNGらしい。
そして、千円は必要経費のようだ。
「ほんとに妹は助けてもらえるんですか!?」
「近い!近い!」
「すいません。なんかテンション上がっちゃって。」
「分かるよ。その気持ち。でも傍から見たら中学生を手篭めにしようとしてる変態にしか見えないからね? おまわりさんこっちですって感じだからね?」
そんな感じらしいので距離をとった。
別にこの女性の言う嘆願書が本物であると信頼しているわけではないが、少なくとも反応から見て悪い人ではなさそうだ。
「でも、きみいくつなの? ほぼ毎日来てるみたいだったから気になってたんだけど。」
「18歳です。現役DK(男子高校生)です。」
「ドンキーコ〇グじゃなくて?」
「ええ。体育の授業中に体育座りしている後姿はまさにそれらしいですけど顔はイケメンなのでセーフです。」
「・・・そうね。確かに顔は悪くないわね。 何がセーフかは分からないけど。」
「あだ名が、DKじゃなくアトラスだ、って意味でセーフです。」
「・・・DQの?」
「DQの、です。」
あれは、高校二年生の時、文化祭で他薦コスプレ喫茶をやったときだ。
他薦とは、どんなコスプレをするかを自分以外のクラスメートに決められてしまうと言う意味であり、文化祭は二日あるため、候補のうち投票結果から上位三つのうちから二つ選ばせてもらえると言うものである。
初日と同じ格好では飽きられると言う意見と、衣装を手作りできる人が多かったと言う事実から手の込んだ衣装六十四着(クラスの人数は三十二人)を二週間で用意すると言う荒業を成し遂げた。
のだが・・・当然裏方までコスプレし、かつ統一性は皆無のため評判は良かったがカオスだった。
そして僕に与えられた選択肢は、アトラス、西洋の軍服、そしてDKだった。
DKを選べばあだ名はDKに固定されてしまうことは目に見えていた。
軍服は、正直本物かと思ったし男子のコスプレの中ではダントツで人気だった。
身長191センチ、体脂肪率5%という軍人並みの体格を持つ僕にどちらの衣装も良く似合っていた。
そう、どちらの、衣装もである。
僕は体格的に室内の作業では邪魔だと判断され、二つの格好で校内やグラウンドを回り呼び込みをした。
その結果、あだ名はリアルアトラスと大佐になった。
アトラスの衣装はお面と棍棒、原始人風の衣服というガチぶり。
あのポーズで取られた写真は、妹に好評だったので良しとしたがはっきりと言って
馬鹿どもに決定権と技術与えた結果がこれだよ!!
って感じであった。
「・・・強く生きてね。 リアルに強そうだけど。」
「ええ。 ありがとうございます。」
「まあ、嘆願書だしとくから。 期待しといてね。」
と右手を出されたため、まさに神に祈る気持ちでそっと一野口を女性に握らせた。
一野口は千円です。
回想シーンはしばらく続きます。