奇跡は起こすもの(※但し神に限る)
主人公はシスコ・・・げふんげふん
あの日。
本当なら体を起こすのも辛いはずの妹が精一杯の笑顔で送ってくれたあの日。
そして僕の人生最後の日。
僕にあんなに余裕があった理由は、妹は次のクリスマスどころか少なくともあと60回はクリスマスを過ごせると知っていたからである。
神の奇跡によって。
時はさかのぼって10日前の休日。
まだその日の昼ごろまで僕は絶望していた。
理由は言わずもがな。神の奇跡は起こらず、医学の進歩も間に合わない。
妹の体調は日に日に悪化しているのが医学の知識の無い僕にも分かった。
そして、最近は看護婦さんや担当の医師が妹に甘い。
・・・もう余り時間は無いようだ。
しかし、できることはもう神頼みしかないという絶望感に打ちひしがれつつ日課であるお参りに行った。
うちの近くの神社には、安産と無病息災を司る神様が祭られているそうだ。
しかし、参拝客はいついってもほぼいない。
管理こそ最低限行われているようだが、賽銭箱にはほぼ僕の入れた分しか入っていないのではないだろうか?
しかし、やれることはやっておこう。信じるものは救われるのだ。 神話的には。
とにかく今日も神に祈りをささげた。
「妹の病気を治してください。 お願いします。」
と小声でささやくと
「アトセンエンデキセキガオコルカモ」
と聞こえた。
・・・幻聴かな。
「エダマメトビールモソナエルトイイカモ」
周りに人はいないが明らかにこの神社には不釣合いな大きさの賽銭箱の裏から声が聞こえる。
・・・とりあえず乗ってみようか。
「ビールは何でも良いんですか?」
「!!・・・エビスデ」
高いとこ攻めるね。タダ酒はウマいと祖父は言っていたし、こやつも馬鹿な男に酒を買わせることができそうで強気なのだろうか?
現状、声から性別を判断できない。しかし、近所の子供たちから「マジ大人気ない。」とか「テラ鬼畜www」と言われる僕に手加減と言う概念は存在しない。(ただし接待という概念は存在する。)
野球に混ざれば、外野からホームへレーザービーム。
サッカーに混ざれば、僕の守るゴールへのシュートは敵へのパスと変わらない。
バスケに混ざれば、基本ダンクなどなど。
大人気ないとか言いつつ毎回うちへ僕を誘いにくるあの子達はきっとマゾ太君なのだろう。
ちなみに、父親や兄貴(明らかに体育会系)を呼び「勝負だ!!」とドヤ顔で言われたときは、まず心を折る作戦を立てるのが基本である。
・・・つまり僕は相手が誰であろうと容赦はしない。(ただし妹は除く)
しかし、明らかに僕をおちょくっている人であってもジャスティスパンチを叩き込むのはマズイ。
絞めるか、決めるか迷っていると
「ア、アトエダマメハナマノヤツネ。レイトウハパスデ。」
と賽銭箱の真ん中あたりに金色の缶を持った白い腕が見えた。
・・・女性なのか? だとしたらどっちもマズイ。
母(元レディースの総長)は、喧嘩で使える技を酔っ払うと僕に伝授したがる。
素手での喧嘩を貫いていただけあって実用性は星三つなのだが、「女性に振ったら潰すから。」とケラケラ笑いながら言う母の目は笑っていなかった。
つまり、女性に乱暴するとデス オア ダイなのである。
よし。素直に話をしよう。
「えっと、この時期にそれは難しいと思いますよ?」
「そうなの? ジャナカッタ。ソウナノ?」
「はい。後僕は未成年なのでお酒は買えないんですよ。」
「えっ・・・マジデ」
時々かわいらしい声が聞こえるのは素に戻っているからだと思う。
「はい。 えらくマジです。」
「テッキリニジュウダイカト。 ナラオカネクダサイ。」
「・・・お金あげてもいいんですけど、せめて顔くらい見せてください。」
「え、くれるの!?」
と賽銭箱に乗り出してきたのはほんのり顔を赤くしたピンクのジャージを着た女性だった。
ビール缶が似合わない、かわいい系の顔立ちのこの人こそ何歳なのだろう?
しかし、こんな人町内で見たことは無いのだが。
「そうですね。千円で奇跡を起こしてくれるなら。」
なかなかいいきり返しだと我ながらおも「いいよ!!」
「えっ?」
「妹が病気なんでしょ? 千円で神様に嘆願書出してあげるよ。 まああの人もシスコンだしちゃんと対価を支払えば余裕で治してくれるっしょwww」
いや、知らないよ!! というか
「あの人って誰なんですか?」
「この世界の最高神補佐だっけ?」
補佐の立ち位置が分からないが
「じゃ、一万円でお願いします!!」
と言いつつ僕は土下座した。
次回に続きます。