とある夫婦は言った。「娘の恋人かと思った。」
翌日。
ギルドへ行くとアリアさんからの手紙を渡された。
内容は明日の昼、ギルドで会おう的な内容だった。
とりあえず、討伐系の依頼から畑を荒らす魔獣を狩って欲しい、というのを選んだ。
報酬は平均的ではあるけど、感謝してもらえる可能性は極めて高いため選びました。
やらない善より、やる偽善的な言葉を聞いたことがあるけどまさにそんな感じである。
少なくとも魔獣しか困らないしね。
魔獣は瘴気に魂が汚染された生物のことであるが、その度合いによって行動は変化する。
魂のうち、5割まではその生物の生体に基づいた行動をとる。
そのため、今回の依頼は草食獣が魔獣化したのが餌を得るために畑を荒らしていると考えるのが妥当である。
5割を超えると、基本的には妖魔と同様の行動をとるようになる。
どんな生物も凶暴になり、自分以外の生物を捕食対象と捉えるようになる。
当然、草食獣でも血肉を喰らうようになる。
魔獣化した獣は肉体が強化されるため、群れで行動する生物、この辺りでは狼のような生態のルブズ、ピラニアとカエルの中間のような姿の両生類ピラドなんかが危険視されている。
瘴気を群れで浴び、全体で魔獣化するというのはよくあることらしい。
ただし、1匹が5割の線を超えると群れの仲間も餌にしてしまうため、一気に壊滅することもまた良くあるらしい。
とはいえ、瘴気は妖魔の吐き出したマナのため、魔獣の存在はすなわち、妖魔の存在を示す。
つまり、魔獣を狩るよりも妖魔を狩った方が明らかに効率が良さそうではあるが、大抵の妖魔は好き嫌いが無いらしく、豊かな森とか湖などに引きこもることが多いため、発見自体が困難なのだ。
・・・僕が倒した2体の妖魔はたまたま人里に近いとこまで出てきていただけらしい。
ただし、歴史に名を刻むような凶悪な妖魔は、豊かな国を餌場とみなし、食い散らかすそうだ。
神界にあったあの店の武具には妖魔の名前が多く書かれていたのは、そういった妖魔は超高密度のマナを秘めているため、神による加工にも耐えられるからだ、と聞いたのを思い出した。
・・・僕の使っている籠手も元はそういったものだと思うと微妙な気持ちになる。
・・・とにかく、少しでも多くの妖魔と魔獣を狩ることが下級神への近道であることは間違いないはずだ。
そんなこんなで農場へ到着。
ここ、ゴバト牧場は広大な土地で様々な作物の栽培と放牧による畜産を行っている。
この辺りでも有名な農場で、アーズダインの食料品の多くはこの農場産である。
当然、獣除けの柵はあるし、監視もしているが最近の急激な魔獣の増加によって畑に侵入した奴らだけで手一杯らしく、そばの森に入って魔獣、出来れば妖魔も狩って欲しい。
・・・という説明を農場主のクラウス・ゴバドさんから受けつつ用意していただいた昼食を頂いた。
昼食後、早速森へと入った。
マナの生成量が多いため、瘴気の影響を受けにくい植物は元気に茂っているが生物は見当たらない。
・・・魔獣たちに食われたのか、食べられそうな木の実もキノコも無かったけど。
しばらく森の奥へと入り込んでいくと鹿のような角を持つイノシシ、ボバックの群れと遭遇した。
幸い、魔獣化はしていなかったので手出しせず探索を続けた。
で夕暮れ時、森の中が暗くなり始めたときに今度は魔獣化したルブズの群れと遭遇した。
13匹のその群れを駆逐した後、その奥に川が流れていたため汚れを落とし、凍結箱に入れておいた夕食を食べた。
アリアさんとの約束のことを考えると日付が変わるころに帰還を開始すればいいので、もう少し探索することにした。
深夜。
ちまちまと魔獣を狩りつつ妖魔を探すが、結局終了時刻になっても見つけられなかった。
適当に開けた場所でバイクを召喚し牧場へと帰った。
翌朝。
昨日の仕事内容を報告し街の宿へと戻った。
宿に着くと、エルマに出迎えられ、部屋に戻り僕は仕事内容を話し、エルマから2人の昨日の様子を聞いた。
昼。
昨日の報酬を受け取った後、ギルド内の待合室に3人でいるとアリアさんと見知らぬ女性に声をかけられた。
「やあ、久しぶり。 ・・・その二人は?」
「お久しぶりです。 この子達は僕の使い魔で、セイレンのイリスとバンディアのエルマです。」
「二人ともよろしく。」
「よろしくお願いしますぅ。」
「よろしく。」
「しかし、この短期間で使い魔を2体も増やすとは、さすが天使というべきかな?」
「そうですねぇ、こういうのは縁ですから、たまたまですよ。」
「そうかい? でも、黒魔法を扱えるバンディアを奴隷化じゃなくわざわざ使い魔にした理由は何かあるのかい?」
エルマは、黒魔法を扱えるの辺りで目を逸らした。
「いえ、特には。 ただ、かわいかったので。」
「はぁ!? やっぱりロリコンだったのね!! 骨折すればいいわ!!」
「しねえし!! 天使は骨折しねえし!!」
すると思うけど。
「ま、まあいい。 で、そっちのセイレンの子は?」
「ホームレスで神待ちだったらしいので、うちで引き取りました。」
「引き取られましたぁ。」
「・・・。 そうかい。 まあ、セイレンの祝福はとても便利だし損はないだろうね。」
「ええ。 で、そちらの方は?」
「ああ、シュユが街を出た後にうちに入ってくれた新人だよ。」
「初めまして、天使様。 私は、オリビア・タムード。 傭兵見習いです。 オリビアって読んでください。」
オリビア・タムード、19歳。
160センチくらいの身長で、ウェーブのかかった若布みたもとい緑色の髪、ブリガンダインのような軽装の鎧に片手剣と片手斧を腰に下げ、薄い水色のグリーブというすぐ戦えます状態の彼女は、アリアさんのスカウトで先日傭兵団に入ったそうだ。
ちなみに僕のことはアリアさんから聞いたらしい。
「こちらこそはじめまして。 シュユ。 天使見習いです。」
「見習い、なんですか?」
「ええ。 まだ天使になったばかりですから。」
「・・・さて、自己紹介も済んだし本題に入ろうか。 わざわざ連絡してきたってことは用事があるんだろ?」
「ええ。 あれから色々考えたんですけど、僕も傭兵団に入ろうかと思いまして。」
「うちに、かい?」
「できれば。」
「・・・あの時は他にとられる前に、って思い切って声をかけたけど正直わざわざうちを選ぶメリットは無いよ。 天使様ならなおさら、ね。」
「ええ、そのとおりです。」
「・・・じゃあなんでうちにしようと思ったんだい?」
「実はほかの傭兵団も見て回ったんですよ。」
「なら、うちがオリビアみたいな新人でさえ勧誘が難しい状態だって分かったんだろう?」
「ええ。 構成員の質で比べればクローム傭兵団は下のほうですね。 請けている仕事もだいぶ下のものばかりになったとか。」
「・・・ああ。」
「でも、僕はクローム傭兵団を選びます。」
「何故、かな?」
「アリアさんが美人だからで「はぁ!? あんたやっぱり死になさいよ!!」」
「こら、エルマ。 静かにしてなさい。」
「あんたこそ黙ってなさいよ!! 何ふざけたこと言ってんの!!」
「・・・で、シュユ君。 本当の理由を教えてくれるかな?」
「正直、おっさんたちのむさい傭兵団より100倍いいかなぁーって。 エルマだっておっさんたちにジロジロ見られるよりはアリアさんやオリビアみたいな女性の方が話しやすいでしょ?」
他の傭兵団はめんどくさそうなとこか、野郎ばかりのとこだった。
「ま、まあそうだけど。 それとこれとは別でしょ!!」
「仕事は別々でも請けられるんだから、強そうなとこより居心地が良さそうなとこの方が何かといいでしょ?」
「そうですねぇ。 アリアさんは優しそうですしぃ。」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど、いいのかい? ウマい仕事はほとんどないよ?」
「僕たちは天使と精霊ですから、食い扶持さえあれば問題ないです。 それに、天使は公務員なので天界に戻れば月収がありますし。」
「そ、そうなのかい? なら、よろしくお願いしようかね?」
「はい。 こちらこそよろしくお願いします。 で、2人はどうする?」
「私もお願いしますぅ。」
「い、一応私もお願いするわ。」
「ああ、よろしくね。 これでやっと5人のパーティが組めるねぇ!! オリビア!!」
「はい!! やっと傭兵団ぽくなりますね!!」
「あ、それ無理です。」
「「えっ?」」
「この2人、戦闘に参加できませんから。」
2人は気まずそうに目を逸らした。
「使い魔なのに・・・かい?」
「ええ。 ただかわいいから契約しただ「だから、それ言いふらすのやめなさいよ!! 呪うわよ!!」・・・出来るの?」
「・・・まだ出来ないけど。 いつか出来るわ!!」
黒魔法は、直接使うのではなく人や物、魔法に対して使う、いわば付加魔法の一種である。
魔法の効果を高めたり、肉体強化術のように使ったりと汎用性はかなり高く、エルマが言ったようにデメリットを付加する魔法も数多くあるらしく、それらを特に呪術と呼ぶそうだ。
しかも、精霊魔法のため熟練度によって性能は向上するので一定の効果しか示さない通常魔法でも飛躍的に、効率的に強化できる上にどんな魔法にでも付加できる。
だから、黒、らしい。
生まれつき黒魔法が扱える人種は少なく、精霊種を奴隷化して習得するのが一般的である。
・・・エルマを奴隷化しても扱えるようになるのかな?
「2人も討伐系以外なら参加できますから。 そういうのは僕が担当します。」
「そ、そうかい。 まあ、天使様が加わってくれるんならそれで十分だよ。」
「そ、そうですね。 私も頑張らないと!!」
「・・・で、早速で悪いけど仕事の話をしてもいいかい?」
「はい。」
「実は父の知り合いの住む村の近くで妖魔が出たらしい。 報酬は少ないが、うちを贔屓にしてくれているところでね。 私1人じゃあどうしようもなかったんだけど・・・力を貸してくれるかい?」
「もちろん。 でもオリビアは妖魔をいきなり相手にしても大丈夫なんですか?」
「いや、オリビアには魔獣を相手にしてもらう。 私とシュユのサポートも兼ねてもらうけどいけそうかい?」
「はい!! 頑張ります!!」
「いい返事だね。 じゃあシュユ、この後すぐに出てもいいかい?」
「私たちはどうしましょうかぁ?」
「そうだね、うちで子守でもしてもらえると助かるんだけど。」
「分かったわ。 シュユばかり働かせるのはさすがにまずいかなって思ってたのよ。」
「いまさらですぅ。」
「悪かったわね!!」
「私もお仕事がんばりますぅ。」
「2人ともよろしくね。」
・・・まあ、やる気になったくれてるみたいだしいいか。
その後、宿に戻り荷物を全て持ってアリアさんの家に移動した。
もっと大規模な傭兵団だったときに建てた自宅兼宿舎なので空き部屋がいくつもあるらしく、アリアさんのご両親も喜んで迎えてくれた。
ちなみに、オリビアも住んでいる。
でイリスたち2人の部屋の整備をしたあと、僕たちは買出しに、2人は仕事内容等をアリアさんの母親に教わった。
その後、アリアさんとオリビアの準備が終わるのを待ち、初めて出る門から出発した。
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