ほのぼのだと思った? 残念、戦闘回でした!!
「あの子にしよう!!」
キイチは早速談笑している一団で楽しそうに笑っている女性に目をつけた。
おそらくハーピアだと思う。
「自分とは合わないとか言ってなかったっけ?」
「いいんだよ!! 俺が合わせれば問題ない!!」
今さらそれ言っちゃうの? 遅くなーい?
「じゃ、声掛けてくるから。」
「うぃ。」
キイチが話しかけている。
「あいつ、面食いっていうんだっけ? あんなかわいい子を狙うとか身の程を弁えるって言葉を知らないのかしら?」
「まあ、初めからからハードルを下げるのは良くないしね。 まあ、多分もう相手がいそうだけど。」
かわいい子を狙うなら失恋直後しかない、とまでは言わないけどイベントの内容を考えると今更狙うべき相手ではないと思う。
それに、その子よりその3つとなりの素朴な感じの犬耳の子のほうがキイチにはあってると思う。
女の子に挟まれてるし、まだ可能性がありそう。
で、彼らは昼食等を買い込み夕方ごろまで近くの森で狩りをするらしい。
狩りといっても、本気のものではないそうだが・・・。
交渉の結果、僕たちも混ぜてもらえることになり、ほぼハーピアのグループ15人と行動を共にすることになった。
で、昼前。
森を抜け、湖の周りを回った後、丘を越えた先にあるキャンプ場のような場所に到着した。
狩りを真剣にする場合、ここが最初のベースキャンプになる場所らしい。
ここから見える高い山には上級者向けの狩場があり、普通は行かないそうだ。
その手前の深い森が目的地らしく、手ごろな獣とキノコや山菜、薬草なども自生する豊かな森らしい。
ただ、妖魔の出現により、最近は入る人が少なくなっているため、たくさん採集ができるかもと楽しそうであった。
・・・妖魔ねえ。
「エルマが生まれたのはこの森?」
「ええ、 あの向こうに見える大きな木の向こう側にある洞窟の中で生まれた、気がするわ。」
・・・ここからでも空へとまっすぐ伸びる塔のような大木が見えた。
精霊は最初妖精と呼ばれる状態で生まれ、この時はあまり自我は見られず、種族や名前をもたない。
その後妖精はマナを吸い、コアが一定の大きさになると卵のようになり、孵化して精霊が生まれるらしい。
この時、祝福を受け、名前と種族を与えられるそうだ。
「あの木は夢想樹と呼ばれる木なの。 神によって創造された木で膨大なマナを撒き散らしているわ。」「撒き散らすって?」
「あの木の周りは更地みたいになってるわ。 膨大なマナを撒き散らすことで身を守ってるらしいの。 普通の生物は近づくだけでマナの吸いすぎで死ぬけど、そのときすごく本人は気持ちよくて夢見たいだから夢想樹って呼ばれてるらしいわ。」
夢想樹のようにマナを供給する樹木は世界中に存在し、その周りには豊かな森と精霊たちの住処がおおくあるそうだ。
ちなみに、天使でも近づいて死んだ人はいるらしい。
・・・覚えとこう。
「ここで飯を作ってみんなで食べるらしいから、手伝いに行こうぜ!!」
「そうか。 じゃ水を作ろうかイリス。」
「はいぃ。 特訓の成果を見せてみますぅ。」
精霊魔法の特訓により、僅かではあるが、最初より水を効率よく生成できるようになった。
グループ内には、イリスを初日に見かけた人もいて僕の使い魔になったと聞いたら微妙な顔をしていた。
昼食のメニューはシンプルな煮込み料理と持ってきたベーグルサンドのような食品である。
・・・カレーではなさそうだ。
僕は野菜の皮むきをした。 ナイフの訓練と称してサトイモやジャガイモの皮むきを祖母にさせられていたため、皮むきだけは得意である。
ただ、この世界の野菜自体知らないものが多いため、皮むきは少し手間取った。
エルマとイリスは数人の女性と魚の調理、キイチたち残りの男性陣は火起こしをしていた。
皮むきが終わった後はその他の準備をし、調理を見守った。 ハーピアは主に女性が料理するらしい。
昼食。
味は良かった。 皮むきが上手だったとキイチの狙う子に褒められたため、キイチから視線を感じた。
で食後。
少し談笑したあと、狩りに出かけた。
「シュユ君は魔法使いなの?」
「いえ、戦士ですよ。」
彼女は犬のような耳と尻尾を持つ種族バウンドの女性、ハンナさんである。
朝キイチにお勧めだと思った女性だ。 彼女はハーピアの友人と、この前行ったアーズダインで働いているらしい。
その友人がキイチのターゲットらしく、今回のイベントは休日を友人の実家で過ごすために付いて来たらイベントに参加することになったそうだ。
ただ、友人がもてるため、団体行動中はハーピアたちは友人の方と話したがり、気になる相手も特にいないため暇だったそうだ。
・・・やはり狙いは正しかったようだ。
で、暇そうにしていたため僕から話しかけ今に至る。
「でも、武器を身につけてないんですね?」
「いつでも出せますから。 ・・・こんなふうに。」
ナイフを出してみせた。
「すごい!! この魔法ってすごく難しいって聞いたことがありますよ!!」
「い、いえ、これは武器にそういう力があるだけですよ。」
なんか食いついてきた。
「そう、なんですか? ・・・付加魔法かしら?」
彼女はコロコロと表情を変え、楽しそうだった。
ちなみに、イリスは魔力を吸ったため僕の背中で眠っている。 エルマは魔力制御の練習をしながら前を歩いている。
「おい、シュユ。」
「なんだ、バカ野郎。」
正直話していて楽しいのはハンナさんのほうである。
「なんだじゃねえよ。 この先の広場で狩りの準備するってよ。 お前はどうする?」
「僕が狩りに参加しても特にすることなさそうだけど?」
みな弓や銃を身につけている。
ナイフやハンマーでどうしろというのか。
・・・妖精の弓が欲しい。
「魔法で打つとか?」
「僕はまだ肉体強化の練習中だから無理。」
「いきなり肉体強化やってんの? 変わってるな、お前。」
「え、師匠に普通そうするって言われたけど?」
「確かに前衛ならそうかもしれねぇけど、魔法の方が簡単に使えるようになるじゃん。」
「そうなの?」
「そうですね。 簡単な魔法は使えるようになってからのほうが肉体強化みたいな難しい魔法は習得しやすいと聞いたことがあります。」
そういえば、天使としての仕事のために練習してたんだった。
「じゃ、俺は狩りに参加してくるから。」
「ああ。 僕は護衛でもしてるよ。」
そうして狩りが始まった。
とはいっても各々が森に入り、残った人は談笑しながら獲物を待つだけ、ではある。
僕とエルマは訓練をしている。 残った人たちは珍しそうにその風景を見ていた。
エルマは魔力量が増えだしたため、魔法の練習、僕は肉体強化の練習である。
最近は両手か両足全体位なら1秒かからずに展開と硬化が可能になった。
・・・まあそれしか練習してないけど。
あとは筋力強化も出来るようになればいいのだけど。
時々銃声や獣の鳴き声がする。 狩りは順調なようだ。
・・・が、エルマがこぶし大の火の玉を制御しているとき、人の悲鳴が聞こえた。
「イリス、起きろ。 エルマ、ここの人たちを頼む。」
「えっ? どうする気なの?」
残っていた人たちも不安そうな顔をしている。
「ちょっと見てくる。 何かあったら逃げろ。」
こういい残し、バイクで空へと上昇する。
木が高い分、探しにくいが直線で動ける分、走るよりは速そうだ。
悲鳴は1キロ程度奥の森から聞こえる。
音を聞きながら接近すると黒い何かが見えた。
バイクを消し、腕に籠手を出し、硬化して顔を守りながらから突っ込む。
「っ!!」
木の枝で顔を引っかきつつ下へ降りる。
地面まで3メートルくらいでナイフを出し、
「はっ。」
木に刃を返したナイフをつき立て勢いを殺す。
が、背にある鋸の刃は木を裂いている。 ・・・もはや鋸ではない。
とはいえ、勢いを殺すという目的は達成したためワイヤーを握って飛び降りたあと、ナイフを回収する。
「!!」
黒い塊は人型の何かだった。
が、今にも目の前のハーピアの男性を殴りつけようとしている。
彼は、銃を撃って倒せなかったのか、銃を構えた状態で止まっている。
「らぁ!!」
咄嗟にナイフを投擲し、すぐに加速する。
黒いのが何なのか分からない以上、いきなりやっちまうわけにはいかないため、腕に刺さる位置に投げたつもりである。
・・・幸い腕に刺さったようだが、動きが鈍らない。
「加速加速加速加速。」
間に割り込まないとヤバい気がする。
・・・一気に加速したおかげで、ぎりぎり割り込めた。
が、
「ぐうっ!?」
「あっ。」
重い拳だ。 加速を解き受け止めたが、腕がしびれるような威力だ。
籠手がなければ死んでいた・・・とは言わないがまずかったと思う。
「はっ!!」
黒いのが腕を引いたので咄嗟に硬化と纏う魔力を増やす。
両腕を盾にするこの姿勢では反撃は難しいし、後ろには人がいる。
避けるのはまずい。
「逃げろっう!?」
黒いのは右腕を引き、左足でミドルキックを放った。
間一髪腕をずらせたがやはり重い。
が、
「らぁ!!」
鳩尾を狙い、左拳を打ち込む。
ドウッ、と音が響き2.5メートル程度の巨体が吹き飛ぶ。
6メートルほど吹き飛んだ後、木の幹に衝突し動きを止めた。
「大丈夫か?」
「っ!? あ、ああ。」
男性に怪我は無いようだ。
「あいつは何か分かるか?」
「お、そらく操作系の妖魔だ、と、思う。 銃を打ち込んで、も動きに変化はなかったし。 ただ、あの体にコア、があるかは、分からない。」
少し気が動転しているようだ。
「そうか。 もしあいつが本体じゃなかったらどうすればいい?」
「逃げ、るか、本体を見つけ、るかの、どっちかだ、けど。」
「よし、お前は逃げてこのことを他の人に伝えろ。 もし腕に自信があって本体を探せる奴がいたら呼んでくれ。」
「あ、ああ。」
男性はよろけながらも逃げてくれた。
・・・よし。
幸い黒いのはゆっくりと立ち上がり、歩いてこちらに来ている。
よく見ると主に木と石が黒いゼリーのようなもので固められ、人型になっている。
・・・ナイフは刺さったままだ。
コアを砕くためには、まずあの邪魔のものを取り除かないとな。
「なら。」
破壊鎚を取り出し構える。
「生体加速。 加速。」
一気に距離を詰める。
奴の動きはさっきのパンチの速度とは裏腹に遅い。
「ふっ!!」
近づくと拳を振るってきた。 でも冷静な今ならたいしたことは無い。
「ぁあ!!」
横薙ぎにハンマーを振るい、横っ腹をぶっ叩く。
ボグッと鈍い音がし、吹き飛んだ。
吹き飛びながら何かの破片を撒き散らしていた。
・・・効果ある、のか?
さっきは叩きつけられてしばらく動きが鈍かったし、ここを狙う!!
「ふっ、はぁ!!」
駆け寄って腕に刺さったナイフを握り、振ると腕を切断しつつ抜けた。
その間に黒いのは左腕を振りかぶっているためナイフを消しつつハンマーでその拳にカウンターを叩き込む。
拳はハンマーにぶち当たり、急加速し奴の顔面に叩きつけられた。
1メートルほど後ろに跳び、背にした木が軋むような音を上げている。
・・・奴の拳と顔からバラバラと破片が落ちている。
少し黒い部分が増えた気がするため、攻め方は合ってるのか?
・・・数分後。
どうやら黒い部分が本体のようだ。 ただ、コアの位置は不明。
戦闘中足元の小石や小枝を吸い上げて体に組込んでいるため、その辺にコアがある気がするが。
加速を解いているため、魔力は回復しているはずだが体の疲れは溜まっている。
ただ、中身をバラバラにしたことで最初は丸太のような腕や足だったが今はだいぶ細くなっている。
これなら刻めるか?
「生体加速。 加速加速。」
ナイフを両方出し、爪も出す。
切り落としたらどうなるのか、試してみよう。
「シッ!! はぁっ!!」
体が軽くなったのか、最初より動きは速くなっているがその分一撃はかなり軽くなった。
そのため籠手で受け、そのまま肘の辺りで切り落とした。
「!?」
切り落とした腕は少し宙を舞い蒸発するように消えた。
が、すぐ本体は元通りになった。
鞭のように腕を振るってくるため、かわしつつ何度も切りつけるが、それによって消耗しているようには見えない。
・・・やはりコアを見つけないと勝てないようだ。
少し距離をとり、相手を観察する。
こいつはコアを持っているのか? そもそもそこは分からない。
これが、単なる人形なら逃げても問題ない程度には時間を稼いでいる。
だけど、スキルのおかげかなんとなく本体の気がする。
ではコアはどこか? ・・・腕や頭、足は半透明ではあるが中にコアらしきものは見えない。
おそらく未だに真っ黒な胴体の中以外はありえないだろう。
ならどうやってコアを探す? ・・・最初はゴーレムって感じの見た目だったが今はラ〇ュタに出てくるロボットみたいになっている。
!! ・・・そうか。
「いくよ。 ふうっ。 はあっ!!」
何度目かの接近の後、振り下ろされる腕や蹴り上げられる足を切りつけ、切り落とせるときは積極的に落とした。
こいつも切り落とされることを織り込んだ行動パターンになっているようで、胴への攻撃だけを警戒しているようだった。
・・・身軽になった所為でかえって倒しづらくなったよう!?
胴を薙いだ瞬間、わずかに切り口から鈍く光るものが見えた。
「ぐっ!!」
気を取られたせいで腹部に蹴りを貰ったが、その足を掴んだ。
!? 掴んだ手が焼けるように熱い。
けど・・・これで作戦を実行できる。
「うらあぁっ!!」
まずはそのまま反対の足を切り落としつつ足を離す。
こいつは胴が重いおかげで後ろに倒れる。
そして・・・
「はああぁっ!!」
全力でハンマーを胴体に振り降ろした。
バチュッ、と水っぽい音と共に黒い液体が小枝や小石と共に飛び散り、ひびの入った淡い光を放つ黒い玉が横へ転がった。
「逃がすかっ!!」
・・・黒い玉は半透明の球体を纏い、逃げ出そうとしていたので、ナイフを投げつけると、ど真ん中に突き刺さり動きが止まった。
そして数秒後、青白い炎のようなものを撒き散らした後、粉々に砕け、消え去った。
「・・・ふぅ。」
とりあえず仕留めたのか?
・・・警戒しつつナイフを拾い、片付けた。
狼を倒したときにも見えたあの青白いのがマナなのだろうか。
・・・一応。
「召喚。」
メーターつきのバイクに跨ると・・・MPは1100になっていた。
「っしゃあ!!」
思わずガッツポーズしてしまった。 ・・・そういえば体が軽くなった気がする。
肉体強化も出来ていると見ていいのかな?
まあとにかく、いったん広場まで戻ろう。
戦闘シーンは難しいですな。
お読みいただきありがとうございます。




