天使は言った。「しばらくは使い魔を増やさないと言ったな。 アレは嘘だ。」
翌朝。
キイチがウザかった。 以上。
そして昼前。
休憩を挟みつつ魔力制御の練習をしていると声をかけられた。
「ちょっとあんた。」
「イリス、話しかけられてるぞ。」
「ふぇ、私ですかぁ?」
「違うわよ。 目が合ったでしょ!?」
大きな帽子をかぶった薄い紫色の髪の女の子に話しかけられた。
「どちら様でしょうか?」
「あんた、そのセイレンと使い魔契約したの?」
「・・・違うといったら?」
「そうなのね。 そこの子、だいぶ避けられてたはずなのに、何で契約したの? ロリコンなの?」
「そんなことより、昼飯にするか。 イリス、行くぞ。」
「そんなことって何よ!? 答えなさいよ!!」
「私はぁ、お魚が食べたいですぅ。」
精霊も食事をする。 マナも当然吸収できる。
「ちょっ、無視しないでくれる!?」
「・・・で、用件は何でしょうか?」
「・・・まあ、いいわ。 もう一度聞いてあげる。 何故、その子と契約したの?」
「え? ・・・顔が好みだった・・・から?」
「・・・なんで疑問系なのよ。」
「ふふっ。 私もマスターのお顔、好きですよぉ?」
「よせよ、恥ずかしいだろ?」
「私も恥ずかしいで「いちゃつかないでくれる!? てかあんたやっぱりロリコンでしょ!?」」
「クウキヨメヨー」
「まじめに答えなさいよ!!」
「天使たるもの使い魔がいて当然かなって思ったから。 後、かわいかったから。」
「ふふっ。 ありがとうございますぅ。 マスターもかっこいいですよぉ?」
「・・・ほんとに天使なの?」
「君にどんな目的があるのかは知らない。 けど名前ぐらいは言うべきじゃないかな?」
「・・・そうね。 私はエルマ・ノクターン。 訳あって天使の使い魔になりたいの。」
「・・・理由は聞いてもいいのかな?」
「契約した後ならいいわ。」
「・・・なら結構です。」
「そこは、じゃあ契約しようっていうとこでしょ!?」
「僕は君の事を知らない。 なら興味も持てない。 何か間違っていますか?」
「そっ、それはそうかもしれないけど!! ・・・。」
「使い魔契約できるってことは精霊種なんだよね? 種族も秘密なのかな?」
「・・・私はバンディアよ。」
バンディア。
闇の眷属の精霊。 身体能力が高く、黒魔法という変わった魔法も扱える万能な種族。
但し、そのコアを奴隷化によって得れば誰でも黒魔法の行使が可能なため乱獲されているらしい。
彼女は生まれてすぐそのことを近くにいた他の精霊たちに教わったおかげで無事ですんでいるそうだ。
その最大の特徴はカラスのような漆黒の翼と、いかにも悪魔という矢じりのように尖った尻尾らしい・・・けど?
「尻尾も翼も見当たらないけど? 魔法で隠してるの?」
「・・・で、どうするの? 使い魔契約するの?」
「・・・その辺も天使と契約したい理由なのかな?」
「さ、さあ、どうかしらね?」
明らかに動揺している。 これが演技ならアカデミー賞も狙え・・・るかどうかは知らない。
「分かったよ。 けど天使を罠にはめたら後が怖いよ?」
「そ、損はさせないわ!! 黒魔法の価値はあなたも知ってるでしょう?」
「いや、知らないけど。 イリスは知ってるか?」
「えっとぉ、知りませんけどぉ?」
「・・・あんた、ほんとに天使なんでしょうね?」
「そうだねぇ・・・。 僕は運が良くて天使になっただけだからさ、正直この世界の基準だと魔力量以外はかなりしょぼいと思うな。」
「えっ。 そうなの?」
「うむ。 そうなのだ。 別に他の天使を探しに行ってくれて構わないよ? 君の種族も他の人に言わないし。」
「そうですよぉ。 マスターには私がいますからぁ。」
「・・・いや、あんたで良いわ。 天使ならいずれ強くなるだろうし、しばらくは我慢してあげるわ。」
「こんなこといってますが、絞めてやりましょうか、イリスちゃん。」
「そうですねぇ。 水かけるくらいなら私にも出来ますよぉ。」
「で、どうすんの? 契約すんの?」
「分かったよ。 奴隷化が精霊にとってあまり喜ばしいことじゃないとはイリスから聞いたしね。 これも天使の仕事だって割り切るよ。」
「なんかムカつく言い方ね・・・。 じゃあ早速試練を出すわ。」
「キスするの?」
「しないわよ!! ロリコン野郎!!」
「イリスとはしたけど?」
「クズ野郎!! もてないからって使い魔に手を出すなんて最低ね!! 死ねば良いわ!!」
「死んだら困るのは君じゃないのかね?」
「くっ。 そうね、骨折ぐらいで許してあげるわ。」
譲歩の度合いが分からない。
「でも試練としてイリスとキスしたのは事実だし。」
「はぁ!? 本当なの!?」
「激しかったですぅ。 ぽっ。」
「あざといわ、この子!! 口でぽっ、って言ったわ!!」
「だがそれがいい。」
「良くないわよ!! くそっ、天使じゃなきゃ呪ってやるのに。」
「で、結局何すればいいの? 骨折すればいいの?」
「しなくていいわよ。 別にしてもいいけど。 ・・・そうね、最高級の魔法の杖を私に捧げてくれたらけいy「じゃ、飯食いに行くか。」というのは無しで。」
「俗物ですぅ。」
「意外と口悪いわね、あんた。 今のは冗談よ。 そうね、天界製の防具とか持ってないの?」
「無いね。 籠手は持ってるけどもう契約してるからあげられないし。」
「武器も・・・なさそうね。」
「あげられるのは、このコートかグローブしかないけど。」
「・・・じゃあそのコートにするわ。 防寒性だけじゃなく修復機能もついてるみたいだし。」
「見ただけで分かるの?」
「ええ。」
「それは凄いね。 じゃあどうぞ。 でも君には大きくないかな?」
エルマの身長は130センチくらいである。
「・・・よし契約できたわ。 じゃあこのコートはあなたのかばんに入れといてくれる? 邪魔だし。」
「了解。 で、これで使い魔契約できるの?」
「ええ。 どこに契約印を刻むの?」
ちなみにイリスの契約印は左手の甲に刻まれている。
「じゃあイリスと同じ左手の甲に。」
「・・・さあ、どうぞ。」
こうしてエルマは僕の使い魔になりましたとさ。
エルマは生まれて2年程度。 この町の近くにある山奥で生まれたらしい。
ちなみに精霊に親はいない。 何故かマナの濃い場所で勝手に生まれるそうだ。
「で、なんで天使と契約したかったの?」
「私、黒魔法使えないの。」
「な、なんだってー!?」
「いつかは使えるようになるわよ!! ・・・たぶん。」
天使と契約したかったのは、その莫大な魔力によって自身の強化をしたかったから、らしい。
翼や尻尾が無く、黒魔法が使えないのもマナを吸えば何とかなるらしい(保証は無い)。
「とんだ損はさせないわ詐欺だよ。」
「マスターよりよっぽどクズですぅ。」
「いつか使えるから大丈夫よ!! ってかあんた口悪すぎでしょ!!」
「よしよし。 一緒に練習しようねぇ。」
「私のほうが先に精霊魔法使いこなしてみせますよぉ。」
「ムカつくわ!! その明らかにしょうがないなぁって感じの目が!!」
で、みんなでご飯を食べました。
案の定、エルマはほぼ無一文でした。
夕方。
3人で魔法の練習をした後、ホテルへは戻らなかった。
キイチは今夜は帰らないかも、と朝ウザかったのでおそらく部屋にいると思う。
なので公衆浴場へ行き、汗を流した。
この世界では湯船に浸かる習慣は珍しいものではないが、多種族の訪れる宿では管理が難しいため高級な部屋や、高級な宿にしか湯船は無い。 基本シャワーがあれば良い方で、たらいに溜めた湯で体を拭くこともあるそうだ。
そのため、公衆浴場は比較的広く、様々な種族でも心地よく入浴できるようになっている。
ちなみに、温泉もあるらしいがこの近くには無いそうだ。
で、風呂上り。
夕食をとり、ホテルへと帰った。
さすがに、エルマが増えたためベッドが3つある部屋に替えてもらった。
「ちょっと待て。 その子はなんだ?」
「使い魔だけど?」
「だけど? じゃねえよ!!」
荷物を移動するために部屋に向かったら、もちろんキイチがいた。
「何でおまえのほうが充実した日々を送ってんだよ!!」
「何このうるさいの。 呪ってもいいの?」
「ああ、別にいい「言い訳ねえだろ!! 怖い事言ってんじゃねえよ!!」」
「で、ほんとに誰なの?」
キイチが自己紹介をした。
「へえー。 どうでもいいわ、あなたのことなんて。」
「くそっ!! イリスちゃんと同じこと言いやがって!!」
イリスは昨晩、どうでもいいいですぅ、と切り捨てた。
精霊受けの悪い男である。 ミナモリとの契約は難航しそうだな。 そこまでいけるかは知らないけど。
「で、部屋移動するから準備してくれ。」
「えっ、この男も同室なの?」
「そうだけど? 昨日はイリスもこの部屋で寝たし。」
「ベッド2つしかないけど?」
「イリスは抱き締めて寝たんだよ。」
最初部屋を移ろうとはしたが、イリスは僕と同じベッドがいいと言い出し結局そうなった。
キイチは当然その会話を聞き、色々とめんどくさかった。
「ロリコンだとは思ってたけどさすがにそれは引くわ。」
「別に良いけど? 今日も一緒だもんねー、イリス?」
「はいぃ。 今日もよろしくお願いしますぅ。」
イリスは水の眷属な為か、抱き締めると少し冷たい。
しかし、この町は現在初夏のような気候のため、かえって寝心地が良かった。
結局キイチの隣は身の危険を感じるとエルマが騒いだため、僕とイリスが真ん中になり眠った。
翌朝。
キイチは再び新たな参加者を探しに行った。
僕は魔力の制御や武器の訓練、使い魔たちは魔力の制御訓練をして午前中を過ごした。
イベントはもう3日目。
そろそろ相手を見つけておかないと厳しいはずなので、参加者たちは気合が入っているようだった。
そのためか、僕たちが訓練している広場には、暇そうに僕らを眺めるカップルが数組いるくらいで、初日の混雑はほぼ無い。
イベントが終わるまでこの町にいることになったら、最終日付近で2人をつれて狩りに行こうかな?
昼過ぎ。
少し時間を外したためか、食堂に人はまばらである。
エルマは肉が好みなようだ。 美味しそうにステーキに食らいついている。
・・・魔力が満ちるまで休憩し、訓練を再開した。
夜。
入浴後に部屋に帰るとキイチがいた。
「今日も誰か連れてきたらどうしようかと思ったぜ。」
「今日は誰か連れてくるかと思ったよ。」
「ようし、俺を馬鹿にしてんだな!!」
「当たり前でしょ? 帰らないとかいって今日で2日空振りでしょ? やる気あんのかい?」
「あるに決まってんだろ!! でもさぁ!!」
「どうせ、がっついて引かれてんでしょ? そんなことよりシュユ、私の肩揉んでくれる? 魔力制御で疲れちゃって。」
「あぁ、私もお願いしますぅ。」
「はいはい。 じゃあエルマか「もっと、アドバイスくれよ!!」」
「あきらめたらどう? あんたどうせ外で女性といるときもそんな感じなんでしょ?」
「あきらめるべきですぅ。」
「そうだねぇ。 正直そろそろ攻め方に疑問を感じるべきだよね。」
「シュユ、悪口言って悪かった。 まだお前は俺の味方だったんだな。」
「やっと気付いたのかい? お金もらってるんだし一応ちゃんとアドバイスはするよ。」
「で、どうすれば良い!?」
「あきらめろ。」
「ようし、お前ら表へ出ろ。」
「冗談だよ。 もう明日で4日目、正直新しく人が来る可能性は低い。」
「ああ、そうだな。」
「じゃあどうするか? 選択肢は少ないが、なくはない。」
「おおっ!! どんなのがあるんだ?」
「1つは集団を探して混ぜてもらう作戦だ。」
「集団?」
「ああ。 聞いた話だとこのイベントは出会いだけでなく、デートを楽しむためのものでもある。 つまり、本来なら後半からはカップル単位で行動するはずだ。 だがあえて僕は集団といった。 それは、仲の良い同姓数人で参加している人もいるみたいだから。 つまり、フリーの人とカップル、両方が混ざった集団で行動している人たちがいる・・・かもしれないから。」
「何でそんなとこ狙うんだよ? 1人の人探したほうが良さそうだろ?」
「もう4日目。 そろそろ上と下、つまり出来たカップルと今回はあきらめた人、両方が減っているんだ。 なら、もう帰るつもりの可能性が高い1人の人がわざわざキイチのアプローチを取り合ってくれる可能性は低い。」
「・・・なるほど。 で?」
「つまり、狩りやら観光地やらで遊んでる集団に目をつけ、気に入った子がいたらその集団全体にアプローチし、あとで個人と約束をする。 そうすれば、その子も抜けやすくなるし、無理な誘いはしないと好印象になる・・・かもしれない。」
「おお。 まともだ。」
「ただ、キイチ1人での実行は危険だ。 最低でも数人で、あくまでも一緒に遊ぼうという体でいくべきだ。」
「なんでだ? 別に1人でも・・・。」
「1人でフラッと現れた男に、一緒に遊ぼうといわれて警戒しない人がいると思うの?」
「・・・確かに。」
「だから、出来れば朝のうちに同行の許可を貰い、フリーの子を狙う。 もし気にいった子に既に男がいたら別の子へ。 そのグループに興味が無くなったら適当な理由で抜ければ良い。」
「本当にそれでいいのか?」
「さあ。 僕は恋人いたことないし、想像で話してるからね。」
「・・・まあいい。 でその数人のグループはどうやって作るんだ?」
「この部屋にいる4人か、外で他に探すかのどっちかだな。」
「じゃ、みんなでいこうぜ!!」
「私は嫌だからね?」
「・・・エルマと僕が会えたのは一応キイチのおかげなんだし、我慢して欲しいんだけど、だめかな?」
「・・・しょうがないわね。 まあ、暇つぶしは出来るでしょ。」
「よし!! じゃあ明日は頼むぜ、みんな!!」
というわけで明日はキイチに付き合うことになった。
お読みいただきありがとうございます。




