クリスマスイブの奇跡
いきなり回想です。
日も沈み、街にはきらびやかな装飾が施され、楽しげな音楽の流れる今日この頃。
クリスマスイブに相応しいその様子が窓から見えるであろう病院の一室で、僕たち家族は泣いていた。
理由は単純。
休んだ日のほうが圧倒的に多いという小学校生活を送っている小学四年生の僕の妹、佐藤千枝に次のクリスマスイブは訪れない事を医者に宣告されたためである。
その後、これからの方針について医者と話しをしたのち、妹のいる病室へと向かった。
根本的な治療法の見つかっていない不治の病に冒されている妹は
「パパもママもなにかあったの? あのね、今日はクリスマスイブでしょ? 私ね、今年もサンタさんにお願いしたんだよ? 病気の治るお薬を下さいって。」
茶色のダウンジャケットを着ていればその背中はヒグマにしか見えないような父、佐藤巌は
「ああ、そうだな。 パパも千枝が春には元気に学校へ行けるようにサンタさんと仏様にお願いしといたから今年こそ大丈夫だ。」
と涙にぬらした後の顔で精一杯の笑顔を作りつつ、そう答えた。
・・・その二人、あるいは二柱は仲が良いのだろうか?
と考えていると
「そうね。 ママもご先祖様に千枝をお守りくださいってお願いしたからきっと大丈夫ね。」
と素手でイノシシを仕留めたことがあるらしい母、佐藤明日香も頷いた。
・・・昼間墓参りに行ったとき、墓石に足を乗せ
「千枝が死んだらお前らの骨、ブタの餌に混ぜるからな?」
とかいって隣でお参りに来てた人たちをドン引きさせていたあれのことを言っているのだろうか?
だとしたら今頃天国のご先祖様たちは仏様に土下座なりしていることだろう。
「千枝、それ以外に何か欲しいものは無いのかな? 兄ちゃんバイトがんばって今お金もちなんだよ。 ゲームとか、服でも良いし前欲しがってた子犬でも買えるよ?」
クリスマスに向けて夏休みに入る前くらいからバイトでお金を貯めていた僕、佐藤太一はそう話しかけた。
両親からはマジKYって感じの殺気混じりの視線を感じつつ返事を待つ。
「・・・あのね、私ね、元気になって、退院したら柴犬の子犬と一緒にお兄ちゃんとお散歩したいな。」
・・・かわいいこというだろ? 僕の妹なんだぜ?
「そっか。 ならその前に子犬の名前考えないとね。」
「・・・飼ってもいいの?」
「もちろんだよ。 ね、父さん、母さん。」
「そ、そうだな!! 父さん、犬小屋用の材木予約しとくから!! な、母さん!?」
「そ、そうね!! 母さんも千枝が怪我しないように安全な散歩コース見つけとくわね!?」
「ほんと!? 私ね、じつはもうわんちゃんの名前考えてたんだ!!」
「千枝は気が早いな。 まだどんな子犬かも分からないのに?」
「そうだった・・・。」
・・・これが僕が最後に妹と話した内容である。
このあとしばらく談笑した後に帰路の途中、というか病院の駐車場で両親に、なに考えているのか、とアスファルトに正座というスタイルでの拷問もとい説教を受けた。
まだ回想は続きます。