ある天使は言った。「やった後に、悔やむから後悔なんだよ。」
恥ずかしい。
初めての殺人でおかしなテンションになってたからとはいえ、昨晩の自分の言動は痛いよな・・・。
元夜盗の処理をしながら冷静になる。 昨日はまるで自分でないかのような昂揚感があった。
浴びた返り血を川で流し、少し冷たい水に触れて冷静になっていた。
軍服の血は、まるで固まっていないかのようにきれいに流れた。
まあ、悔やんでも仕方ない。 幸い目撃者はもういない。
・・・さて持ち物はっと。
財布には合計1ゴルド。 頂こう。
服はもう破けているし血に塗れているし後で捨てよう。
鎧は・・・穴も開いているし、血もべっとりで気持ち悪いので却下。
他には短刀に・・・鉈、いや山刀っていうんだっけ?に・・・カード?
ギルドカードに似ているが、材質もデザインも異なる。
・・・この世界のギルドカードなのか? しかしこんな物持って強盗とは・・・。
名札つきの制服で万引きする中学生かよ・・・。
とにかく全員分回収した。 生きているのに見せて何か一応聞こうかな。
他にめぼしいものはないか。
というわけで、サトリのスコップで大きな穴を掘り全員の遺留品もまとめて埋めた。
・・・ばれなきゃあ犯罪じゃあないんですよ?
というわけで尋問するか。
「おい。 起きろ。」
ワイヤーを解き、うつ伏せに押さえ込んでから起こした。
「起きろー。 朝じゃないけど。」
「・・・うん、ぐっぅ!?」
「起きたんなら、話をしよう。」
「いてえっ!! くそっ!! どけぇ!!」
「うるさいなぁ。」
首にナイフを当てる。
「状況を理解したかな。 別に君を生かす理由はないんだよ?」
ごくり。 これでいいのかな? 尋問の方法なんて知らない。
うちの家族は殴って、吐かないなら刺してと物理的に追い込む方法しか話しているのを聞いた事がない。
「っ!? あ、ああ理解した。 ・・・他の奴らは?」
「そうだね。 君の態度しだいでは会えるかもね。」
冥界でね。
「そ、そうか。 分かった。 おとなしくするから。 何が聞きたいんだ?」
釣れた・・・のか? あきらめたのかもしれない。
「そうだね。 まずはなぜ僕たちを襲ったのか聞きたいな。」
「あ、ああ。 俺たちは最近ここに流れてきてな、金がないからハフリンから金を集めている商隊の奴らを襲って金だけを奪ってたんだが最近来なくなってな。 妖魔が出るようになったって聞いたから倒せそうなら倒してマナを増やそうって話をしてたらお前たちが野営の準備をしてるのを見つけたんだ。」
「で、襲ったと?」
「ああ。」
「本当に金しか奪ってないんだな?」
脅すように言ってみた。
「!! ・・・ああ。」
黒かな。 脈を計りながら尋問すべきだといわれたことを思い出し、やっている。
明らかに緊張状態になっている。
もし本当なら、法律によっては僕が危ない。
・・・が、昨日のこいつらの言動から、金だけ奪ったという証言に信憑性は無い。
「・・・なぜここにきた? 流れてきたといったけど。」
「・・・なんとなくだ。 目的はない。」
うそっぽい。 が、かといって聞き出すすべはない。
「そうか。 ならお前たちは全員で行動していたのか?」
「ああ。 5人でパーティを組んでいる傭兵だよ。 俺たちは。」
なら報復はないか。
しかし傭兵か。 村長の話を聞く限り、妖魔や魔獣が増えている現状、マナを増やすためだけに奴らを狩るのは少しもったいない気がするが・・・。
「依頼を受けようとは思わなかったのか? 金が報酬だと聞いてるけど。」
「・・・。 ああ。 亜人に金を恵んでもらうなんて御免だね。」
「・・・。 なぜ彼らをそこまで嫌う?」
「なぜ、だと? お前ヒュムの癖に亜人どもに力を貸していたな。 お前あいつらの奴隷なのか。」
「いや、護衛対象だよ。」
「ちっ。 亜人共の所為でヒュムは苦労してんだぞ? 亜人共が好きなほうが珍しいね。」
なにか確執があるようだ。 奴隷というのも気になる。 ただこいつにそれを聞くのはマズイ。
情報量の差は相手に嘘をつく隙を与える。
「僕は、種族による差別は嫌いでね。 彼らにも良いものはいる。」
「・・・そうかよ。 他に聞くことはねえのか?」
図に乗っているな、こいつ。
「そうだね。 君のレベルはいくつ?」
「・・・80だよ。」
魔力の流れを感じない。 不意打ちで魔法がくるかと警戒していたが・・・魔力は身体能力の強化にしか使わないのか? そもそも使えないのか?
しかし、ヒュムの種族値は20とかだった。 つまり、マナを吸ってか、スキルによってか60くらいはレベルが上がっていることになる。
ただ・・・あれで80か。
「お前たちの平均レベルはどのくらいだ?」
「80くらいだよ。」
「そうか・・・。」
他に聞くことあるっけ?
もういっか。
「じゃあ、お休み。」
「へっ? ぐっ!!・・・な、んで?」
「芽は摘んどかないとね。」
ワイヤーでの絞殺により、2回目の水浴びは免れた。
財布の中身に、カード、他は特になし。 あ、カードのこと聞き忘れた。
同じように埋めたあと、 一応祈りを捧げる。
お前たちの罪が軽ければ、また会うこともあるかもね。
・・・夜が明ける。
二人はまだ寝ているようだったので一応周りを警戒していたがあの後は特に何も無かった。
二人が中から出てきてあたりの惨状に驚いていたが、魔獣が来たといっておいた。
納得していたしよしとする。
身支度を整え出発。
昨日と同じ構成で、空を飛んで進んだ。
そして昼過ぎ。
村に着いた。 街が近いからなのか特に困っている様子はなかった。
ただ、外に出るのはなるべく避けているそうだ。
村の食堂で遅めの昼食をとり、夕方にはつくそうなので街を目指した。
そして夕暮れ時。
大きな門が見え、ついにギルドのある街、アーズダインについた。
特にチェックも無く中に入れた。 もうすぐ夜だし予定よりかなり早くついたため、宿に止まり明日の朝行動することになった。
久しぶりのベッドに心躍る感じであった。
そして翌朝、朝食をとり、身支度を済ませたあと、まずはタバコの葉を売りに行った。
メグの村の分は全部で50ゴルド、リードの村の分は20ゴルドになった。
・・・相当足元見られていたのか?
複雑そうな顔の二人を連れ、ギルドへと向かった。
そしてギルド内。
二人は受付で依頼を出す準備をしている。
そういえば、妖魔も魔獣も倒すと消えるのにどうやって依頼の達成を確認するのだろうか?
ギルドの方に後で聞くか。
・・・そういえば
「すいません。」
「? はい、なんでしょうか。」
「僕、依頼を受けたいんですけど。」
「分かりました。 では、ギルドカードの提示をお願いします。」
「すいません。 実は持っていなくて。」
「そう・・・なんですか? では登録料1ルードと身分証明書の提示をお願いします。」
身分証明書だと。
「身分証明書って言うのはどれのことでしょうか?」
「どれ? ああ、そうですね。 ヒュムの方だと戸籍の移しでもいいですし、軍の登録証でもかまいません。」
軍服にそんなオプションは当然無い。
「これじゃ駄目でしょうか?」
「ギルドカード・・・ですか?」
確かにおかしいのは分かる。
「ええ。 天界の。」
「天界!? ・・・確認させていただけますか?」
「どうぞ。」
天使の身分を疑うのはありなのか、なしなのか。
受付の女性は、ギルドカードを持って奥へと消えた。
そして2分後くらい。
「申し訳ありませんでした。 天使様に身分証明書を求めるなど、ご無礼をお許しください。」
「本当に申し訳ありませんでした!!」
偉そうな人と一緒に女性が戻ってきて開口一番謝った。
「いえ。 こちらこそ気を使わせてしまい申し訳ないです。 何分僕も新人なので勝手が分からなくて。」
「寛大なお言葉ありがとうございます。 では、お詫びと致しまして登録料は頂きませんのでこちらの紙にお名前とジョブをご記入ください。」
「いえ、ちゃんと払いますよ。 僕もギルドのシステムを利用する以上特別扱いを受けるべきではないと思いますから。 ・・・これでいいですか?」
「ありがとうございます。 ・・・問題ありません。 では奥で写真を撮りますので、こちらへ。」
向こうが下手に出るということは、こちらがどういう態度を取るかを伺っていると思え。
母はそう言っていた。 ここで調子に乗ればあとで痛い目にあう可能性もある。 たった1ルードで今後の厄介ごとを招くのは困る。
・・・まあ、夜盗から巻き上げた金もあるしね。
あれ? そういえば・・・。
「どうしてこれが本物だと分かったのですか?」
「はい!! ギルドにはカードを読む機械があるんですけど!! 本物にしか反応しませんし!! 登録情報には天使様の神格がいくつなのかも記載されていましたので!!」
「そうですか。」
「はい!!」
・・・女性は変なテンションである。
メグたちに声をかけ、写真を撮り、10分後にはギルドカードをもらえた。
これで、流鏑馬ができ・・・るわけはない。
修練場はあるかもね。
そして帰りに出来る依頼はないか探したら、思ったとおりある依頼があった。
5人組の強盗の討伐、である。
討伐て。 なんでも結構な数の人を殺めており死刑確定のため、彼らを殺したという証明さえあれば報酬が支払われるそうだ。 依頼主は・・・商人ギルド アーズダイン支部長?
報酬は1人当たり2ゴルド。 よし。
「すいません。」
「はい天使様。 受ける依頼はお決まりですか?」
「この依頼、達成してるんですけど、報酬はもらえるんですか?」
「・・・!? えーと証明できるものは?」
「これは駄目ですか?」
5枚のギルドカードを出して渡した。 血がついてるしリアリティーはある。
奥で確認できたのか女性は何か持って帰ってきた。
「こちらが依頼達成書です。 この紙とギルドカードを依頼主である商人ギルドの方で提示すれば報酬を受け取れます。 万が一報酬の額が少ない場合は、相手の言い分に限らずギルドにご報告ください。」
「分かりました。」
踏み倒す人もいるのかもしれない。 依頼人としては依頼が達成されれば後はどうなっても困らないしね。
というわけでタバコを売ったとことは別の商会へ行き依頼達成の旨を伝えた。
事務的に金を渡されたが、報酬は10ゴルドぴったりであった。
ちなみに、メグたちとは別行動中である。 帰り道で必要な物資を買いにいっているそうだ。
お土産をかばんに入れられるというと喜んでいたので速めに合流しよう。
・・・数分後。
「ちょっといいかな?」
「いえ、間に合ってます。」
「ちょっ!?」
赤い髪の、体格の良い20代位に見える目の鋭い犬耳の女性に声をかけられた。
身長は僕より少し低いくらい。 獣人という奴で、傭兵とか狩人なのだろうか。
とはいえこちらに用はない。
日本人のチラシや勧誘の回避スキルなめんなよ。
「まあ、待ちなよ。 あんた天使なんだろ? 下々の民に優しくしてもいいんじゃないのかい?」
「いえ、人違いです。」
「・・・あんたを他の奴と見間違えるのは無理じゃないのかい?」
ぐう正だ。・・・仕方ない。
「用件はなんでしょうか? ご婦人。」
「私は未婚だよ・・・。 まあいいや、あんたうちのチームに入らないかい? 天使様なら一気にトップになれるよ。」
「チームとは何のことでしょうか?」
「ああ。 あんた新人だっていってたね。」
ギルドにいたのかこの人? ということは金を受け取りに行く間もつけてたのか?
・・・いやそれはない。 おそらくメンバーのうちの誰かが彼女に伝え、その特徴を元に探していたと考えるべきか。
この通りは街のどこへ行くにしても通る可能性の高い大通りだから待つには適しているのかもしれない。
「チームってのはギルドの依頼を解決するために作る集団のことさ。 ギルドの依頼は人や物を探すとか、子供の面倒を見るなんてものから賞金首や化け物の始末まで多岐にわたる。 だから、パーティやチームを組んで解決できる仕事を増やしておけば、知名度も効率も上がる。 で、回してもらえる仕事を増やして、儲けるってわけさ。 うちは4つのパーティでチームを組んでるんだけど、あんた強いんだろ? うちは最近何人か辞めちゃってね。 そいつらが担当してた戦闘の部分を補いたいんだよ。 どうかな? あんたも新人だし安い仕事ちまちまやるのも面倒だろ?」
よくしゃべる人だな。
「抜けたのは、5人組の平均レベル80の傭兵だったりしますか?」
「!? ・・・いや、違うよ。 抜けたのは4人だし、もっとレベルが高かったからね。」
「へぇ。 てっきり昨日仕留めた5人組かと思いました。」
「なんだって・・・。」
「どうかしたんですか?」
「そいつらは、ギルドで賞金首になってた奴らかい?」
「ええ。」
「・・・そうか。 実はそいつらにやられたんだよ。 商隊の護衛中にね。」
・・・どうやら別の地雷を踏んだようだ。
「あいつらに代わって礼を言うよ。 敵を売ってくれてありがとう。」
「いえ。 僕たちも襲われただけですから。 それに報酬も既に頂いてますし。」
「・・・なあ、そいつらは変わったものを持ってなかったかい?」
「そうですねぇ。」
そういえば・・・
「変なコインを持ってました。 最初は1ゴルド銀貨かと思いましたが。」
「!? まだ持ってるかい!?」
「!? え、ええ。 これです。」
なにか珍しいものかメグたちに聞いたが何かは分からなかった。
「頼むっ。 私に売ってくれないか?」
「・・・。 えーとタダでいいですよ。 遺品か何かですか?」
「ありがとう!! ・・・これは弟の作ったお守りなんだ。 あいつらに殺されたね。」
・・・また踏んだ。 目に涙をにじませている。 よほどうれしいのか、悔しいのか僕には分からないけど。
「それはお気の毒に・・・。 弟さんは素直な方だったんですか。」
「・・・どうしてそう思うんだい?」
「いえ。 奴らの手口で殺されたのなら経験の浅い素人か、相当な素直でお人よしな人たちかな・・・と。」
「・・・そうだね。 あいつらはいい奴らだったよ。」
「そうですか。 あ、チームの件ですけど、お断りします。 僕は勝手気ままな1人のほうが性にあっているので。 では。」
「ああ。 ・・・ってちょっと待ってくれよ!! その件は感謝するけどもう少し話をっ!!」
ちいっ。 しれっと逃げる作戦が。
「天使ってのは感謝の気持ちで強くなるんだろ!? うちに来た方が楽に強くなれるはずだよ!!」
「楽なほうへ流れるから人は駄目になるんですよ?」
「・・・ぐぬぬ。」
上手い口説き文句が思いつかないようだ。
・・・はあ。 悪い人ではなさそうだけど、この人のチームを僕はそもそも知らない。
なら、いきなり入るって返事をする馬鹿はこの女性が好みのタイプの人ぐらいだろう。
とはいえ・・・。
「そうですねぇ。 とりあえず、あなたのお名前を聞いても良いですか?」
「!! 私はアリアだ。 アリア・クローム。 あんたは?」
「僕はシュユといいます。」
「シュユか。 なあ、頼む。 せっかく妖魔や魔獣の討伐依頼が来ても私1人しか戦えるメンバーがいないんだよ。 他の奴らは専門が違うんだ。」
「・・・ちなみにどんな?」
「ええと。 魔法薬の調合に、探し物、子供の世話に料理、あ、編み物とか鍛治師もいる!!」
「・・・魔法使いとかは?」
「・・・死んだ。」
「・・・てことは剣士や戦士も・・・?」
「ああ。 狩人もね。」
「・・・。」
「・・・。」
なんてこったい。
血生臭い仕事をやってた奴らはみんな死んだのか。
依頼を見てきたけど報酬の良い依頼は、討伐や護衛ばかりで子守なんて子供や老人の小遣い稼ぎみたいな額だった。
魔法薬の調合も材料集めから仕事に含まれるし、材料を買っていたら儲けは激減だろう。
編み物も鍛治も材料が必要な可能性は高い。 探し物はしらん。
てか、探し物ってなんだよ!! 自分で探せよ!!
・・・待てよ。 アリアさんと4人で討伐系ということは残りの3つは・・・子守に、生産系に、探し物?
いや、鍛治に家事に生産だろうか。
・・・どうでもいい。
「でもいいんですか?」
「へっ? 何が?」
「僕が入ったらコンビになりますけど?」
「? ああ、新しい奴が入ったらトリオだけど。」
「・・・二人きりになる期間があると言ってるんですよ。」
この世界の人は天使に善人しかいないと思っているのだろうか?
おそらく邪神と呼ばれる人の正義感は歪んでいるだろうし。
信頼は行動によってのみ得られると、とある青年は言っていた。 僕もそう思う。 良くも悪くもね。
「ああ、そうだけど・・・。 !? いやっ!? そういうのはこう!? なんだ!? お互いのことを知ってからゆっくりとだな!?」
「・・・おそらく、考えていることは違います。 僕があなたを裏切る可能性を考えて欲しいと言っているんです。」
「うっ。 そうだよな? ・・・いや、最初からそう思っていたさ。 うん。 ってシュユは天使なんだろ?」
「天使になれるのは確かに善人です。 しかし、なった後も善人かどうかはその天使の価値観によって変わります。 僕にとっての正義があなたを傷つけることである場合も十分にある、ということです。」
「そう・・・なのか?」
「そうです。」
「はっ!! ということは無理やり私を!?」
「では、さような「待ってくれ!! 冗談さ!! ああ、そうだとも!! 別に君を疑ったわけじゃない!!」」
目は完全に疑っていた。
・・・とりあえず今は依頼の最中であるため話は保留。 この街にまた来た時、人手が足りていなければ条件次第では考えると伝えた。
基本、矛盾点があってもスルーしてください。
因みにアリアさんのジョブは獣戦士、獣人のみなれる前衛職という設定です。




