ハフリンたちは言った。「天使のイメージとは違った。」
助けた人たちはいわゆるホビットのような人たちであり、種族の名前はハフリンと呼ぶらしい。
武装した彼らはお遊戯会の最中の園児のようではあったが、装備自体はドワーフの職人によって作られたらしくナイフのような剣も確かに良く切れそうだった。
御礼をしてくれるらしく、怪我をしていた二人を背負い、彼らの村へと向かった。
「ただいま戻りました!!」
「天使様がこの村に来てくださりました!! 歓迎の用意を!!」
村はやはり小さく、幼稚園に来たような気分になった。
歓迎はしてくれているみたいではあるが、その目は明らかに怖がっていた。
・・・まあ理由は鏡を見れば分かるけどね。
その後、町の広場に呼ばれ、あの場にいた怪我をしていた人たちを除く僕を含め、全員が事情を説明した。
彼らの話だと、最近森に妖魔が出るようになり、村に物資が届かなくなった。 そのため隣村へ行き、物資を買うつもりだったのだが、でかい狼の形をした妖魔と、その瘴気に冒され魔獣となった狼の群れに遭遇してしまい、逃げたが二人襲われ、もうだめかと思ったところだったそうだ。
「私が村長のバヌ・フェルニアです。 シュユ様、本当に危ない所を助けていただきありがとうございました。」
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。」
「なら、なおのこと。 天使様はみな優しく、そしてお強い方ばかりだと聞いてはいましたが、まさか本当におられるとは。」
「ええと。 じつは僕はそんなに強くないんですよ。 ただ他の神様にお力添えいただいた結果ですので、そこまで感謝されるとかえって申し訳ないのですが・・・。」
「・・・他の神様というのは?」
「ええと、この武具を下さったのはミノリン様で・・・」
「ミノリン様ですか!? あの豊穣の女神様の!?」
「!?・・・はい。そのミノリン様です。 たぶん。」
びっくりした。 大声と周りの人たちのザワザワが凄い。
ミノリン様はやはり信仰の対象なのだろうか?
「何を隠そうこの村がこうしてここに存在するのはミノリン様とモリリン様のおかげなのです。」
村長さんの話では、モリリン様の加護で村の周りの森が結界となり村に妖魔や魔獣が入ってこないのだそうで、村の中の畑が毎年たくさんの作物を生むのはミノリン様の加護だそうだ。
「ミノリン様の天使とあらば、この村はシュユ様を心より歓迎させていただきます!!」
「あ、ありがとうございます。」
いままでは、そこまで歓迎してなかったの?
・・・とまあそんなこんなで夕方まで色々と話を聞いたり聞かせたりし、夕食をご馳走になった。
「・・・ところでシュユ様?」
「なんでしょうか?」
「じつは、折り入ってご相談があるのですが・・・。」
「・・・どうぞ。」
「ありがとうございます。・・・実は先ほどもお話しましたとおり、この村は隣村までも距離があり、特産品のタバコこそ有名ではありますが、普段なら買い付けに来る行商人の方々がしばらく来てません。 来なくなった理由は分かりませんが、妖魔たちのせいではないかと・・・。」
「なるほど。 で、お願いというのは妖魔や魔獣を狩る、とかですか?」
「・・・そうですね。 我々は魔法を操ることは出来ますが、戦闘には不向きな種族です。 ですから本来であればギルドに依頼を出し、狩人や傭兵の方に狩っていただくのですが、依頼を出しに行くことさえままならないのが、現状です。 ですからギルドのある街まで村のものの護衛をお願いできないでしょうか?」
「・・・別に依頼書を持って僕だけで行っても良いのでは?」
「・・・おそらく隣村の状況もここと同じでしょう。 ですから隣村と交流のあるこの村としては彼らの頼みも聞いてやって欲しいのです。 そうなれば村のものがいないと交渉も難しいでしょうし。 当然、出来る限りのお礼はしますのでどうか・・・。」
「・・・分かりました。 では・・・この村の特産品はタバコで、それなりに有名なんですね?」
「ええ。 この村の属する国、ビスト帝国では、このあたりの村で生産されているタバコはとても人気があります。」
「で、買い付けの人が来ないということは、商品自体はあるんですよね?」
「ええ。」
「では、それをついでに売りに行きましょう。 護衛する人にそれを売ってもらい、無事ここまで連れ帰ったらその売ったお金の一部を頂く、というのでどうでしょうか?」
「それだけで良いのですか?」
「ええ。 というか僕は天使ですから本来はタダで働くべきなのでしょうが実はこの世界のお金をまったく持っていなくて・・・。」
「そんなことはありません!! 天使の力を借りるためには最低でも100ゴルドはいると聞きました。 タバコを売ってもせいぜい2ゴルドですしむしろ足りないくらいですが。」
・・・商談はまとまった。
タバコを売ったお金の半分を報酬として僕がもらい、前金として2ルード貰った。
ちなみ1ゴルド銀貨は10万円、1ルード黄銅貨は1万円ぐらいの価値らしい。
依頼は三つ先の村の隣にある街のギルドまでこの村の村長さんの娘を無傷で送り届け、連れ帰ることと、隣村へ行き、様子を伺うと同時に依頼があればこの村と同様に受けてほしいという事。
妖魔の狩りは必要最小限でかまわないそうだ。
・・・いくら僕が天使だと言ったとはいえ、いきなり娘を預けるのはどうかと思う。
別に何もしないけどね。
その後、途中で轢いた鹿の肉と毛皮を買い取ってくれる場所が街にあるかと聞いたら肉はこの村で引き取ってくれた。 値段は1ルードだった。 高いのか安いのかは分からないが拾い物みたいなもんだしよしとしよう。
食料も不足しているのかもしれないし。
その夜。 僕の寝れるベッドなどなく地面に寝た。 この方が魔力が回復するからと説得したのは言うまでもない。
そして翌朝。
朝食を頂いた後、身支度を終えるとかわいらしい女性が現れた。
「私はメグと申します。 シュユ様、本日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。
」
貴族のお嬢様の人形って感じの金髪の女性メグ・フェルニアさん17歳。 村長の末の娘らしい。
因みに二人の姉は別の村へ嫁いだそうだ。
「タバコはどうやって運びましょうか・・・。」
「ああ。 昨日は話の席にいなかったね。 このかばんは天界製のものでタバコが全部入るんだよ。」
実際にもさもさとかばんがタバコを飲み込む様を見て目を丸くしていた。
「では、いきましょうか?」
「そうですね。」
タバコを積めている間に、彼女はポニーのような生き物を用意していた。
「それは、速いのかな?」
「この村の乗り物では速い方かと。 ・・・だめでしょうか?」
試しに乗って走ってもらったら自転車くらいの速さであった。
「・・・僕の乗り物で行きましょう。 その方が安全で速いです。」
轢く方は安全。 間違ったことは言ってない。
「分かりました。 でもよろしいのですか? 天使様の乗り物に私なんかが乗って。」
「私なんか、じゃありませんよ。 村のみんなのために仕事するんですから。」
「・・・そうですね。 ありがとうございます。」
というわけで出発。
「召喚。」
一人乗りのバイクに思いつく限りの安全装置をつけたサイドカーを出した。
「まあ。 変わったお乗り物ですわね。 ふふっ。 帰ったらみんなに自慢しましょう。」
「ではシートベルトを付けますね。」
シートベルトに多重結界という装備である。 正直魔力の消費が装備によって変化しないのはありがたい。
跨るとMPの値は420を示した。 ・・・やはり一晩で全開は無理だったか。
とはいえ、マナ一発もあるし気にするほど低くはないと思う。
では行こう。 隣村へ。
昨日の運転で速度に慣れた為、今日は100キロで飛んでいる。
レーダーを搭載しているし、轢いても怪我しないよう設定しているので平気なはず。
メグさんは楽しそうに風景を見ていた。 ・・・酔わない人で良かった。
そして夕方。 道中現れた魔獣は10匹。 全て轢きました。
村を発見し、メグさんを先頭に森に入り、閉ざされた門の外から声をかけた。
「誰かいますか? 私は隣村のメグです。 シェリアの妹のメグです。」
すると門が開いた。
シェリアとは、この村に嫁いだ姉だそうだ。
「メグさぎゃああーーーっ!!!」
出てきた青年?は絶叫した。 人を見かけで判断するなんて、激おこだよ。
武装した人たちが現れたが、メグさんの説明を聞いてくれ、何とかなった。 ハフリンは基本的に素直な性格なのかも知れない。
その後、同様に話を聞き、これまた同様に商品の運搬と護衛を頼まれた。
タバコの葉が混ざらないよう小さいかばんの方へ詰めたあと、夕飯を頂いた。
メグさんはバイクを気に入ったらしく、明日は直接乗りたいとお願いしてきた。
・・・サイドカーにこの村の人を乗せるとして・・・。
前に乗ってもらい、覆い被さる感じで行こうかな。
そう伝えたらメグから許可が出た。
なお今日も土の上に寝ようとしたら以下略。
次の日の朝。
同様に朝飯からの身支度をしていると声をかけられた。
「おはようございます。 シュユ様。 私はこの村の村長の息子のリード・リオネといいます。」
「ああ、よろしく。 僕の乗り物で行くからそのつもりで。」
「・・・はい。 よろしくお願いします。」
リードは茶髪、16才の少年。 見た目は、普通?
・・・見送りを受けた後森を出てから
「召喚。」
サイドカーにリードを乗せ、僕の前に小さなイスをつけシートベルトで僕とメグを繋いだ。
・・・幼稚園へ向かうママチャリのようだ。
「あの。」
「リード君どうかしたかい?」
「メグさんがこちらに乗るべきでは?」
リード君は少し不満げであった。
「だめよ、リード。 ここは昨日から私が予約しておいたんだもの。 この席は譲りませんからね。」
「・・・ならいいです。」
・・・明日は逆にしようかな。
今日は次の村はもっと遠いと言われたので130キロで飛行した。
メグさんは、とても喜んでいたし、リード君はぐうぐうと寝ていた。
そして夜。 一日ではつかないといわれていたため、休憩を挟みつつ飛び続けたが今日中につくのは無理そうだ・・・。
そこでテントを張り二人を中にいれ、僕は見張りをすることにした。
このテントは僕一人でいっぱいになってしまうし、護衛が寝ては意味がない。
二人は申し訳なさそうにテントに入ったあと、すぐに眠りについたようだ。
焚き火はテントからだいぶ離れた所で焚き、既に消した。月のような衛星の明かりで、少し明るいため、警戒はしやすい。
そして僕は、現在地面に寝転びマナを取り込みながら周りを警戒している。
・・・お客さんかな? 少しずつ近づいてきてはいるがこの明るさでは意味はない。
ということは、あれは囮だな・・・。
いくら僕でもテントを背にしている以上全方位は見えない。
ということは・・・
僕はかばんから懐中電灯を取り出し、影を照らした。
「うっ!!」
・・・人? ならちょっとまずい。 いきなりジャッジメントタイムに入れない。
「誰だ!! 何をしていた!!」
後ろから足音。 テントは天界仕様のため、どんな所でも熟睡できるよう持ち主がロックした時点で破壊も開閉も移動すらほぼ不可能になっている。
つまり、現在僕に護衛対象はいないのだ。
「ふっ。」
懐中電灯をしまい、いっきに目の前の奴に詰め寄り、籠手を出す。
「なっ!?」
相手は護衛のためテントからは離れないと踏んでいたのか、速過ぎるからなのか驚いている・・・。
そんな暇はあるのかな?
「生体加速。」
2倍で十分だ。
近づくと腰の短刀を抜こうとしたため、爪を出し相手の右腕に刺す。
「ぎゃあ!?」
「だまれ。」
そのまま右腕を引き、力任せに背負い投げのように投げる。
・・・まだ殺せんのが惜しい。
「開かねぇ!?」
「なにやってんだ!!」
「「速くしろ!!」」
「・・・おい。」
「なっ!? もうやられたのか!?」
「貴様たちは何をしている。」
明らかにハフリンではない。 見た目は人、ヒュムのようだが。
「っち。 亜人に手を貸すヒュムなんてたいしたことねえって行ったの誰だ!?」
「大丈夫だ。 このテントに入った奴を引き吊り出せば人質にいっ!?」
「なんだ、あいつ!? 紫に光ってるぞ!!」
「・・・お前たちがなぜこんなことをしているかは聞かない。 だが、その子たちに危害を加えるつもりなら・・・。」
「うるせえ!! 俺たちヒュムにお前みたいな化け物が指図すんじゃねえ!!」
「そうだ!! ハフリンなんてヒュム様のためにタバコでも作ってりゃいいんだよ!!」
イライラする。 おっといかん。 頭はクールに、ハートはホットに。
魔剣士様のありがたいお言葉を思い出せ。
「つまり、貴様たちは夜盗の類なんだな?」
「へっ。 だったら何だよ!!」
「別に。 ただ・・・殺しても心は痛まないかなーって。」
「かまわねぇ。 変なもやもやだってただのぉ!?」
一人目。 投げたトレンチナイフはばっちり刺さった。
「ある少年はいった。」
「なっ!! 距離を詰めろ!!」
「・・・殺したくなんかないのに、と。」
「なに行ってやがるぅ!?」
寄ってきて鉈のような物を振り上げた腕を掴み、男の胸にナイフを立て捻って抜く。
「くそぉ!!」
「そしてその少年はこうも言った。」
「死ねぇぅ?」
「やめてよね。 僕と本気で喧嘩してかなうはずないだろう、と。」
男は胸にナイフが刺さっているのが不思議だったのかもしれない。
・・・どうでもいい。
あとは後ろでのびてるのと目の前で逃げようとしてる奴か
「最後に言っておく。」
「なっ。 はやっ!?」
・・・最近加速に頼りすぎだな。 大きすぎる力は人を駄目にする。
まあ使うけどね。
「・・・僕は差別は嫌いだ。 だから・・・」
「くそやろっ!?」。
「自分だけ逃げるような奴も等しく殺す。 ・・・聞こえてないだろうけど。」
籠手から伸びる爪は男の首を輪切りにしていた。
・・・メグさんやリード君には見せられないな。
こんな天使らしくないワンサイドゲームは。
1人生かしてるし、とりあえずワイヤーで縛っとくか。
ナイフを回収し、夜盗の服で血をぬぐった後、適当に夜盗を縛り、他の処理をした。
・・・近くに川があってよかった。




