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『虚現と野良猫の堕ちていく記憶』  作者: 繃琥
1.押し殺したもの
2/4

1-1


「Hey,(よお、)ノア!今日は俺様と組手だ」


欠伸をしながら階段を降りていると、降りた先に呼びかけの声がやたら発音の良い、軽そうな男の声が聞こえてきた。

シンプルな、だけど品を感じさせる汚れ一つない漆黒のスーツとネクタイに身を包み、それとは対照的な清潔さを感じさせる白いシャツ。後ろ首にかかるほどの長さの、ワックスでオールバックに整えられた金髪に挑発的に光る鋭い蒼き瞳。けど、見えている目は一つだけで黒い眼帯がもう一方の目を覆い隠していた。背が高く、それでいてそこまで筋肉質でもない男は薄く口角を上げながら私を見上げていた。

その男の名はサニー。アメリカで元ギャングの幹部をしていた実力派。


「それは頭領の指示か?」


「Yes!(ああ!)」


「サニーと組手か…ブラックか姫様がよかった」


「本人目の前にしてそういうこと言っちゃうわけ?殺すぞ?」


階段を降り切って隣に並び、溜息をつきながら嫌そうに呟く私に近づいて顔を覗き込むサニー。不穏な言葉と違いその端正な顔は実に愉快そうだった。


「だってサニーは関節とか人体破壊とか、そういうのばっかりだろ。こっちが持たない」


「なんだったら、俺様が手取り足取り腰取り」


「No,thank you.(結構だ。)オレなんかより姫様の方がスタイルいいだろ」


「あれはカタ過ぎるんだよなぁ」


「あー、ガードがってこと?」


「いやいや、肉付きがな?俺はもう少し柔らかいのが好きなんだよ」


「は?」


「姫は鍛え過ぎだな。だからノアくらいの肉が一番抱き心地がいいんだぜ」


「…………知るか」


目を細めて冷めた、軽蔑に近い視線を送るがサニーは一向に気にせずむしろ心地よさそうにその視線を受け止めていた。サニーからしたらからかって楽しむような悪戯っ子の心境なんだろうけど、私にはただのマゾにしか見えない。

変態と一緒に渋々歩いて、目指すは[格闘場]と書かれた部屋。前を歩いていたサニーがドアを開けば、もう部屋なんて呼べる広さじゃない空間が広がっていた。一つの立派な闘技場のような広いその部屋に私たちは何の躊躇いもなく入り、真ん中あたりまで一緒に歩くと同時に背を向けて互いに間合いより相手が遠い距離になるように離れる。


「ノア!準備はいいか?」


「All right.(いつでもいいよ)」


私の声に、サニーが口角を上げたのを見た。

その瞬間さっきまでのお遊びの雰囲気から一転、鋭い刃物のような殺気を放つサニーに私の肌がひりひりと粟立ちその殺気を受け止めた。私が腰を屈め、前傾姿勢になってサニーに向かって矢のように飛び出すとそれに応戦すべくサニーも片腕を振り上げ―――。


そして時間にして30分足らず。軍配はサニーに上がった。


その後私はサニーに運ばれ、もとい担がれて[医務室]と書かれたプレートを下げる部屋で治療を受けていた。

ここは、患者用のベットはもちろん、様々な薬や医療器具が揃う部屋だ。下手したら小さな町病院なんかよりもよっぽど物は揃っていると思う。ただ…どうも劇薬や試験管ばかりが並んでいる[医務準備室]には近づきたくないけど。

ここにはもちろん、私の怪我の治療に。無傷なサニーとは違って私はあの30分間の間で怪我だらけになった。


「痛ってー…お前組手でここまでなるか普通」


「わ、悪い悪い。つい、な」


「Don't talk rubbish!(ふざけるな!) “つい”で肋骨と利き腕と手首を折られてたまるか!」


肋骨3本と、左手首の骨折、右腕の骨は折れる一歩寸前の(ひび)。計全治何ヶ月にもなる怪我を負わされた。

治療室にある椅子に座り、申し訳なさそうに言葉を濁すサニーに私は目を据わらせ噛みつかんばかりの勢いで言葉だけで食って掛かる。たった30分間の間にこんなに怪我を負わされちゃ今後の訓練に支障が出る、というかもうサニーと組手したくない。

私の胸元と左手首、右腕には真新しい包帯が綺麗に巻かれていて。それはサニーによるものでも私によるものでもない。


「悪かったって言ってんだろ?昔のお前より相手するのが楽しいからさ」


「楽しくて他人(ひと)の骨を折るのか。この変態」


椅子に座ったまま鋭くサニーを睨んで言い捨てるも、お手上げとばかりに肩を竦められ私は小さく舌打ちした。


「けどよ、そんな姿で睨まれても可愛いだけだぜ?」


そんな姿、とは。

私は今、自分の頭の上に一対の獣耳…猫耳を生やし視線を下に向けると黒くて細長い尻尾が生えている。黒い髪に、黒い耳と尻尾はまさに黒猫。確かにこんな姿じゃ説得力には欠けるかもしれないけど、それとこれとは話が別だ。

見ての通り、私は普通の人間じゃない。その話を初めて聞いたのは二年くらい前だけど、とにかく普段は普通の人の姿だけど今のこの姿になると怪我の治りが異常に早くなる。原理はよく分からないけど、全治数ヶ月のこの怪我だってこの姿になるだけで20分もあれば完治までとはいかないけどほとんど治る。昔この姿になったばかりの頃だったら倍以上の時間がかかっただろうけど、私だって二年間死に物狂いで訓練したんだから。それにこの姿で戦えば普段よりも身体能力が上がる。それでも、ここまで短時間にこんなにも怪我を負わされることは滅多にないんだけど。

収まらない怒りをどう発散させようかとサニーを睨んでいると、[医務準備室]ドアが開いて白衣の女が出てきた。


「アンタ、サニーが手加減したってこうなるのね」


私の姿を見て溜息をつきそう言うのは医者の資格を持つ不知火(シラヌイ)

元々はどこかの医療大学の研究生だったらしいんだけど、何故か今は専属医としてその知識で私たちの怪我を治療してくれている。豊満な胸を覆う黒のチューブトップに太腿を覗かせるスリットの入った黒のタイトスカートのへそ出しルックが、艶めかしい雰囲気を存分に醸し出していた。それに負けず劣らずの色気のある茶色いショートの髪のうなじに同じく茶色の瞳を持つ不知火はどこかのモデルのように全てが整っていた。

そんな不知火の呆れた声に私は頬を膨らませた。


「今やってる訓練は猫化しなくても強くなるためなんだぞ」


「だからってそんなに怪我してたら、やっぱりその力に頼りっきりになるじゃない」


「むぐぐ…」


机に腰かける不知火の冷たい正論に私は言葉を詰まらせるだけで反論できなかった。

“猫化”とか“その力”と呼ばれているのは、この黒猫のような姿のこと。本当の名称はskewed(スキュード) truth(トゥルース)(歪められた真実)と言って別名“パンドラの猫”って言われてるみたい。私は見た目から適当に“猫化”って呼んでるけど、他の人は“キャット”だったり“キュルース”(スキュードトゥルースの略)って呼んだりしてるから本当の名称で呼んでる人は誰一人いない。まあ、長い名前だし私はそういうのを気にする性格でもないし。

それにしても、呆れたまま正論を言う不知火に私は完全に拗ねた。顔を俯け、眉を顰めてて頬を膨らませながら沈黙を始める。


「あら、拗ねちゃった」


「悪かったって。機嫌直してくれよ」


くすくすと笑う不知火と困ったように頭を掻くサニー。

怪我と訓練以外は普通の生活のような光景に、眩暈を起こしそうになる。今までのことは全て嘘だったんじゃないか、今私は望んで止まなかったものに浸かっているんじゃないか。

英語に日本語のルビはふれないんですね…読みにくいかもしれないですが、すいません。

英語が苦手な作者のためにも日本語訳は必要なので…。

この英語もすべて無料翻訳サイトから引用したものです。

信憑性に欠くかもしれませんが、ニュアンスが伝わってくだされば幸いです。

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