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『虚現と野良猫の堕ちていく記憶』  作者: 繃琥
0.残酷なる悪夢
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これは、なに?


「…ぁ」


喉の奥から、声にならない空気が漏れた。

私の目の前に広がっているのは、赤、赤、(あか)(あか)――――。

そして、私の父さんと母さんの首と、流れ出る二人の命。


「ど…して…」


溢れ流れる涙が止まらない。気持ちが混濁して何も考えられない。

それでも目の前に広がる現実は、否が応でも私の脳を揺さぶって思考の停止を邪魔する。


「………」


父さんと母さんの首のそばに、床に伏せその命を垂れ流し赤い水溜りをつくるそのそばに、黒い男がいた。感情を窺えないその表情で、座り込んで動けない私を見下ろすその姿はさながら悪魔か死神のようだった。


どうして?


どうして私がこんな目に合わないといけないの?

どうして父さんと母さんが殺されないといけないの?

どうして私は今……この男に銃を突きつけられているの?


「…お前は、どうしたい」


「っ、え…?」


銃を私に突きつけたまま、男は問う。けど、私にはその言葉の真意が分からない。

どう答えれば私は死なずに済むの?どう答えればこの男は私の前からいなくなるの?

涙を流すだけで何も答えない私に、男は銃を持った腕を下ろしてゆっくりと近づいてきた。あまりの恐怖に後ずさることも出来ず、目の前まで来た男を見上げると男は震える私の前にその片膝をついた。


「答えろ。お前はどうしたい」


「な…にをっ?」


「ここで死にたいか?」


その男の質問に、私は震えながら小さく首を横に振った。


「それなら俺と共に来い。俺と同じ道を歩め」


その言葉には、返事を返せなかった。

銃を突きつけるこの冷たい男と、同じ道を?父さんと母さんを殺したこの男と同じ道を?


「お前が選べる道は二つに一つだ」


非情にもそう男はそう断言して私を鋭く見つめてくる。

どうして、どうして私の人生をこの男が決めることが出来るの…?


「―――っ!!」


そう思った瞬間…私の何かが弾け飛んだ。

勝手に父さんと母さんを殺しておいて!勝手に私の人生を狂わせておいて!土足で私のテリトリーを荒らしておいて!こんな理不尽を生み出しておいて!

私は、そばに落ちていたガラスの破片に手を伸ばして咄嗟に握りしめ、前屈みになって男に刺そうと腕を突き出した。でも、余裕な動作で体を横にずらして避けると突き出されたままの私の腕を掴んだ。


「――ぁ、痛っ」


「…何の真似だ?」


男が私の腕を掴む手に力を入れるから、私の腕は小さく嫌な音を立てて痛みを訴える。底知れないほどの低い声で問われ、私の体が大きく跳ねた。

それでも、認められない。納得なんて、出来っこない。

私は腕の痛みに顔を歪めながらも男を睨みつける。何にも感じていない――そんな瞳に呑まれそうになりながらも男を睨むことは止めない。


「認められるか!?こんな不条理を!!こんな…悪夢みたいな現実を!!」


涙は止まったけど恐怖が消えたわけじゃない。それでも必死に男に訴え、怒鳴る。

誰のせいでこうなった?誰のせいで全てが狂った?―――この男のせいだ!


「…俺の質問に答えるだけにしろ。死にたいか?それとも、俺と共に来るか?」


「――――っ!!」


声にならない怒りが湧き起こる。私の言葉なんて最初から聞いていないかのように振る舞う男に、もはや恐怖の感情も薄れそうになっていた。けど、私の気持ちなんて鑑みない男は持っていた銃を私の額に突きつけた。もちろん、銃口が私の額に向くように。


「最後の猶予だ。選べ。今すぐ、ここで」


さっきと同じ底知れないほどの冷たい声が、突きつけられた銃口が、私の熱くなった思考回路を冷やしていく。父さんと母さんを殺されて、憎くないはずがない。こんな状況に置かされて、恨まないはずがない。それでも………。


「…まだ、死ねない。死にたく、ない…っ」


漸くさっき止まった涙が、また溢れ流れてきた。銃口を突きつけられ、死を目の前に用意されて薄まった恐怖が蘇ってきた。もう、あとは言葉にならない。


「そうか。なら、俺と共に来い」


「い、やだ…」


反射的にそう答えていた。

でも、それは本心からではなく私の最後の意地だった。人生を狂わされ、そしてもっと狂わされるだろうことへの、最後の虚勢。そして男はきっとそれを見抜いていたのだろう。黙って立ち上がると私の手を引いて立ち上がらせた。少しふらつきながらも立ち上がると、まだしっかりと歩けない私の肩を抱いて男は歩き出した。

私は、心の中で父さんと母さんに謝りながら、男についていくことしか出来なかった。


今なら分かる。

男はただ、選ばせただけなのだと。

きっと私があそこで死を選べば、その銃で額に風穴を開けられ、父さんと母さんのように命を垂れ流しながら死んでいくのだと。

そしてそれは…私が、生きることでこの道を歩いていくことを選んだという非常に理不尽な現実を、受け入れなければならないということを。


男はただ、私に問うただけなのだ。


生《業を背負う》か、死《現実から逃げる》か―――――。


殺し屋ものです。知識不足で文才もないのですが、頑張っていこうと思っています。

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