第2話 不吉な男
曲がろうとした美咲だったが、前方にいる男に会ったことあった様な気がして思わず、止めた。
男は美咲に気付いていたようだ。
「……久しぶりだねぇ……」
ビクッ
(そ、その声。聞き覚えがある……)
男がそう言って顔を上げた。男の顔を見た美咲は蒼褪めた。
(左の目尻に黒子が2つ…それに、この気……ま、まさか………!?)
美咲は男の全身を隅々まで観察した。すると、手の甲と腕に刃物で切られたような傷跡が無数にあり、首の右側に3つの黒子があった。
(あ、あの、お、男が……!?)
美咲の体は震え出した。
美咲が来ないことに気付いた拓海たちは後ろを振り返った。すると、美咲はT字路の所で立ち止まっていた。
「美咲、何してるの?」
「早く!」
美奈と美帆が呼ぶが、美咲は動く気配がない。
「どうしたんだろう?」
「固まってるみたいだけど」
拓海は美咲はの様子を隈なく観察する。
(顔が真っ青。それに震えてる?)
そのことに気付いた拓海は嫌な予感がしたので美咲のほうへ向かって歩き出した。
「7年ぶりだね。あの時はガキだったけど、今はいい女になったな。胸も大きくなってるし、尻もエロくなってるし。7年前に邪魔された借り、その体で返してもらおうかぁ〜!!」
(ッ!!?)
男が美咲に接近し始め、美咲は危ないと思ったが、焦りや困惑や混乱、恐怖で体が言うことを聞かない上、逃げるということさえ考えられないほど冷静でない状態だ。
その間にも男はどんどん近づいていき、美咲との距離が10mほどになった。
美咲の方に向かっていると、角から男の姿が見え、拓海の視界に入った。
(何だ、あの男は? 不吉なオーラが漂っている……)
危険を察知した拓海は走り出した。それを見て美奈たちも美咲の元へ走り出す。
男が左を見て歩みを止めた。
「どうやら、邪魔が入って来そうだな。仕方ない。残念だけど、今日はこれで失礼するよ。また近いうちに会いに行くから、その時は、何も考えられないくらいその身体をタップリ弄んであげるからね!」
男はそう言って来た方へ走り去った。
「――――じゃ―――――――――だな。――――い。ざ――――けど、―――――でし―――――よ。その時は、―――――――――――くらい―――――をタ――――んで―――――ね!」
(何か言っているようだけど、聞き取れない!)
あと5mで美咲の前に出れるところまで来たとき、男は元の方へ走り出した。
拓海が美咲の前に飛び出し、男が走り去った方を見たが男の姿は人込みで見つけられなかった。
「大丈夫か? 斎藤」
振り向きながら美咲に尋ねた。だが、美咲は震えていて、さらに胸を苦しそうに両手で押さえ蹲っていた。
「どうした!? 大丈夫か!?」
「「「美咲!?」」」
「ねえ、大丈夫!?」
美奈や祐輔たちも美咲の様子を窺う。だが、美咲はしゃべれないようで口を開いたり、閉じたりするだけ。拓海は美咲の口元に耳を近づけると、わずかに聞こえた。
「………も……ろ……か……わ……か……つ……や………」
そう言って美咲は倒れた。
「「「美咲!?」」」
「祐輔、救急車!」
「わかった!」