第10話 偶然
走ってくる足音がしたため、美幸は素早く振り向くと、男がナイフを握って走ってきた。
「(ナイフ!?)」
さすがの美幸でもナイフ相手に構えずにいるのは無謀なため、空手の構えをして、戦闘態勢に入る。
男はそのまま突っ込んできたため、ナイフを避けると男の腹部に前蹴りを入れた。ハイヒールの前蹴りを食らった男は後方に吹っ飛んだが、すぐに立ち上がり再び突っ込んでこようとした。ところが、男は後方から誰かに横っ腹を蹴られ、壁に衝突して気絶した。
男を蹴り飛ばしたのは、青城大付属高校の制服を着た金髪の男子だった。
「大丈夫ですか?」
「ええ。助けてくれてありがとう!」
「いえ、男として当たり前のことをしただけです。それより警察に連絡をしないと(斎藤に似てる)」
「そうね」
5分後、警察が来て男たちは連行された。後日、美幸と金髪の男子は事情聴取をすることになった。
「それじゃあ、俺はこれで」
「あ、ちょっと待って! 助けてもらったお礼に夕飯をご馳走させて」
「ですが……」
「私の家、ここから近いの」
「……わかりました。それじゃあ、ご馳走になります」
美幸は金髪男子と自宅へ向けて歩きだした。
「君、青城大付属高校の生徒よね?」
「はい」
「うちの娘もそうなのよ」
「そうなんですか。それにして、さっきの格闘シーンは凄かったですね。何か武道を心得でもあるんですか?」
「学生時代に合気道をね。あと空手を少々。空手なら、娘の方が凄いけどね」
「娘さん、空手を嗜んでいるんですか(もしかして、この人……)」
「長女は空手と柔道と合気道の3つね。次女は柔道と合気道、一番下の双子は空手と合気道をね」
「4人のお子さんがいるんですか!? とてもそうには見えません」
「よく言われるわ! そのせいでさっきみたいにしょっちゅうナンパされるのよ。娘と一緒でもね。着いたわ。ここのマンションよ」
6階でエレベーターを降り、607号室の前に来たとき、金髪男子が口を開いた。
「何となく、そんな気がしていたんですけど……」
「何が?」
そう言いながら鍵を開け、ドアを開ける。
「さあ、入って!」
「お邪魔します」
金髪男子は靴を脱いで美幸の後をついて行く。廊下の先のドアを開けて見えたのはリビングだった。
「ただいま!」
「お帰りなさい! 今日は早かったね」
「上手くいったからね」
「そうなんだ。ところで誰かいるみたいだけど、お客さん?」
「ええ。帰りにナンパにあって揉めてたところを助けてくれたの」
「へえ」
「さあ、こっちに」
美幸が手招きするので金髪男子はリビングに入り、美幸と話していた相手である美咲と顔を合わせた。
「えっ……、黒田……」
「お邪魔します……」
金髪男子は拓海だった。