第2話 なぜ!?
美咲は沈んだ気分を隠してバイトを続けた。
「お疲れ様でした」
「お疲れ!」
従業員専用口から外に出る。
「あ、普通になってる」
向かいのビルの壁に寄りかかってこっちを見る拓海がいた。まさかいるとは思っていなかった美咲は思わず肩にかけていたカバンがずり落ちる。
「な、何の用だ!!」
「いや、さっきのが本当に斎藤なのかな、と思って。なんでこんなばいとしてんの?」
中から近づいてくる音が聞こえた美咲は、「とりあえず移動するぞ!」と言って拓海の服を掴み、その場を離れた。
2人は近くの公園に着き、ここでさっきの話の続きを始めた。
「ふーん。家庭の都合ねえ。でも、なんで男嫌いなのにメイド喫茶のバイトなの?」
「元々はお母さんの友達が経営してる飲食店でバイトしていたんだよ。でも、その時のシフトじゃお金が足りなくて、バイトの掛け持ちをしていいか相談したときに、その人の妹が経営してる“あの店”を紹介してくれたんだ。悩んだけど、時給が良かったからあそこでも働くことにしたんだ」
「てことは、まだ最初のところでもバイトしてんだ」
「ああ。最初のバイト先は日曜と火曜と土曜の17時から5時間、さっきのところは日曜の9時から6時間と木曜の17時から5時間やってる」
「月水金はやらないの?」
「その3日は特売の日だから」
「それは大変だね」
無関心そうに言う拓海。
(これじゃあ、まるっきり同じ展開じゃん………)
拓海の様子と先程のやり取りで美咲はまた同じことを心の中で呟いた。
そのあと何もなく2人は別れ、それぞれの帰路に着いた。
あれから4日経ったが、何の噂もなかった。そのため、美咲は拓海のことを特に気にせず、火曜の今日は松川亭のバイトなので放課後、松川亭に向かった。
日曜と火曜はホール、土曜は厨房のバイトのため、美咲はホールに出る。いつも通り働いていた。
ところが、7時過ぎ、全く予想もしていなかった人物がやって来た。
『カラン』
「いらっしゃ…い…ま…せ!!?」
やってきた客の顔を見た美咲は、思わず目を見開く。
(く、黒田拓海!!?? なんでここに!?)
店の名前を教えた覚えがないのに、なぜ拓海がここにいるのか。美咲の頭はパニック状態になるが、平静を装い拓海を席に案内する。水とメニューを持っていくと、他の客のメニューを受けに行った。
拓海の注文は他の人が受けたため美咲はなるべく気にしないでいた。
美咲が休憩に入ると佳澄がニコニコしながら尋ねてきた。
「ねえねえ、美咲ちゃん! 彼、知り合いなの?」
「ええ、まぁ。クラスメイトです」
「すごくかっこいいわねぇ! もしかして、どこかの御曹司?」
「黒田グループ総帥の御子息です」
「く、黒田グループ!? 黒田グループってあの!? なんでそんな子がうちの店に?」
「さあ、私にもさっぱり…」
その後も拓海は2時間半も居続けた。その間、ずっと美咲のことを見ていた。




