第1話 発覚
ファンクラブとの対決にケリをつけた金曜から6日経った木曜日の放課後。
美咲はバイト先に向かっている。バイトは美幸の友人、松川佳澄と佳澄の夫が経営する飲食店『松川亭』と佳澄の妹の新城睦美が経営するメイド喫茶『スイートミルク』だ。始めは松川亭で時給900円で1日5時間の週3日バイトしていたが、それだけではお金が足りなかった。そのためシフトを変更してもらおう話したときに、佳澄からスイートミルクのバイトを紹介された。男嫌いの美咲にとっては乗り気になれなかったが、時給が1000円だったので5月の半ばから引き受けたのだった。
現在は、日・火・土曜の17時~22時は松川亭で、日曜の9時~15時と木曜の17時~22時はスイートミルクでバイトしている。今日は木曜なのでスイートミルクでバイトだ。スイートミルクに着いた美咲はスタッフ専用口から入る。
「こんにちは!」
「あ、美咲ちゃん! 次の日曜はアニメキャラDayなんだけど、ミサキちゃんは何にする?」
店長の睦美がなんのキャラにするか尋ねてきた。
「私はなんでもいいですよ」
美咲はそこまでアニメに関して詳しくないので選びようがない。だから、いつも他のスタッフに決めてもらっている。
美咲は自分のロッカーを開け、メイド服に着替える。
(1ヶ月は経ったけど、どうもまだ慣れないなあ。でも家計のためには、私が頑張んないと!)
美咲は着替えながら気合を入れ、控え室からフロアに出る。
美咲が休憩で控え室に入ろうとしたとき、睦美に呼び止められた。
「なんですか、店長?」
「悪いんだけど、これを急ぎでいつものクリーニング屋さんに持っていてもらえるかしら?」
「いいですよ!」
そう言って受け取ったのは、コスプレの衣装やテーブルクロスなどが入った袋だった。美咲はその袋を持ってスイートミルクから徒歩5分の所にあるクリーニング屋に持っていった。
「すいませーん。クリーニングお願いします!」
「いらっしゃいませ。いつも通り急ぎかしら?」
「はい!」
「わかったわ。今からだと、土曜の午前中にはできているので」
「わかりました」
美咲はクリーニング屋を後にする。
「早くしないと休憩が終わっちゃう!」
美咲は早足でスイートミルクに戻る。そして裏のスタッフ専用口から入ろうとした時だった。
「あ。こりゃあ、びっくり。斎藤だ」
「!!?」
美咲は声のした方を向く。そこにいたのは、拓海だった。
(黒 田 拓 海 !!)
美咲は一瞬固まるが、我に返ったのか、慌てて中に入ってドアを閉めた。
(………最悪だ………。うちの学校の生徒、特に男子には知られたくなかったのに……よりによって同じクラスのあいつに知られるなんて……。これじゃあ、某漫画と同じ展開じゃない!?)
美咲の気分はどん底まで落ちていった。