「ずるいずるい」が口癖の妹にガチ切れしたら「こすいこすい」と言い始めた……違う、そうじゃない
「ずるいずるい! お姉様だけそんな素敵なドレスずるいー!」
静寂が包む公爵家のサロンに、妹であるドロシーの甘ったるい甲高い声が響き渡る。
それを聞かされた私——公爵家長女のアリシアは、淹れたての紅茶を優雅に口へ運んでいた手をピタリと止めた。
また、だ。
また始まった。
幼少期からずっとこれだ。
甘やかされて育った妹は何かにつけて、その言葉を口にする。
私が努力して手に入れた家庭教師からの褒め言葉も、夜会のために仕立てたドレスも、果ては王太子殿下との婚約という重責すらも。
それらは全て、彼女にとっては「ずるい」の一言で片付けられ、私から奪おうと駄々をこねる口実でしかないのだ。
(……もう、限界だわ)
プツン、と頭の中で何かが切れる音がした。
私はティーカップをソーサーに静かに置くと、ゆっくりと立ち上がり、扇子をパンッと音を立てて閉じた。
「いい加減にしなさい、ドロシー!!」
大音量の怒声に、ドロシーどころか控えていたメイドたちまで肩を跳ねさせる。
「あなたは何でもかんでも『ずるい』で片付けようとするけれど、私がこのドレスを着られるのは、日々の体型維持とマナー教育の賜物よ! あなたが毎日遅くまで寝て、お菓子を貪っている間、私がどれだけの努力を重ねてきたと思っているの!? 語彙力も品性もないその口癖、金輪際やめなさい!」
目を見開いて硬直するドロシーとあたふたと慌てるメイドたちを置いて、私は怒気を含んだ足取りでその場を去った。
これで少しは自分の行動を省みて、少しは大人しくなるだろう——そう思っていた。
◇◇◇
……しかし翌日。
「……お姉様。自分だけ朝から高価な美容オイルを使うなんて……こすい! こすいわ!」
物陰からジト目で私を睨みつけ、指をくわえながら呟くドロシーの姿があった。
「……は?」
「だってずるいは駄目なんでしょ? だから言い換えたの! お姉様だけ自分磨きして狡猾に評価を上げようとするなんて、こすいこすい! こすい女!」
……違う。
そうじゃない。
言い換えの問題ではない。
似たような意味の類義語を見つけてドヤ顔をしている妹の姿に、思わず頭を抱える。
根本的な『他人の努力を嫉妬して集ってたかる根性』を注意したのだと、なぜ伝わらないのか。
「……ドロシー。言葉を変えればいいという問題では——」
「あー! また私に説教しようとしてる! こすい! 自分の立場を利用して妹を威圧するなんて、やっぱりお姉様はこすいんだわ!」
キッとこちらを睨みつけ、プイッと袖を振って走り去っていく妹。
……頭が痛い。
類語辞典を引く情熱があるなら、少しはマナーの勉強に回してほしい。
しかし、私の頭痛の種はこれだけでは終わらなかった。
◇◇◇
「……アリシア。最近、ドロシーが君のことを『こすい姉だ』と泣きついてくるのだが……」
数日後、公爵邸を訪れた婚約者の王太子・ルディウス殿下が、困惑した面持ちで私に尋ねてきた。
「申し訳ございません、殿下。私の指導不足で……」
「いや、責めているわけではないんだ。ただ……なんだか、言葉のチョイスが個性的だなと」
「あぁ……」
思わず顔を手で覆ってしまう私の様子を見て、殿下はふっと口元を緩めた。
「ようは彼女に嫉妬されるほど、君が魅力的で努力家だということだろう? 君がどれほど真面目に生きているか、それは私が一番よく知っている」
そう言いながら、殿下は優しく私の手を取った。
「でも、あまり一人で抱え込まないで。たまには私を頼ってくれると嬉しい」
そして、はにかんだような笑顔を私に向けてくれる。
(……ああ、この人が私の婚約者でよかった)
妹の言動に頭を抱える毎日だけれど、理解してくれる人がいるだけで救われる。
そう思い、私が微笑み返そうとした——その時。
柱の影から、ぬっとドロシーが顔を出した。
「……殿下と手を握りあって胸キュン雰囲気を演出するなんて……あざとい! お姉様、今度はあざといわ!!」
ぶちんっ!
「語彙のバリエーションを増やすんじゃないわよっ!!」
またしても私の怒声が公爵家に響き渡り「あざといあざとい!」と言いながら逃げていくドロシー。
その後ろ姿を見送りながら「これは随分と骨が折れそうだね」と呟く殿下に、私は苦笑いを返すことしかできないのだった。
教育って難しい。
父と母の口癖は「えらいえらい!」です。(アカン)
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




