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「ずるいずるい」が口癖の妹にガチ切れしたら「こすいこすい」と言い始めた……違う、そうじゃない

掲載日:2026/07/25

 

「ずるいずるい! お姉様だけそんな素敵なドレスずるいー!」


 静寂が包む公爵家のサロンに、妹であるドロシーの甘ったるい甲高い声が響き渡る。


 それを聞かされた私——公爵家長女のアリシアは、淹れたての紅茶を優雅に口へ運んでいた手をピタリと止めた。


 また、だ。

 また始まった。


 幼少期からずっとこれだ。


 甘やかされて育った妹は何かにつけて、その言葉を口にする。


 私が努力して手に入れた家庭教師からの褒め言葉も、夜会のために仕立てたドレスも、果ては王太子殿下との婚約という重責すらも。


 それらは全て、彼女にとっては「ずるい」の一言で片付けられ、私から奪おうと駄々をこねる口実でしかないのだ。


(……もう、限界だわ)


 プツン、と頭の中で何かが切れる音がした。


 私はティーカップをソーサーに静かに置くと、ゆっくりと立ち上がり、扇子をパンッと音を立てて閉じた。


「いい加減にしなさい、ドロシー!!」


 大音量の怒声に、ドロシーどころか控えていたメイドたちまで肩を跳ねさせる。


「あなたは何でもかんでも『ずるい』で片付けようとするけれど、私がこのドレスを着られるのは、日々の体型維持とマナー教育の賜物よ! あなたが毎日遅くまで寝て、お菓子を貪っている間、私がどれだけの努力を重ねてきたと思っているの!? 語彙力も品性もないその口癖、金輪際やめなさい!」


 目を見開いて硬直するドロシーとあたふたと慌てるメイドたちを置いて、私は怒気を含んだ足取りでその場を去った。


 これで少しは自分の行動を省みて、少しは大人しくなるだろう——そう思っていた。



 ◇◇◇



 ……しかし翌日。


「……お姉様。自分だけ朝から高価な美容オイルを使うなんて……こすい! こすいわ!」


 物陰からジト目で私を睨みつけ、指をくわえながら呟くドロシーの姿があった。


「……は?」


「だってずるいは駄目なんでしょ? だから言い換えたの! お姉様だけ自分磨きして狡猾に評価を上げようとするなんて、こすいこすい! こすい女!」


 ……違う。

 そうじゃない。


 言い換えの問題ではない。

 似たような意味の類義語を見つけてドヤ顔をしている妹の姿に、思わず頭を抱える。


 根本的な『他人の努力を嫉妬して集ってたかる根性』を注意したのだと、なぜ伝わらないのか。


「……ドロシー。言葉を変えればいいという問題では——」


「あー! また私に説教しようとしてる! こすい! 自分の立場を利用して妹を威圧するなんて、やっぱりお姉様はこすいんだわ!」


 キッとこちらを睨みつけ、プイッと袖を振って走り去っていく妹。


 ……頭が痛い。

 類語辞典を引く情熱があるなら、少しはマナーの勉強に回してほしい。


 しかし、私の頭痛の種はこれだけでは終わらなかった。



 ◇◇◇



「……アリシア。最近、ドロシーが君のことを『こすい姉だ』と泣きついてくるのだが……」


 数日後、公爵邸を訪れた婚約者の王太子・ルディウス殿下が、困惑した面持ちで私に尋ねてきた。


「申し訳ございません、殿下。私の指導不足で……」


「いや、責めているわけではないんだ。ただ……なんだか、言葉のチョイスが個性的だなと」


「あぁ……」


 思わず顔を手で覆ってしまう私の様子を見て、殿下はふっと口元を緩めた。


「ようは彼女に嫉妬されるほど、君が魅力的で努力家だということだろう? 君がどれほど真面目に生きているか、それは私が一番よく知っている」


 そう言いながら、殿下は優しく私の手を取った。


「でも、あまり一人で抱え込まないで。たまには私を頼ってくれると嬉しい」


 そして、はにかんだような笑顔を私に向けてくれる。


(……ああ、この人が私の婚約者でよかった)


 妹の言動に頭を抱える毎日だけれど、理解してくれる人がいるだけで救われる。


 そう思い、私が微笑み返そうとした——その時。


 柱の影から、ぬっとドロシーが顔を出した。


「……殿下と手を握りあって胸キュン雰囲気を演出するなんて……あざとい! お姉様、今度はあざといわ!!」


 ぶちんっ!


「語彙のバリエーションを増やすんじゃないわよっ!!」


 またしても私の怒声が公爵家に響き渡り「あざといあざとい!」と言いながら逃げていくドロシー。


 その後ろ姿を見送りながら「これは随分と骨が折れそうだね」と呟く殿下に、私は苦笑いを返すことしかできないのだった。

教育って難しい。

父と母の口癖は「えらいえらい!」です。(アカン)


※この作品はaiちゃんとの共同作品です。

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