完璧なサボり方
15分短編です
学生の頃は、ずっと学年一位をキープしてきた。部活では部長も務めたし、友人も多いし、先生には好かれていて、職員室ではほかの学年の先生ですら私の事を認識していたし、後輩からも慕われていた。
就職の時も、基本的な評価が良かったし、同学年の誰よりも、就職先が決まるのが早かった。
入社一年目は、期待のルーキーなんて呼ばれてたし、このまま出世街道まっしぐらなんだと思っていた。
二年目になって、同期で一緒に入社した、私よりも仕事を覚えるのが遅かった奴が、業績の良い先輩と一緒に、成果を上げた。
私は未だに、お茶くみやコピーばかりやらされているのに。期待の新人の称号は、いつの間にか、彼の物になってしまった。そして今年の新人に勝手に引き継がれてしまった。
先輩たちと、同期の視線が、「お前はいつ成果を出すんだ」と言っているようで、怖いと思うようになったのは、二年目に入って、半年経った頃だった。
私だって、早く成果を出したいし、期待されるような人間になりたいとは思っている。でも、思いつくアイデアは、いつも「ありきたり」「どこかで見たような内容」「真面目過ぎ」と言われてしまう。だから懸命に頭を捻るし、休みの日には、普段いかない場所や、旅行などに無理にでも行って、新たな経験を積むようにはしている。でも、私の出すアイデアは、どうしても一辺倒で面白くないと評価されてしまう。私の指導係になった先輩は、懸命に励ましてくれるけど、私はなんとなく、呆れられているような気がしてしまって、だんだん会社に行くことが怖くなってきた。
「今日会社休んじゃおうかな」
何て言葉が、朝の部屋に落ちていく。でも今まで真面目に仕事してきたのに、急にそんなことしたら、他の人に迷惑がかかるし、今日のタスクは完璧にこなしてしまいたい。もし休暇を貰うにしても、今抱えてる案件は片付けてからにはしたい。だから、重い足を引きずってでも、私は仕事に行くんだ。
母が淹れてくれたコーヒーを飲み干して、席を立った瞬間、めまいがして、足に力が入らなくなった。
「え・・・」
気が付くと私は床に座り込んでしまっていた。ナニコレ、どういうこと?
「どうしたの?」
出勤の準備をしていた母が、自室から出てくると、私をみて目を見開いた。
「お母さん・・・」
「今日は休みなさい」
母はそう言うと、私のスマホで会社に連絡をしてくれた。母も自分の会社に連絡すると、私をソファに連れて行ってくれた。
「お母さん、私、どうしよう、あの、頑張れば行けると思うの!午後からでも」
「今日は、私と一緒に過ごしましょう」
母の目に何か強いものが宿っている様に見えた。
ソファに座る私に、母はココアを入れてくれた。自分の分も持ってくると、隣に座って、テレビをつけた。昼の主婦向けの、他愛もないグルメ情報を見ながら、二人でココアを飲む不思議な時間。でもなんだか、不安に蝕まれている心は少し落ち着いたような気がした。
「私もね、昔そうなったことがあるの」
母はそう言って、昔の話をしてくれた。母は昔完璧主義で、仕事を懸命にやりすぎて、入院する騒ぎになったことが有るらしい。
「そうなんだ」
「そう、だからね、あなたが完璧主義になってるの見て、何時かこんな日が来るんじゃないかって思ってた。そんな日が来たら、私が一番にあなたを甘やかしてやろうって思ったの」
母はそう言って、頭を撫でてくれた。ちょっと小学生の頃に戻ったようで、気恥ずかしいけど嬉しかった。
「久しぶりにココア飲むと落ち着くわねぇ」
言いながらテレビに映った、知らない街のグルメ情報を母とけらけら笑いながら、楽しんだ。
——人生初のサボりを経験した——
サボるのって、楽しいね




