vol.3:イケメン君
智樹は入社3年目の25歳、ようやく仕事を任せてもらえる様になった所だ。
大学を卒業してなんとか大手では無いが1部上場企業に入社出来た。残念なのは生まれ育った関西では無く、埼玉の片田舎の工場に配属になった事だ。一人暮らしはしたかったのだが、関西に大学の時から付き合っていた彼女を置いてきてしまい遠距離恋愛になってしまったからだ。しかも勤務先は工場なので同じ職場に数人いる若い女性も高卒の世間知らずのキャピキャピタイプしかおらず話が合わない。また埼玉の片田舎は遊ぶ所も無く、都内の池袋に行くのに1時間半もかかるのでついつい億劫になってしまい、数ヶ月に一度彼女に会いに帰る関西だけが楽しみという生活だった。彼女の立場としては浮気の心配が無く安心だったのだが、さすがに遠距離恋愛3年目という事で正式なプロポーズを受けてはいないがお互いそろそろ結婚に向けて具体的な話をしていた。
彼女は智樹の同い年の25歳、1990年代のその頃としてはそろそろ結婚適齢期だ。彼女からしてみれば智樹は同い年でイケメンで埼玉の田舎とはいっても1部上場企業で働いていて条件としては申し分無い。周りからも羨ましがられる美男美女カップルだった。
智樹は仕事も順調で入社3年目という事で数人のグループではあるが、上司の課長からその責任者を命ぜられた。
「智樹君、先日も予告したが今期からグループ長をやってもらう事になった。今まで君のやっていた仕事は隣の事業部から配転される太田麻央という女性社員に引き継いでグループ長として指導してくれ。年は同い年の様だな。同期入社か?」
「えー、太田麻央ですか!?同期だから良く知ってますよ。まあ、地道にコツコツとやるタイプみたいだから僕のやっていた仕事は合うかも知れませんね」
智樹は内心'チェッ、アイツかよ。めんどくせーな'と思ったが、実は同期の中で麻央はこの工場に配属された唯一の女性で男女を含めて1番気が合う人間だった。女っ気というものが全く無く本当に友達感覚で気が許せる相手だったので'まあ良いか'と満更でもない気分だった。
麻央のそれまでいた事業部は、客の要望にカスタマイズしたシステムを設計する部署で、言われた事をコツコツとこなしていくタイプの自分には合わなかった。入社2年でそんな事できる奴は男でもそうそういない。みんな見栄を張ってごまかしたり先輩に媚びを売ったりして何とか夜中まで残業して仕事を覚えて、それで生き残る奴だけ昇進していくという「昭和か?!」というスタイルの事業部だった。それに嫌気をさした人間は辞めていくか、仕事が出来ないと烙印を押され隣の事業部に転籍させられていくというパターンで、麻央は後者の典型だった。
「智樹、久しぶり。今日からよろしくね」
「おっ!来たな。話は聞いていると思うけど俺がこのグループの責任者になった。麻央には俺が今までやっていた仕事を引き継いでもらう」
「あっ!じゃあ智樹って呼んじゃダメだね、グループ長様って呼ぼうか?」
「良いよ、智樹で。まあ、会議とかの正式な場面だけ気を使ってもらえば良いから。俺もその代わり麻央って呼び捨てにするぞ」
「ラジャー!」
智樹の所属する事業部はシステムでは無く部品をコツコツと設計、改良、製作していく業態で、それぞれのスタッフが何をどうやって仕事していくかがマニュアル化されている。コツコツ派の麻央にはピッタリの職場だった。
仕事を教えてくれる上司も同期の仲の良いイケメン君だったので入社以来初めて会社に来るのが憂鬱でなくなった、いやむしろ内心楽しかった。
智樹自身はこの工場の若い男性社員の中ではダントツのイケメン君だ。顔は芸能人並に小さいし身長は175cmくらいあって細身、顔も可愛い醤油顔タイプだ。世の中の女性はそんな彼を放置しておく訳は無く、大学時代にしっかり捕まった。その事は麻央を含めた同期社員には周知の事実で、麻央は'そもそもそんなイケメン君に私は絶対見向きもされないし彼女がいるんだったら異性として見なくて良いから楽だわ'と気軽に同期の飲み会で話したのがきっかけでお互い良い友達関係になって下の名前で呼び合う仲になったのだった。しかし周りの若い女性社員達はそんな麻央を疎ましく思っていたのも事実だった。
-続く-




