vol.13 絶頂期
出雲旅行の後は二人にとって絶頂期になった。出雲大社の神々のお方のせいかもしれないが、医学的にも恋をするとβ-エンドルフィンという脳内麻薬が分泌されていわゆる『恋は盲目』状態になるという事らしい。二人ともこの恋はどう考えても行き止まりだと理屈ではわかっていたのだが、この脳内麻薬のせいでしばらくは恋の絶頂期が続いてしまった。
麻央自身も赤い糸の話を忘れる程恋に没頭していたが、事実赤い糸は見えなかった。
'行くところまで行ったら見えるんじゃないの?やっぱりただの夢?'などと思っていた。
麻央のアパートは会社が家賃を援助する借り上げシステムの期限が切れ、ちょうど引っ越すところだったので通勤には少し不便な余り同じ会社の人間が住まない街に引っ越した。宮崎がアパートに来やすいという下心も有ったのは言うまでもない。池袋の反省会も続いたが回数は減り、ちゃんとしたデートや麻央のアパートでのお泊まりなどが増えた。
そんな時期が半年以上過ぎた頃、母親から見合いをしろとしつこく電話がかかってきた。
「麻央、もうすぐ33歳になるのよ。いい加減結婚しなさいよ。せめて見合いだけでも。気に入らなかったら断ってまた別の人と見合いすれば良いんだから」
「わかった、わかった。考えておく」
'確かにそろそろヤバイかも。このまま宮崎の付き合っていても結婚なんか無理だし、子供も作れない年齢になってしまう。いまの生活は恋も仕事も絶好調で楽しいけどそろそろ潮時かなあ'などと考え始めた。
一方で宮崎は社長から呼び出しを受けていた。
'何事だ!?俺何かしでかしたか?不倫がバレた?'
と心配しながら社長室に行った。社長の顔はもちろん知っていたが、一対一で面談するのは初めてだった。
「宮崎君、君を次回の株主総会で取締役に昇進させるつもりだ。君は45歳だな、当社始まって以来の最年少役員の誕生だ。これまで以上に頑張ってくれたまえ。株主総会は6月末だが発表はその1ヶ月半位前だ。家族以外は絶対に他言無用だぞ』
「!!!!!!!!!!!!」
宮崎は人生で1番驚いた。全く予期してなかった話だ。役員になるには部長の上にもう一つ理事待遇というポジションがあり、通常そこから役員に昇格するからだ。
同時に麻央の事が頭に浮かんだ。万が一、麻央と結婚するとしても下の娘が成人する15年後位になってしまうし、そこまで麻央を待たせるわけにはいかないとは思っていた。この昇格話で麻央との続けていくには現実的に無理な状態に追い込まれた。これで不倫がバレたら昇格どころか二人とも会社を追い出されるかもしれないと感じたからだ。
そんなある週末、宮崎がお泊まりに来ていた時のピロートークで麻央は切り出した。
「みーさん、私 見合いしようかと思っているの。このままじゃどうにもならないし・・・」
「・・・・・・ごめん・・・・・・俺が止める権利は無いよな・・・・・」
「みーさんと付き合いながら、とてもじゃ無いけど見合いなんて無理。他の人を好きにはなれないもの。
だから別れてね」
宮崎は昇格の件はまだ麻央に言っていない。どこかで切り出さなくてはと悩んでいたが、まさか麻央から別れ話をされるとは!非常に複雑な気持ちで一言返した。
「・・・・・麻央・・・本当にごめん・・・・・」
この時、真央の目にハッキリ赤い糸が見えた。
麻央は赤い糸を切った。
『ブチッ!!!』
-続く-




