オルゴールの音色に導かれて
好きなことだけをやって食っていくには、才能と幸運の両方に恵まれる必要がある。
どちらかが突出して長けていれば話は別だが、残念ながら片方だけでは難しいと言わざるを得ないだろう。
さらに言えば、好きなことが全く収入に繋がらないことも多い。
だからほとんどの者は我慢をして好きじゃない仕事をし、好きなことは趣味として楽しんでいる。
……そんな者達から見ると、俺は楽をして生きていると妬ましいらしい。
俺からすると好きなことは趣味として楽しんだ方が絶対良いと思うのだが、恐らくこれも隣の家の芝生が青く見えるのと同じ原理なのだろう。
ただ、俺だって別に我慢をせず好きなことだけをしているワケではない。
今こうして利益を無視した趣味の店を出せているのだって、若い頃に我慢をして好きでもない曲を大量に書いた結果だ。
夢の印税生活――とまではいかないが、結婚をする気も誰かに金を残す気もないので生活には何の不自由もない。
まだ人生半ばにも満たない年齢だが、俺はもうこの人生に満足しつつあった。
「ま、少し刺激は足りないが――」
「すいませーん!」
「ん?」
棚出しをしながら独り言を呟いていると、良く通る元気な声が響いてくる。
入口の方に目を向けると、そこにはまだ学生と思しき幼い顔立ちの少女が立っていた。
「あの、ここはオルゴール屋さんで、その、あってるでしょうか?」
「あ、ああ」
「良かった~、看板も出てないから凄く不安だったんですよ~」
この店は看板も出していないし、宣伝などもほぼしていない。
偶然たどり着く可能性は限りなく低いため、恐らく目的があって探した結果だと思われる。
「あの、ネットで色々と調べたんですが、ここはオルゴールの修理もしてくれるんですよね?」
「ん、ああ、物にもよるが、パーツさえあれば対応できるよ。ただ、わざわざこんな辺鄙なところに来なくても修理できるところなんて――」
「それが、どこに行っても難しいって言われて……」
少女はそう言いつつ、鞄からオルゴールを取り出す。
それを見た瞬間、頭に強い衝撃が走る。
確かにこれなら他で修理できないのも納得だ。
「成程。これは俺が作った物だ」
「っ!? もしかして、槐 巌さんですか?」
「そうだが……」
「私、槐 紫の娘です!」
懐かしい響き――それは俺の元カノの名前だった。
てっきりフリマサイトか何かで入手したのかと思ったが、アイツ、捨ててなかったのか……
壊れた日々が再び音を奏でようとしていた。




