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偶像の証明  作者: 川村尋之


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母への想い

 葵が先ほど入ろうか入るまいかと悩んでいた焼き鳥屋は客も多く賑わっていた。


「いやぁ、一度入ってみたかったんですよねえ、この焼き鳥屋さん」

 葵と田上が仲良くカウンターに腰掛け、焼き鳥を食べている。

「あ、そう」

 こんな小さな焼き鳥屋で感動するなんて、珍しいなと思いながら酒を飲む田上。目の前の皿には、ねぎま、もも、つくね、かわ、ハツが山盛りになっている。


 ねぎまを食べながら葵が言う。

「しかし、田上さんってよく捜査二課に入れましたよね?」

「え?なんで?」

「だって捜査二課って知能犯ですよ?田上さんってなんかこう、二課の刑事らしくないですもん」

「よく言われる」

 そう言って一人で爆笑する田上。

「まぁ暴力的ですよね、昭和みたいな、殴って解決しちゃうみたいな」

「昭和でも殴って解決する事件なんてないけどな」

「さっきの人、大丈夫なんですか?殴ってたみたいだけど」

「愛のムチだ、心配するな」

「オレオレ詐欺の次はボッタクリバーとかまったく更生してないですもんね」

「俺がぶん殴った気持ちもわかるだろ」

「ええ、まあ」

 そう言って酒を飲む葵。

「でも、田上さんっていいとこあるんですねえ」

「いいとこって?」

 と言って串に刺さったももを食べる田上。

「いや、普通、自分が逮捕した犯人をその後も気にかけるなんて、なかなか……」

「ああ、あいつ、家族がお袋さん一人なんだよ、あいつを逮捕した時におふくろさん泣いててな」


 田上の脳裏に息子逮捕の知らせを受けて、その場で泣き崩れる母親の姿が浮かぶ。泣きながら、何度も田上に謝罪する母親。自分も母子家庭で育ったので、その母親の気持ちは痛いほどよくわかった。

 

 高校生の頃、少しグレていた時期があり、何度も問題を起こしては、そのたびに母が呼び出されるのだが、迎えに来た母は、ただ頭を下げて謝罪するしかなかった。


 刑事になったのは田上なりの親孝行と、せめてもの罪滅ぼしの思いからだったのだが、田上が刑事に昇進する前にその母も亡くなってしまった。田上は、母に迷惑や心配をかけ続けてきたことがずっと心に引っかかっていた。

 

 田上は姿勢を屈め、オレオレ詐欺で逮捕された若者の母と目線を合わせると、彼が初犯であること、幸い誰も傷つけていないことを説明したが、結局、その男には懲役四年の実刑判決が言い渡された。判決が言い渡された後、彼の母親は、田上に一言、ありがとうございますと言って去って行った。その背中が自分の母親とダブって見えた。

 

「そりゃ泣きますよ」

「それを取調室で伝えたら、あいつも泣き出して、母ちゃんのためにも更生するって言ってたのに、あのバカ…」

 田上の話を聞いて、私は犯人にそこまで肩入れすることはできないな、と葵は思った。ドライというかクールというか、いちいち犯人に肩入れしてたら身がもたない。

 田上は能天気に今度はかわを食べながら酒を飲んでいる。よほど、腹が減っていたのだろう。食べるスピードが早い。かわとねぎまをもう十本ずつ追加で注文する田上。


「ちなみに、田上さんって二課に来たのは推薦かなにかですか?上司か誰かの」

「うん?うん……まぁな。勉強したもんなぁ、俺」

「そうなんだ?」

「ほら、うちの親戚のおばちゃんがさ、オレオレ詐欺の被害に遭って二百万円騙し取られてんだよ」

「え?マジ?」

「ああ、マジ。まぁその二百万円だけで済んで良かったけど、おばちゃん、騙された後はずっと責任感じちゃってな。自殺未遂しちゃったんだよ」

「なるほど……よく聞きますよね、被害者は責任感じて、騙されたことをずっと後悔するって」

「うん、だから、おばちゃんがそうなったのが許せなくてな」

「だから二課に?」

「そう」

 酒を一口飲む田上。


 葵、かわをバリバリ食べながら

「そんな過去があったんですね」

「まぁ、今ではすっかり前みたいな明るい性格に戻ってな、俺にとっては母親代わりのいいおばちゃんなんだよ、昔は家も近かったから、子供の頃とかよく遊んでもらってたもん」

「へぇ、じゃあ、そのおばちゃんからしたら自慢の甥っ子なんですね」

「まあな!」


 そう言ってねぎまの串を持ってうまそうに食べる田上。いつもひょうひょうとしてるけど、人ってわからないものだ、葵はそう思った。


「まぁお前も佐原玲子のことを考えるのは程々にして、たまには息抜きでもしろ」

「え?別にそんなしょっちゅう考えてるわけでは……」

「あ、そうなの?じゃあ気のせいかな。なんか、あの女に入れ込みすぎな気がしてな」

「四ヶ月も内定してたら、そりゃ、佐原玲子のことを考える時間も多くなりますけど、そこまで入れ込んでません、冗談じゃない…」

「そうか」

 

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