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偶像の証明  作者: 川村尋之


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犬猫野菜

警視庁捜査二課の刑事部屋。葵と田上は上司・土屋課長と対面していた。周りには他に同僚の宮下刑事、坂口刑事、富樫刑事がいる。


 土屋から週刊東洋の横田敦が意識不明の重体であると聞かされ、田上が驚きの声を上げる。


 土屋は資料をテーブルに置きながら答えた。「突然道路に飛び出して、走ってきたトラックに轢かれたそうだ」

「自殺ですか?」

 田上が土屋に聞いた。

「まだ、わからんらしい。なんせ本人が意識不明だからな」

「佐原信者の仕業じゃないでしょうね?」と富樫が言う。

「犬猫野菜か」

 課長まで、、、と葵は思った。

 土屋に続くベテランの宮下。

「教祖のためなら何でもやる異常者の集まりですからなあ」

 田上の隣に立っている葵は黙って聞いている。

「横田氏の息子の学校に殺害予告があって、これも所轄が捜査に乗り出した。それ以外にも、横田氏の会社や、奥さんの会社にも電話やメールが殺到してるようだ」と土屋が説明する。

「佐原信者の一斉攻撃が始まりましたね」と坂口。

 

 葵は画面を睨みながら言った。「明らかに狙ってやってますよ」

 土屋が眉を上げる。

「ん?」

「信者たちがどういう行動に出るか、あらかじめわかった上で、名刺を晒してます」

「まぁ、そりゃそうだろ。連中にとって佐原玲子は都の裏金問題を追求する正義の人だから」と田上は肩をすくめる。

 葵は思わず声を荒げた。「正義を通り越してます!容赦のない悪意じゃないですか!冗談じゃないですよ!」

 室内の空気がわずかに揺れた。田上が話題を切り替えるように言う。「課長、令状まだ取れないんですか?」

 土屋が苛立ちを抑えながら答える。

「まぁ、そう焦るな。今の時点では裏金の確

証も弱いんだ」

「自己啓発セミナー会社、市民団体、政治団

体、佐原玲子への寄付金があちこちに流れて

るのは掴めてるんですよ」

「その金がだ、最終的に佐原自身や関係者の…」

そう言って右手でスーツの内ポケットを指して「…懐に入ってるという確証だよ。なかなか尻尾を出さないだろ」


 葵は資料をめくりながら、静かに反論する。「佐原玲子から寄付の名目になってますが、送金先の市民団体や政治団体には佐原玲子も関係者として関わってます。マネーロンダリングしているのは確実だと思います」


 だが、土屋は淡々と答える。

「だから、佐原玲子が、最終的にその金を着服しているという確証だよ」

その言葉はどこか冷たく、葵は胸の奥に棘が残った

 

 

       ◆

       

       

 都心から電車で十分ほどの住宅街の駅前で選挙演説を行う男。今、人気の実業家で圧倒的なフォロワー数を持つ畑中雄二がマイクを握り締め、自らが掲げる政策を声高に宣言している。


 聴衆もそれなりに集まっている。スマホを三脚や自撮り棒にセットして動画を撮影している人間が多く、それは少し異様な光景にも思えた。


 畑中の横には佐原玲子が立っている。にこやかな笑みを浮かべ、集まった聴衆に手を振っている。


 演説を終えた畑中が玲子にマイクを渡す。玲子がマイクを握ると、聴衆から大きな拍手が巻き起こった。

 

 その様子を遠くから見ている葵と坂口と富樫。


演説で玲子は、畑中がいかに優れた実業家であるかということ、畑中の頭脳を駆使すれば東京も変わっていくということ、さらには自分の話題にも触れ、都の裏金問題を追求していること、ことごとく邪魔が入り、思うように追求できていないこと、大きな権力に狙われていることを聴衆たちに説明している。


「なかなか演説もうまいな」

 と富樫が言った。

「そりゃそうですよ、富樫さん。演説も何度もこなしてるし、まるで舞台女優みたいなノリですもの」

 と葵が言った。

「しかし、あんまり人が集まってないなぁ」

 と富樫が言った。


 言われてみると、それなりに集まってはいるが、玲子と畑中という二大インフルエンサーが揃っている割にはそこまでではないというのが印象だ。


「まぁ、どっちかっていうと、佐原玲子って、ネット寄りだよな」

 と坂口が返す。

「ネット寄りってどういうことですか?坂口さん」

 と葵が聞く。

「ネットでは人気あるけど、一般的にはそこまで知られてないだろ。テレビ出てんの見たことあるか?」

「そういえば、あまり見かけないですね……というか、まったく見ません」

「あの畑中とかいう実業家もそうだよな?ネットでは人気だし、なにかとカリスマだの言われてるけど、世間一般ではそこまで名前を知られてない。正直、何やってる会社かもよくわからんし」

 と坂口が続けた。葵も富樫もなるほどなと、腑に落ちた表情をする。


「確かに、ネット寄りです。佐原玲子も含めて、世間一般の知名度はそこまでないかも」

 そうだなと頷く坂口。

「ネット有名人の宿命みたいなもんだ。まぁ、テレビに呼ばれないのはマスメディアが都と共謀して、テレビに出さないようにしてるからだって信者たちは言うんだろうけど」

 

 演説が終わると、今度はなぜか佐原玲子との握手会が始まる。

 腰を低くして両手で大袈裟に握手をした後で、ひとりひとりと記念撮影まで始めてしまう。

「おいおい、芸能人かよ」

 と富樫が呆れる。そして黙ってその様子を見ている葵に声をかける。

「どうした?」

「……いや、なんか、集まってるのってほとんどが中年の男性ですよ」

 玲子と握手をし、満面の笑みで記念撮影までしてしまう中年男たち。

 憧れの女神に会えた嬉しさなのか、誰もが弾けるような笑顔を浮かべている。

 苦笑する富樫。その笑い方には悪意さえ感じる。

「田上さんも課長も言ってるけど、あの女の支持者は犬猫野菜だっていうからな。そういうおっさんしかいないんだよ」

「なるほど!富樫さん、性格悪いですね」


 玲子と握手をして写真まで求め、スマホを向けて夢中で動画を回す中年男たちに、葵はとてつもない気持ち悪さを感じていた。


 自分の父親と同年代くらいの人が多い。もしこの中に自分の父親がいたら、間違いなく絶縁するレベルだ、と葵は思った。

 

 その時だった。


 突然、大きな悲鳴が上がった。


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