重要証人
自動車修理工場。ガレージの前で葵と田上が立っている。
よく晴れた快晴の昼下がり。
空を見ても何も感じない自分。
もう何年になるだろう。昔は雲が多いとか、虹が出てるとか、そんな些細なことで大喜びしている時代もあったが、今はまったく興味もない。
ガレージから作業着の中年男、水嶋が出てくる。
「いやぁ、お待たせしました」
警察手帳を見せる葵と田上。
「警視庁捜査二課の田上です」
「同じく大野です」
「ああ、こりゃどうも」
佐原玲子の支持者の特徴として、風貌が冴えないという特徴がある。中には見るからに負のオーラを撒き散らしているようなうだつの上がらない人間もいる。
この水嶋という男は、まぁ普通な感じだ。
「能力開発カンパニーのことでしたっけ?」
「ええ、佐原玲子さんが顧問を務める会社です。水嶋さんは何度かセミナーに行かれたことがあると聞きまして」と葵が言った。
「ええ、行きましたよぉ、三回くらい行ったかな、でもほら、あそこ高いんだよね、一回のセミナーで五万とかするからさ、それになんかどっかの本に書いてあるようなこと喋ってるだけで、あまり役に立ちそうでもなかったし」
大した話は聞けそうにないか、葵も田上もそう思っていた。
この男が金の流れを知るはずもないし、あくまでも証言の一つを得るための聞き込みである。
「あ、そういえば岡島さんとも一緒になったことあるな」
「そうなんですか?」と田上が聞く。
「ええ、岡島さんもね、玲子さんに行くように言われたって言ってたな」
「岡島さんって佐原さんの秘書になってもう長いんですよね?」と葵が聞く。
「三年くらいじゃないかな?まぁ、最近はあまりうまくいってないみたいだけど」
含みを持たせる水嶋。葵がちょっと食いつく。
「うまくいってないって?」
「前にね、他の支持者さんが言ってたんだけど、人前で玲子さんにこっぴどく叱り飛ばされたらしいんだよね。岡島さん。それ以外にも、けっこうキツく当たられててね、最初は岡島さん、かなり頼りにされてたらしいけど」
「なんでそんな風になったんですかね?」と葵が聞く。
「色々と岡島さんが口を出すから、疎ましく思われてるんじゃないかな?玲子さんも前に岡島さんにイラついてるポストとかしてたもんね。割と有名な話ですよ、支持者のなかでは」
「水嶋さんは、今も佐原玲子さんの支持を続けてるんですか?」
と田上が聞いた。
水嶋が笑いながら答える。
「いやぁ、私はもう一年くらい前に支持やめてますよ」
「そうなんですか?」
と田上。
「ええ、なんか不正を暴くだの権力に立ち向かうだの言ってるけど、一貫性がないなって思っちゃって。ほら、今話題になってる裏金の話、あれもね、収支報告書なんか見ると明らかに不自然だもんね、金の動きが。だからやめたんですよ」
◆
二人で街中を歩く葵と田上。歩きながら状況を整理していく。
「あんなふうに支持者をやめる人間もいるんだな、洗脳から解けて、まともな人間になれて良かった。なぁ?」
と田上が葵に話しかける。
「佐原玲子とその秘書は、うまくいってなかったんですね」
「そうだな、あの女、人の意見とか聞かなそうだもんな」
「たぶん金のこともかなり口出ししてたんじゃないですかね?あの秘書さんは信者の中でも少しまともな気がします」
話しているうちに何か嫌な予感を感じる葵。その予感は田上も感じていたようで、少し沈黙ができてしまう。
「ねえ、田上さん。もしですよ?もし岡島が、金の流れを把握していたとして、佐原玲子との関係性も悪化してるとしたら」
「岡島から崩せるかもしれんなあ。あたってみるか?」
浮かない表情の葵。
「大丈夫ですかね?岡島」
佐原玲子の信者たちは玲子のためならなんでもする。それが葵の結論だ。
不正の事実を知っていると思われる岡島が邪魔になれば、当然殺すことだって考えられる。
「岡島を…保護するか」
「…?」
「ちょっと大袈裟な気もするけど、佐原信者はもう完全にカルト化してるからな、あの女がやれって言えば素直に従う犬猫は多いはずだ」




