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偶像の証明  作者: 川村尋之


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操作

ホテルの一室には重たい沈黙が漂っていた。


外の高層ビル群のネオンが、薄いカーテン越しに淡く揺れている。


 玲子は、窓際の椅子に腰を下ろし、向かいにいる須藤をじっと見つめた。


「……え? 岡島さんが?」 須藤は信じられない、といった表情で眉を寄せた。玲子は静かに頷いた。「ええ。お金を要求されているの」


 須藤は言葉を失い、口を結んだまま沈黙する。玲子はゆっくりと続けた。


「私の父親ね、十年前に自殺しているの。ある政治家を批判し続けていたせいで、その支持者たちに身元を特定されたの。毎日のように嫌がらせをされて、中には家まで押しかけてくる人間もいたわ」

「……ひどい」

 須藤は息を呑む。

「もちろん、父も誹謗中傷をしていた。だから自業自得と言われればそれまで。でも、毎日怯えた生活を続けるうちに、父は壊れていった。ノイローゼになって……そして、あの日、自殺した」


 語る声は震えていなかった。むしろ、削ぎ落された鉛のような冷たさがあった。


「そのことを週刊誌に喋られたくなければ、一千万円よこせって。岡島が」

「……脅迫じゃないですか。警察に言いましょう」 須藤は必死に訴える。玲子は首を振った。「ダメよ。警察に言えば父のことまで掘り返される。現職議員の父親が誹謗中傷を続けていて、自殺した——そんな記事が出たら、私はマスコミの玩具にされるわ。……わかるでしょ?」


 須藤は唇を噛みしめ、しばらく黙り込んだ。「……はい」

 その返事を聞くと、玲子は静かに立ち上がり、須藤の頬にそっと手を置いた。その指先は冷たく、しかし甘えるようでもあった。


 須藤の胸がどくりと脈打つ。


「須藤さん。もう頼れるのはあなたしかいないの……何年も私を支えてくれた、あなたにしか」

「れ、玲子さん……」


 玲子はゆっくりと窓際へ歩き、ひと息つくように肩を震わせた。


 そして迷いもなく服を脱ぎ始める。下着姿になった彼女は、そのまま須藤に歩み寄り、胸元にしがみついた。


「お願い……助けて」


 須藤は震えていた。恐怖か、昂りか、その境界は曖昧だった。


 一方の玲子も震えていた。鳥肌も立っている。須藤のあまりの気持ち悪さに。

 

 

       ◆

 

 

 翌朝──岡島の家にけたたましい電話の音が部屋に響く。

「……岡島です」

 

 議員会館の事務所に一人、玲子は電話口の向こうで柔らかく、しかし決然と告げた。


「あなたの言う通りにするわ。自首します。ただ、今日一日だけ時間がほしいの。自首すれば長期間拘束される可能性もあるでしょう? だから……明日の夜、自首します」


 受話器の向こうの岡島は沈黙している。玲子、フッと笑って「証拠隠滅なんてしないわよ、今さらそんなことしても無駄なのは、あなたが一番よくわかってるでしょ?」

 受話器の向こうで岡島が静かに言った。「わかりました。明日ですね?」

「ええ。例のDVDを持って自首するから、一緒に警察まで付き添って。お願い」

 

 

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