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偶像の証明  作者: 川村尋之


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12/24

自作自演

SNSでは週刊東洋の横田についてあれこれと議論が巻き起こっていたが、ついにはまったくの事実無根のデマまで拡散されるようになっていた。

 

《横田にはあちこちに愛人がいて不倫を繰り返し、隠し子までいるみたいですね》

 

《横田の息子って妻の連れ子らしい。妻は昔から男をとっかえひっかえしてて、子供の実の父親は不明。ある情報筋から入手した話》

 

《アンチは玲子さんの支持者が横田敦を殺そうとしたとかほざいてるけど、実際は横田は会社の金を使い込んでいて、逮捕されるのを恐れて自殺しようとしただけ》

 

 

       ◆

 

 

 昼下がりの雑踏。人々が縦横無尽に行き交う街を、佐原玲子は白いコートの裾を揺らしながら歩いていた。


 顔を伏せ、マスクをしているために表情は読めないが、まるで周囲の視線すべてを意識しているような歩き方だった。


 その二十メートルほど後方。葵と田上が、何気ない市民のような顔つきで距離を保ちながら追う。


「昼メシかな?」 田上の呟きに、さあ、と気のない返事の葵。田上が葵の顔を横目で覗き込む。「お前、どうかしたか?」

「何がですか?」

「なんか、この前から様子が変だけど」

「別に…」

「そうか」

 葵はしばらく前を向いたままだったが、やがて口を開いた。


「週刊東洋の記者についてあることないこと拡散されています。中には明らかなデマも拡散されています」

「バカばっかりだな、佐原の信者は」

「それに……私……前にネットリンチに遭っていた女の子から相談されたことがあるんです」

「へぇ、いつ頃?」

「捜査二課に来る前。所轄にいた頃です」

「で?」

 葵の表情が沈む。

「その女の子、SNSでほんの軽い気持ちで芸能人を批判しただけだったんです」

 田上は黙って聞いた。

「そしたら思わぬ炎上を招いて……学校も家も特定されて。お母さんと何度も相談に来てたんですけど、当時新人だった私は……助けてあげることができませんでした」

 田上は歩調を少し緩めた。


「助けてあげることができなかったって、その高校生、どうしたんだ?」

「……死にました。自宅で首を吊って」「……そうか」

「今回みたいにあることないこと拡散されていて……家族からは責められました」

「だろうな」

「相談に来た時の、あの子の目が……今でも忘れられないんです」

「だからか」

「何がですか?」

「ん?お前があの女に妙に入れ込んでる理由がわかった。つまり、ネットリンチだよな。あの女は自分の信者にネットリンチをやらせてる。お前としては、その高校生の姿がダブって見えて、どうしても許せない、こういうわけだろ?」

「そうかもしれません」

「あの女、明らかに狙って犬猫どもにネットリンチやらせてるからな」

「そうなんですよ、それなんです!それが許せないんですよ」

「なるほどな。しかし、その高校生の事件は仕方ないと思うけど」

「仕方ない、ですか」

 葵が立ち止まりそうになるのを、田上が前に押し出すように歩き続けた。


「ネットリンチや個人情報が特定されたくらいじゃ、なかなか警察は動けない。そうだろ」

「はあ……」

「精一杯対応して、それでも何もできなかったんだったら、最初からそれ以上にもできないってことだ」

 一方、先を歩く玲子は、葵と田上の尾行にはすでに気づいており、目だけで後ろにいる二人の気配を感じている。


 歩道橋を渡っていた玲子が、階段へ差し掛かる。少し立ち止まり、意を決したかのように階段を降り始める。階段の途中まで来たところで――


 バランスを崩し、そのまま体が前のめりに回転し、階段から転げ落ちる。


「きゃあっ!」

「……!」 葵と田上は同時に駆けだした。下まで転げ落ちた玲子の周囲に、野次馬が次々と集まってくる。葵が玲子の肩を抱き起こした。


「大丈夫ですか?」

 玲子は震える手で髪を払い、怯えた目で振り返る。

「誰……?誰?」

「え?」

「急に……すごい力で突き飛ばされたんです!」

 葵は反射的に階段の上を見るが、誰もいない。

「いた〜い……」 玲子は足首を押さえてうずくまった。田上は表情を読み取れないまま、かすかに眉を寄せる。

「歩けますか?病院に行きましょう!」と葵が言う。

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