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偶像の証明  作者: 川村尋之


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過去の傷

アスファルトに街灯の光が伸び、その中で葵の影が細く揺れる。


 田上と別れて家に帰る途中、どうしても佐原玲子のことが頭から離れない。考えもまとまらない。


 佐原玲子は都の不正を暴く新進議員としてネットでは人気を集めている。若い女性が一人で権力に立ち向かうという構図に心を射抜かれた、ここまではわかる。それまで、そんな政治家はいなかったからだ。


 しかし、だからといって金の疑惑はまた別の話だし、彼女の収支報告書を見れば誰だって怪しいと思うはず。実際、その事実を突きつけているアンチたちが大勢いる。


 だが、それでも信者たちは彼女を崇拝することをやめない。それどころか彼女を批判する者はまるで悪党かのように晒しあげ、相手の心を折るまで寄ってたかって攻撃する。


 心を折る、というか、中には明らかに殺すつもりで攻撃している信者もいるだろう。

 むしろ、そっちの方が多いように思える。

 

 そんなことを考えるうちに、胸の奥で誰かの叫びのようなものが、蘇ってくる。


 

       ◆

       

       

 薄暗い面談室。 怯える女子高校生。その隣で不安げな母。向かいには葵と、上司の男性刑事が座っていた。男性刑事が淡々と言う。


「今のところできることとしては、周辺のパトロールを強化するくらいで」

 母親の声が震える。「そんな……住所を晒したアカウントをどうにかすることは……できないんですか?」

 葵は言葉を飲み込んだ。 女子学生の目が葵を見つめ――葵は慌てて視線を逸らした。

「難しいですな。先に民事で訴えたらいかがです?」と男性刑事。

「民事で?」と母親。

「ええ、開示請求をかけて損害賠償を請求するんです。これだけでもかなりの抑止になると思いますよ」


 その言葉を聞きながら、葵の胸は冷えた。

 ――本当に、それで守れるのか。

 

 雨の中の光景が浮かぶ。担架に乗せられた高校生。泣き叫びながら縋りつく母親。葵は傘を握りしめ、ただ立ち尽くすしかなかった。


 警察の霊安室では母親が葵に詰め寄る。

「だからあれだけお願いしたじゃないですか!こうなることだって考えられたから、あんなに相談したじゃないですか!」

 葵は何も言い返せずに黙って母親の言葉を受け入れるしかなかった。

 

 娘が死んだことで、その母親はひとりぼっちになってしまった。


後日、少女の墓参りに出向き、そこで彼女と鉢合わせした時も、花を突き返され、墓参りを拒否された。言い訳などできるはずもなく、葵は一人墓地を後にしたこともあった。

 

 回想が霧のように消える。


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