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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第5章:できそこないの王子─前編─

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90話:星詠みの使い(1)



「ねえ、ヴィック、大占卜師(だいせんぼくし)って?」



 ヒバリがそうヴィクトルに尋ねたのは、聖女に与えられた居館から、中央宮殿へとつづく拱廊(アーケード)を歩いている時だった。複雑な迫持(アーチ)がいくつもいくつも天井に線を描く。柱廊からは朝陽が差し込み、初秋の城内に静けさをもたらしていた。


 ヴィクトルとヒバリの靴音、つづく侍女や侍従たちの音が空間に響く。


「大占卜師は、星ノ国アベルの首長だよ」


 ヒバリの問いに、ヴィクトルが答えれば、彼女は上目に考えながら、ふーん、と言った。


「つまり、星ノ国の王さまってこと?」

「まあ、そうなるね。ただ、オルリアとはちがって、その位は世襲ではない」

「じゃあ、どうやって決めるの?」

「大占卜師と言われるゆえんだ。占術の力が強い方が選ばれる。現在の星辰下(せいしんか)は在位二百年の星詠みの賢者で、我が国のみならず、各国にその力をお示しになってくださっている」


 へえ、とヒバリは相槌を打つ。


「じゃあ、ものすごく占いが得意な人が王さまになるのね?」

「そういうことになるね」

「すごい、夢がある! あたしも占ってくれないかな?」


 ヒバリの年頃らしい発言に、ヴィクトルは笑った。


「なにを占ってもらうんだい?」

「恋占い」

「それはそれは……」


 ヴィクトルは茶化して言う。


「私がいるのに?」

「えー、だって、ヴィックってばなー。ヴィックはなー。なー」


 ヒバリはちらっと後方にぞろぞろと侍る人間を見て、ヴィクトルの耳元でささやく。


「べつに、そういうリップサービスはいらないんだけど」

「……ヒバリは往々にしてあちらの言葉で説明するから、時折なにを言われているのかわからない」

「あたしは、楽しくおしゃべりができればおっけーなの」

「なるほど」


 全部理解できている気がしないが、ヴィクトルはとりあえず肯いておく。


「まあ、あたしとヴィックを見てもらってもいいけど、もしかしたら、すごい素敵な出会いとかあるかもしれないじゃない?」

「それは妬けるね」

「あー嘘ばっかり」

「私の婚約者だからね」

「じゃあ、素敵な出会いにうつつを抜かさないように、しっかりがっちりと掴んでおきなさい。あたしってば、大人気の聖女さまなんだから」


 そう言って、ヒバリはにやりと笑うと、ヴィクトルから離れる。



「それで、その大占卜師……えっと、星辰下? の使いという方が、今いらっしゃっているということなんだよね?」



 話が戻る。

 ヴィクトルは首肯した。


「なにか、えらいお告げとかがあるの?」

「そんなところだね。星辰下が詠まれる星、というのは規模の大きい先々のことであることが多い。たまに、こうして使者を通して各国に注意を喚起してくださったりするのさ」

「……じゃあ、今回もよくない報せなんだ」


 ヒバリは、顔色を少し悪くする。

 平和でおだやかな世界から来た彼女にとって、想像のつかない漠然とした不安なのだろう。


 ヴィクトルはその手を取ると、自分の肘に誘導した。かけた上の手から、もう片方を重ねてやった。

 大丈夫だ、と安心させるように。


 ヒバリは、ぱっと顔をあげて栗色の目をヴィクトルに向けると、すぐに顔を下ろした。なされるままになる。



「——そもそも」



 ヴィクトルは安心させるようにしながらも、無情なことを告げる。


「聖剣使いと聖女というのは、安楽な時宜(じぎ)に選ばれ、召喚されるものではないんだ」

「……うん」


「これまでも必ず、聖剣使いが選ばれる時や、聖女が喚ばれた時には、サージェシアで大きなできごとが起きる頃だった」

「……じゃなきゃ、そんな神秘に頼るほどでもない?」


「そうともいう。すでに君も知ってのとおり、初代の聖女が降臨されたのは、千年以上前の魔導大戦がきっかけだ。大陸中に〈魔導霧〉が包まれはじめたのもこの頃」

「うん……」


「初代聖女は異界より聖剣を持って降臨し、その剣で魔導師オルリアや、魔導師ガルバーンとともに、魔導大戦を平定した」

「すごいよねえ、初代聖女さんって。あたしと同じ異界から来たのに、行動力半端ないよ」


 ヒバリの言葉に、ヴィクトルは苦笑する。


「……初代聖女が遺した聖剣が、次の代の聖女を喚ぶ触媒となり、このサージェシアを守る剣と盾になる。——必ず聖剣使いと聖女にはその役割が求められる」


 ヴィクトルは、舌が勝手に動くのに任せて、運命づけられた道のりを口にする。


「私と君は、そういう魔術機構の歯車の中心だよ」

「……たいそれた話だよね、それ。こんな一介の人間になにをさせるんだか」


 つぶやきに、ヴィクトルも同意だった。

 聖王家に生まれ、聖剣に選ばれただけでしかない自分が、たいそれた人間ではないことは一番わかっている。たまたまそうだった、にすぎない。


 おそらくヒバリも同じようなことを思っているのだろう。

 ヴィクトルは無言で、目顔だけで共感する。


「——では、私たちの道のりが、この先のなににつながっているのか聞きにいこうか?」


「よろしくお願いいたします、あたくしの聖剣使いさま」


 ヒバリがもう一方の手も肘にかけてきて、あまえるように首を肩に乗せてくる。

 そのまま、宮殿へと足を運び入れた。

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