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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第4章:空気の読めない孤児─後編─

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69話:いいところ

「——もう、擬態するのをやめちゃうのはどうかな」


 シェイラはちがうことを考えていたので、ターニャの発言に少しだけ驚く。


「やめられたら苦労してないですよ」


 セレリウスがむっとしたように言う。


「うん、そうだと思う。けど、我慢しすぎて、ようは爆発しちゃうってことでしょう? もちろん全部擬態するなとは言わないけど、セレリウスくんのいいところもあるわけだし、爆発していやなところ見せちゃうよりは、いいところを見せたほうがいいと思う」


「いいところ……」


「はっきりと言うところ」


 セレリウスが思い悩むと、ターニャは明るく言った。


「そこは担任としてすごいと思ってるよ。いいところだと思う。たまには、はっきり言わなきゃいけないことがあるなって思うし、私はできなかったことだから、すごいなって思ってたよ」


「……ありがとうございます。思ってることを言ってるだけですが」


「うん、言わないほうがいいことももちろんあるけどね。さっきのシェイラ師への発言は失礼な発言だよ。いやな気持ちにもなるって言われたでしょ? ちゃんと謝って」


「すみませんでした」


 素直に謝られる。

 いえいえ、とシェイラは返しながら、ターニャの言葉がセレリウスに伝わっているように見えて、なんだか新鮮なものを見ている気分になる。


「私、このあいだ、セレリウスくんを真似してがんばったことがあるの」


 そのまま黙って観ていようと思っていたら、ターニャがシェイラのほうをちらっと見て笑った。


「先週のね、学院の全体会議で言ってやったんです」

「いつまでかかるのかわからない目的のない会議ですね」


 休暇前にふたりで話したことを思い出す。


「恩師のあとの……筆頭教導師になった教導師がですね、特に昔話が長くて、いろいろうるさいんです。だから、言ってやりました。『この会議っていつまででしたっけ? 終わりはなにが決まればいいんでしたっけ?』って。そしたら、そのあと、いろんなことが決まってすぐに終わりました」


「それはすごいです」

「すごいですよね?」

「はい、すごいです」

「はっきり言うの、がんばってよかったって思いました」


 ターニャはシェイラにそう言ってから、セレリウスをもう一度見る。


「セレリウスくんのいいところを真似したおかげ」

「僕のいいところ……」

「うん。教師だけど、あなたから学ばせてもらったよ。はっきり言うは、私ができてなくてあなたができていて、かっこいいと思ったところ。すごい武器になるよ。言い方と言うことだけ選べば、武器になる。そこは擬態してほしくないな」


 ターニャが言えば、セレリウスはうれしそうな顔をした。

 褒められていやな人間はいない。それもきちんと、ターニャがセレリウスを見たうえでの言葉だとわかるものだった。うれしいだろう。


「……ありがとうございます」


「正直、あなたの物言いに腹が立つこともあるから、それはきちんと、その人がどう思うのか考えて言葉を選んでください」


「それがわからないんで苦労して擬態してるんです」


「わからないんだったら、聞けばいいんだよ。シェイラ師が言ってたでしょう?」


「……善処します」


 シェイラは傍観をするようにして、ふたりのやり取りを見る。

 ターニャがどこまで意図しているのかわからなかったが、ターニャなりにセレリウスに歩み寄って、彼を理解しようとしているのだということがわかった。

 抜けたヨハルの役割を、ターニャが無意識に担おうとしているのかもしれなかった。あるいは教師として、亡き恩師を思い出して、導いてやろうと思っているのかもしれない。


「とはいえ、」


 シェイラは、やり取りのつづくターニャとセレリウスに言う。


「精霊魔術が使えない、ということは変わりなし、ですよね」

「そうでした……」

「はい、僕は困ります。卒業までにうまくできなければ、家から出されるそうなので」


「そうなの?!」


 セレリウスの発言に、ターニャがびっくりした声を出す。


「……まあ、よくある話ではありますね。貴族は魔法や魔術が使えることがすべてですから」

「はい、わかってます」

「そうなんだ……貴族も大変なんだ……」


 シェイラとセレリウスの様子に、ターニャはなにか理想が砕かれたようにつぶやく。

 シェイラは内心で苦みを思い出す。

 貴族とはそういうものだというのを、体験として理解している。——苦痛を伴う、別れとともに。

 奥歯を噛んで、シェイラは気持ちを無理やり押しやる。


 精霊魔術の話に戻す。


「大地を感じ取るというのは、そんなに的は外れていないと思うんですが……なにか感じ方を変えたほうがいいのかもしれません」


 シェイラは瑠璃の耳飾りを弾く。


「精霊のことがわかる大地がいればいいってことですか?」

「まあ、そんなところです」

「ヨハルくんみたいな、セレリウスくんにとって通訳となるようなってことですよね?」

「そうですね……」


 肯きながら、シェイラは、はたと気づく。


 通訳。

 女王国の大地。

 そこで育つ森人たち。


「精霊女王の大地であれば……」


 もしかしたら、セレリウスと、精霊をつなぐ、通訳に値するかもしれない。


 ひらめきに、シェイラは難問が開けた気配を感じる。すうっと見通せるもの。


「でも、シェイラ師、女王国の大地をこっちには持ってこれませんよ?」


 ターニャの指摘はもっともだ。

 シェイラは、むう、と唸る。


「通訳ってことは媒介みたいなものですか?」


 セレリウスが、確認するように尋ねる。


「そうですね。要は魔術の媒介……」


 はっとシェイラは、セレリウスを見た。

 セレリウスの目も、シェイラが思いついたものと同じものに行き着いたように、虹色を遊ぶように輝かせていた。


「え、なんですか?」


 ターニャだけが首をかしげる。

 シェイラとセレリウスの声が重なる。



「——触媒」



 シェイラはさらにターニャにわかるように付け加える。


「女王国の大地を使った、触媒……杖とかを使うんです。そしたら、もしかしたら精霊魔術につながるかもしれません」


 それが精霊との媒介や、通訳となって、彼らの声が聞こえるかもしれない。

 シェイラは、そのひらめきに確信のようなものを得ていた。

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