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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第3章:空気の読めない孤児—前編—

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52話:セレリウスの逸話


「あの子、空気が読めないのよね」


 フェノアはそう言っていた。


「空気以前に、人の気持ちがわからないというのかしら? 授業をしていても、そんなこと言っちゃう? ってこと言っちゃうのよね。

 去年、私の授業で、歌の発表があったのだけど、ちょっと歌の苦手な子が一生懸命小さい声で歌っていたの。ふつう、それでも頑張っているんだなって、みんな思うじゃない? でもあの子、『先生、今の聞こえましたか? 僕には聞こえませんでした。評価どうやって付けるんですか?』って言っちゃったのよ。みんなの前で。もう授業が凍りついたのなんの。その子は泣きはじめてしまうし……大変だったわ」


「それ、結局、どうしたんですか?」


「ヨハルくんっていうあの子の幼なじみがいるんだけどね。その子がなんとかしてくれたのよ。

 私は謝りなさいって言ったのだけど、セレリウスくんはむすっと黙り込んじゃってね。すごく不機嫌そうな顔をするのよ。膠着していたら、ヨハルくんが説得してくれて、そしたら嘘みたいにあの子も申しわけなさそうに謝罪して……その場はなんとかなったわ。だけど、言われた子はすごく傷つくでしょう? その子の親からは、来年は学環を離してほしいという要望もあって今は離れているけど……彼女はまだ、歌の授業になると怖気づいちゃって……今も傷になっていると思う」


 フェノアから話を聞き終えると、シェイラは言われた彼女も、セレリウスも、不憫に感じた。


 状況と組み合わせがよくなかった。

 その彼女はきっと恥ずかしいながらも懸命に歌っていた。セレリウスは見て取れて、聞いて思ったことを言っただけ。


 たとえば授業が終わったあとに、こっそりフェノアに聞いたのであれば、大きな問題にならなかったはずだ。


 けれど、状況が重なった。みんなの前でセレリウスから指摘された彼女は、死ぬほど恥ずかしくつらい思いをしただろう。

 なぜ、自分の振る舞いがいけないのかわからなかったセレリウスは、フェノアから注意をされ、学友たちからは白い目で見られて、困惑し、いらだちを覚えただろう。


 セレリウスの立場や視点に立てば、苦しい。わからないのだから。ほんとうにわからないのだろう。自分の発言で相手がどう思うのか。自分の発言が、その場にどういう影響をもたらすのか。


 理解ができないのだ。目の前に霧がたち込めているように。


(この時期だからこそ、余計につらいでしょう)


 多感な年頃の子たちが集まる学院だからこそ、特に問題になる。

 初等部や中等部にいる頃であれば、小さな頃からずっと育ってきた学友たちが揃っている。だが、県の地域から集まってきた子たちが一緒くたになった学院では、セレリウスのことは知られていない。


 空気が読めないやつ。


 紙札(レッテル)を貼られて、大衆から除け者にされるのは容易に想像がついた。

 なんとか、ヨハルという幼馴染が一緒にいるから保っている。そんなところだろう。


(ほんとうなら、親や、だれかから教えてもらえそうなことです)


 人の気持ちや状況が読めないという人間は、一定いる。


 ヴェッセンダリアでは一定どころではない。むしろ、ほとんどの導師や準師たちがそうかもしれない。老師たちにいたっては、シェイラの師であるガザンも含め、もはや人間と同じ思考回路を有していないとさえ言える。

 いちいちだれかの気持ちなんか気にしていたら、魔導を極める研究なぞ、できるわけがないのだ。


 奇をてらったもの。

 人とはちがう観点。

 周囲をいとわず己の発見を突き進むもの。


 そういう人間が、大学府に残り、ヴェッセンダリアの城門を叩く。


 だから、セレリウスのような人間はべつに珍しいわけではないのだ。学院という環境では浮き出てしまうだけで。


 本来であれば、浮きすぎないように自然と術を学ぶ。


 だが、セレリウスのような人間は自然と学ぶのが難しい。本人にわかる伝え方で教えてやらねばならないのだ。

 なのに、その一番の役割である親がいない。


 さらには、孤児院育ち。

 きっと一貫した養育というものを受けていない。


 孤児院は子ども好きが勤めたがるけれど、働いてみると現実を知る。

 生半(なまなか)な気持ちでは、勤めあげるのに厳しい環境なのだ。だから、働き手はよく入れ替わる。

 院にいる子どもからすれば、頻繁に親が変わり、言っていることが変わり、食べている食事の味が変わるのだ。

 子どもの情緒が落ち着くわけがない。落ち着くためには、孤児院側の努力は必須だ。


 セレリウスの元来ある性質とかけ合わせれば、現状空気が読めないのは当然の帰結だった。


「……そのうえ、精霊と心の交流、ですか」


 一筋縄ではいかない問題だ。

 シェイラは、卓に肘を突きながら耳飾りを弾く。瑠璃の石が揺れる。


「やっぱり、ターニャ師も巻き込まなければいけませんね」


 セレリウスとは逆に、空気を読みすぎてしまっているターニャ師。


 彼女の〈導脈〉には、大地の力が通っていた。

 セレリウスの魔術を引き出すのであれば、大地の魔術師であるターニャ師の協力が必要だろう。

 大地は精霊とつながりがあるのだから。


 精霊と交流ができないという問題は、セレリウス元来の性質による影響もある、とシェイラは考えている。


(でしたら)


 ターニャとセレリウスがうまくかけ合わされば、よい影響があるのではないかと思えた。

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