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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第3章:空気の読めない孤児—前編—

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46話:魔術学院の気になる子

「——というわけなのよ〜。って、シェイラ、聞いてる?」

「すみません、今集中しているので、聞いてないです」


 返事をすると、フェノアが背後で非難の声をあげる。


 シェイラは、手元の作業の仕上げに取りかかっていた。

 食刻(しょっこく)版に、工具で小さな凹みを作る。繊鑷(ピンセット)に持ち替えると、小皿に置いてある縹色(はなだいろ)のファル石を取った。それを糊とともに慎重に凹みにはめ込む。こつこつと力を入れて、しっかりと石が固定される感覚を得る。


(あとは乾くのを待つだけ)


 ふうっと力を抜くと、シェイラはやっとフェノアに振り返った。


「ごめんなさい、お待たせしました」

「また、細かいものを作ってるのね? それもこれ、食刻じゃない。今時、フィシェーユの魔法の使い手でも、食刻を使うなんて面倒くさいことする人いないわよ」


 そうでしょうね、とシェイラは思う。


 食刻凹版は工数がとにかくかかるのだ。削る、腐食させる、削る、腐蝕させる、これの繰り返しだ。シェイラもこれを作るのに何度その手順を繰り返したのか覚えていない。


「そんな手間暇をかけてまで渡したい人がいるの?」

「そうですね……向こうはどうだかわかりませんが、ちょっと心配していまして」

「もしかして、週末の夜に会ってる?」


 ずいっとフェノアが、なぜかシェイラの横に乗り出してくる。

 シェイラはきょとんとしつつ、肯く。


「そうですね。今のところは」


「どんな人?」

「きれいな銀の……肩より少し長いくらいの髪ですかね? 真っ直ぐでうらやましいです。あとは、この石と同じ目の色をしてて」

「それでそれで?」

「顔立ちも整ってますかね? 装いからいいところの出かなと思います」

「えーっ、ってことは御曹司ってこと?」

「かもしれませんね」

「ひゃー、シェイラってばやるう」

「だから、夜な夜な出歩いているのはちょっと心配で。親かはわかりませんが、保護者も少しは心配しているんじゃないかと思うんですよね」


「……ん?」


「それに、あんな夜に出歩いていると眠れなくなって、成長期にはよくないと思うんですよ。だから、こうお節介を焼きたくなりまして」

「……その人、もしかしなくても、子ども?」


 はい、とシェイラが肯定すれば、盛大な溜息がシェイラの横から聞こえてきた。

 フェノアは、げんなりしたように椅子に座って、額を押さえる。


「そうよね……シェイラにそういう色恋沙汰を期待したわたしがばかだったわ。あなたが時間をかけてまでやるんだから、子どもに関係することに決まっているわよね……」


 はあ、ともう一度大きな溜息が聞こえてくる。


 それでシェイラは、どうやらイディのために作っていた食刻の円板を、なにやらフェノアが勘ちがいしていたらしいことを悟った。

 悟って、かあっと頬を染める。


「ふぇ、フェノア、まさかわたしが週末に男の人と会っていたと思っていたのですか?!」

「てっきり逢引しているのかと」

「あ、逢引?!」


 そんなことしません、とシェイラは顔をぶんぶん振る。


「まさか夜遊びしている子どもと会っているなんて、思わなかったわ。シェイラに色恋ははやかったというわけね」

「それはそれで失礼ですよ……」


 むすっとシェイラは、唇を尖らせる。


「……わたしにだって、好きな人くらいいたことありますよ。なんなら両想いだったんですから」


「ええっ!? なにそれ、その話聞いてないわよっ? 詳しく教えなさいよ」


 フェノアが元気を取り戻したように、顔を上げる。

 シェイラは面白くないので、ぷいっと横を向いた。


「いやです。歌劇みたいにすぐに恋物語に発展させるような人には退屈な話なので」


「シェイラ〜、お願いよ。悪かったわ、ごめんね。だから、その話聞かせてよ」


「もう一度言いますが、いやです。そもそも、フェノア、わたしになにか用があったんじゃありませんでした? 話が思いっきり脱線してますよ」


「あ、そうだったわ」


 縋り付くように腕にまとわりつくフェノアを、シェイラは空いている手で振り払う。

 金髪が離れると、格調高い芳香がふわっとしてなんだか夢を見ていたような心地になった。


「ついつい面白そうな話のほうに気がいっちゃったわ」

「……それで、どういう話ですか?」


 互いに空気をあらためる。

 導師の顔になって、フェノアが口を開いた。


「わたし、セゾン県の学院に週一で行っているのだけど、そこにちょっと気になる子がいるのよ」


「セゾンと言うと、ここより北部ですね」


 オルリア聖王国との国境だ、とさっきまでの話題から連想する。

 星ノ国アベルとの国境でもあり、アベルからさらに奥の、魔獣国にも近い。

 国境の要衝地域だ。


「そうそう。そこの学院のかわいい新任教師から気になる子の相談をもらってね。その相談内容がちょっとわたしでは解決できなそうだから、シェイラに来てもらいたいなーって思ってるわけ」


「なるほど。一回で終わりそうです?」


 シェイラは自分の予定を考えながら尋ねる。


「うーん、終わらないわね。絶対。けっこう時間がかかると思うわ。新任ちゃんもなんというか……ちょっとばかし、いろいろありそうな気がするし」

「わかりました。黒檀がよいと言うなら、わたしは問題ないですよ」


 時間をかける必要があるのであれば、定期的に訪問したほうがよいだろう。

 なら、シェイラの一週間のなかでは、ちょうど〈大地ノ日〉が空いている。


「そう言われると思って、黒檀にはすでに許可を取ってあるわ。全然問題ないって。毎日どこかしらに行ってこいだそうよ」


「……わたしの研究する時間って、絶対に考えられてないですよね、それ」


「期間限定だから、ばりばり働きなさいってことでしょう?」


 フェノアが美声をうっとりと鳴らせば、シェイラは深々と息を吐き出した。


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