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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第2章:大人しくて目立たない娘

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27話:闇魔術使いのしがらみ(2)

「もし聞いちゃまずかったら教えて欲しいんですが、お母さまは宮廷にてどのようなお仕事をされていて?」



 オーズが世間話のように尋ねる。

 貴重な純粋な闇魔術使いである。リヨンの母は、宮廷魔術師ということだった。



「いえ、多少だったら構いません。我が一族は守りを得意とする血統です。{守護}を扱った仕事とだけお伝えさせていただきます」


「なるほど{守護}ですか……それは古い魔術ですね」



 感心したようにオーズが言う。



「はい。私も一族も、誇りに思っています。ですから、リヨンがあれでは……困るのです。外で喋れないなんてこと、呪文が唱えられないなんてこと……このままでは一族の魔術が途絶えかねません」



 消沈としながらも、リヨンの母はどこか目に血走ったような狂いのようなものを感じられた。

 シェイラには、魔術の血統を重んじるがゆえの強迫的なものに見えた。



「あーそうですよねえ。ちょっと俺は詳しくないんですが、シェイラ師、どうなんです? 闇魔術って、やっぱり呪文を唱えないと成り立たないもんなんですか?」



 なんの気なしにオーズから話を振られる。

 シェイラは、リヨンの母の不思議そうな目を受け止めつつ、耳飾りにふれて考えながら答えた。



「一般的には難しいですね」


「魔法陣とかでも難しいんですか?」


「いえ、もちろんそれはできます。ですが、闇魔術というのはその魔術の特質上、その場で使われることが求められるものが多いです。ですから、人前で呪文が唱えられるのは必須になるかと思います」


「……呪文は略せないものなんですかね?」



 他の魔術には詠唱をせずとも発動する魔術がある。また、難しいとされるものでも、修練を積めば詠唱を破棄することができる。

 オーズはそういったことを言っているのだろうと思ったが、シェイラは首を振った。



「まず普通の人間には無理です。そんなことに挑戦しようものなら、闇が隙間から出てきてしまいます。——お母さまのほうがそれはよくご存知でいらっしゃるかと」



 シェイラが言えば、リヨンの母が深く肯いた。

 闇を扱うこと、それがなにを意味するのか知り得ている強く含蓄のあるものだった。



「闇が隙間から出てくる……俺は普通の魔法使いなので、よくわかりませんが、危なっかしいものなんです?」


「ちょっとちがいます。闇そのものは、なにもこわくも危ないものでもありません。むしろ、原初より一番はじめに存在し、あたたかく包むもの。火炎を孕むもの。光が届かぬ場所でも届き見守るもの。そういったものです。ですから、{守護}と呼ばれるような魔術が行使できるんです」



 シェイラの説明に、オーズが眉間にしわを寄せながら無言で相槌を打つ。



「わたしたちのような魔法や魔術を扱う人間は、原初の闇を持って生まれてきます。一方で、闇とはどこにでも入り込んで見つからずにいられるもの……闇の魔術というのは、人間である限り、だれにでも影響を及ぼしてしまえるものなんです。その扱いをまちがえれば危うい。ゆえに、言霊で、縛るのです。縛って方向づけるのです。呪文がなければ闇とは扱ってはいけないものなんです」



 締めくくれば、オーズが眉間のしわをさらに刻んでいた。腕まで組んでいる。

 シェイラってばその話絶対に長いでしょ、というフェノアの声が耳の奥から聞こえた。

 解説をしようとして、どうやら語りすぎてしまったらしい。オーズの反応を見て悟る。



「あ、えっと、すみません」



 〝学びし者は常に真理を抱く〟


 ヴェッセンダリアの戒めを思い出して、シェイラはしょんぼりと頭を下げた。



「……我らが扱う闇魔術を正しく理解されているのですね」



 そんななかで、リヨンの母の声は響いた。夜のなかに見える琅玕の緑光のようだった。

 シェイラはその光を見やる。爛々と光るもののなかに、けぶいているものを垣間見た。



「であれば……我が一族の、私の悩みもわかるかと思います。あの子を……リヨンを、どうにかしてやってください。あの子を喋れるように、喋れなくても、詠唱ができるようにせねばなりません」



 ぎりっ、とリヨンの母は唇を噛んだ。つうっと出てきたものが伝う。

 そこに伝っているものは娘を案じる母のものではなかった。


 シェイラは、ねばりつくような魔術師のしがらみを感じ取る。

 この母は、一族からの圧力のようなものを受けているのだろう。もしかしたら、娘にも強いているのかもしれない。

 けれど、


 ——だれが、一番困っているのだろう。


 それは、今ここでしがらみを負ったリヨンの母でも、話を受けて苦笑いを浮かべるオーズでもない。


(自分の気持ちを言えないなんて、かわいそうです)


 まだ二回しか会っていない、不安が強く、言葉を発せない彼女。


 リヨンこそが一番困っている当事者ではないか。


 シェイラは、つづけられるオーズとリヨンの母の会話に耳を傾けながら思う。


(リヨンさんはどうしたいんでしょうか)


 シェイラが大事にしたいのはそこだった。

 母を通してではなく、リヨンの気持ちを聞いてみたい。


 シェイラは面談の最後にぬいぐるみを母に託しながら、そう強く思った。

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