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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第2章:大人しくて目立たない娘

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26話:闇魔術使いのしがらみ(1)

 思い出しながら、かいつまんでフェノアに話した。

 なるほどね、とフェノアの倍音の乗った声が相槌を打つ。



「つまりそのぬいぐるみは、その子の緊張をやわらげるための代物っていうことね?」

「そうです。それから——」



 綿を詰め終わり、手の内に{保管}を描きながらしまいの縫製を行う。ぬいぐるみの黒目部分に、幸運と勇気の祈りを込め、{遠見}を施した黒曜のファル(せき)を縫い付ける。


 そうすると、完成だった。

 シェイラは完成したぬいぐるみを卓の上に置き、自身の指輪のひとつにふれながら話す。



「——こんな感じでお話もできるようにしようと思っています」


《こんな感じでお話もできるようにしようと思っています》



 ぬいぐるみが喋るようにしてシェイラの言葉をそのまま話す。耳の長いネコのような、ウサギのような動物を模していた。

 フェノアはそれを見て、興味深そうにする。しげしげと見てから問われた。



「これってもしかして、その子を和ませることだけが目的じゃない?」


「そうです。仲よしになろうと思いまして。人間だと緊張させてしまうので、ああいう……不安が強い子にはぬいぐるみとか、人形が有効な子もいるので。家で使ってもらって、そのまま学校に持ってきてもらえれば、安心しているものが学校にもあるということで、少しは不安の軽減にも役立つかと思っています」


「そういうことね。そしたら、せっかくだから{遠隔}も付けるのはどう? 喋るだけじゃなくてちょっと動いたほうが子どもは喜ぶわよ」


「なるほど……! それはいい考えです! 早速付けちゃいます」



 フェノアの提案に、シェイラは喜色を浮かべた。


 もう一度金の針を持って、橙の刺繍糸を通すと、ぬいぐるみの耳のなかに小さな陣を施す。

 そうして、動きながらも安心できるおしゃべりなぬいぐるみが完成した。

 合作になったぬいぐるみを見て、ふたりで互いの手の平を合わせる。



「やっぱりこういうのって面白いわね」

「ですです」



 フェノアの明るい声にシェイラも明るくなる。

 フェノアはシェイラよりかなり歳上のお姉さんだったけれど、見た目の年齢は近い。シェイラのなかでは、先輩のような同僚のような友だちのような立ち位置なのが、フェノアだ。



「またどうだったか教えて。こっちでもなにか役に立つかもしれないし」



 フェノアは一週間の六日間のうち三日間を、県の高等魔法学院で講師として教鞭を取っている。


 フィシェーユの魔法、もしくは芸術魔術と呼ばれるもの。それが、フェノアの得意とする魔法だった。特に歌唱魔術を得意とし、声帯などの器官に〈導脈〉を細部まで行き渡らせて魔法を込めることに成功し、導師となった。


 今や歌劇場では当たり前の魔法であり技術であるものの、第一人者はフェノアだ。

 シェイラはフェノアの本来の年齢を知らないけれど、魔導師の年齢がわからないのはいつものことなので、聞いたことがなかった。



「うまくいくことを願っていてください」

「わかったわ。その子、喜んでくれるといいわね」



 美人なフェノアから、玉のような声で言われると、シェイラはうまくいくような気がした。



   〜*〜



 二週間後の〈宵闇ノ日〉、シェイラはオーズ師の面談に立ち会うことになった。


 リヨン・ペリメルの母が、授業裏の時間に、学園に足を運ぶと聞いていたので、あらかじめ他の学環を見に行かないように調整しておいた。一緒にフェノアと合作したぬいぐるみも持ってきている。母から渡してもらうのはどうかと算段していた。



「——いつも、リヨンがお世話になっております」



 暗緑の長外套(ローブ)を羽織った女性だった。毛の細い長い髪がするりと流れるように腰まである。瞳は娘と同じ琅玕の色をしていて、母と娘でそっくりだった。


「どうぞおかけください」


 オーズは立ち上がったリヨンの母に、座っていたつやのある台形の椅子を示す。台形は、長外套が広がってもいいように、テッペント技術国の人間が考え出したものだった。


「シェイラと申します。本日は同席させていただきます」


 簡単に挨拶をすると、リヨンの母からは小さく会釈が返ってきた。

 シェイラも腰かける。


 口火を切ったのは、オーズだった。



「お嬢さんは、最近ご自宅ではどうですか?」


「……いつもすみません。その、あまり変わりません。ただ去年とちがって、学校に行きたくないとは言わなくなりました。今の先生方がよくしてくださるからからだと思います」


「そうですか、それは……よかったです。学校に来られなくなってしまったら、色々なことに支障が出ますからね。とはいえ、学校で喋れないことに変わりはありませんが……」



 シェイラは聴きながら、筆頭教導師のニカ師から聞いたことを思い出す。


 初等部の頃から喋らなかったリヨンは、特に昨年度学校に行くのをいやがっていたという。緊張する、みんなから見られるのがいやだ、と家では話をしていたそうだ。毎朝、親子で喧嘩になるほどだったという。


 それが、中等部に上がってからぱったりとなくなった。

 ニカ師や、きっとオーズ師の目に見えない尽力があるだろうと思えた。



「はい……。このままでは、我が一族の魔術を継承することができるかどうか……」



 リヨンの母は、悄然と言った。


 喋れない、という状態。それがたとえば、生活魔術や楽器魔法、占星術など呪文詠唱を必要としない魔法や魔術の血統であれば、問題がなかったのだろう。


 けれど、リヨンの一族ペリメル家は、闇魔術の血統であるという。

 それは一番、呪文詠唱が必須とされる魔術系統だった。



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