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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第10章:ついてくる少女─後編─

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188話:筆頭教導師の嫌悪

「おふたりとも、ありがとうございました。もうちょっと、見ていきますね」


 どういたしまして、と少女たちは気軽にシェイラに手を振る。シェイラも、にこっと笑って手を振った。


 それから、変わらずいい声を張りつづけるウショー師を見やる。


(この方にも話を聞かねば……)


 今聞いたことをふまえて、担任として把握していることを聞き、ウショー師の考えを聞かなければいけない。


 だが、シェイラは、はじめの切り口を失敗した。



「──これからは無理です」



 にべもなかった。

 授業後すぐに話しかけに行くと、教導館に急ぎ足で向かうウショー師は、シェイラにそう答えた。


「たしかに、空き時間ですが、やることがありますので、いかに魔導師殿からの頼みと言えど、時間は取れません。子どもたちの教育活動に支障が出ますので」


 ウショー師の回廊を進む足は、はやい。シェイラも小走りになる。


「では、放課後は……?」


 シェイラは食い下がった。


「放課後も厳しいです」


 ぴしっと石床を鞭で打ったように否定される。


「……べつの日はどうしょうか? 三十分ほど、お時間をいただきたいのです」


「なんのために?」


 ウショー師は、胡乱げにシェイラを見る。


「魔導師殿は、学院で、才のある子を見つけられるために、来られたのでしょう? 私の話を聞かなくても、才ある子を拾っていけばいい」

「…………」

「学院長からはそう聞いています。筆頭教導師として、そういった拾い上げはありがたいかぎりですからね。もし、だれか見つかれば、鼻が高いと学院長も言っていました」


 言葉とは裏腹に、ウショー師の目は、いささかもありがたいと思っていない目だった。


(むしろ……)


 嫌悪、だろうか。隠しているように見えても、シェイラへの、否、魔導師、あるいはべつのだれかへの嫌悪や憤怒のようなものが内側に秘められている。


 どうしようか、とシェイラは耳飾りを弾いた。

 時間はない。まもなく次の授業がはじまる。ウショー師は、事実、忙しいのだろう。学環の指導だけに留まらず、筆頭教導師として、さばかねばならないことが多くあるのだ。


 そういった事情と、内に秘められていそうなものに、当てをつける。


「おっしゃるとおりです」


 シェイラはまず肯定する。否定はしない。

 ウショー師の目尻の嫌悪が強くなったが、柔和に笑む。


「ですが、ウショー師のお話もきちんとお聞きしたいと思っています」


 シェイラは、何度か目にしたウショー師の授業を思い出した。


 やる気を出せ! 努力すれば報われる! と学環に激励する姿を浮かべる。



「ウショー師であれば、見ただけではわからない、努力をしている子や、努力すればできる、秘めた力を持つ子を、きっとご存知でいらっしゃいますよね?」



 シェイラが瑠璃の耳飾りを揺らすように尋ねれば、ウショーは顔色をわずかに変えた。透かし見えた、嫌悪や憤怒が薄らぐ。


「……まあ、そうですね」


 満更でもなさそうな顔だった。

 シェイラは、すべり込むように、にっこりと笑う。


「でしたら、ぜひウショー師からお話をうかがいたいです。見ているだけではわからないこともあるので」

「…………」

「今日でなくても大丈夫ですし、もし、今週忙しいのであれば、来週でも大丈夫です。三十分ほどお時間をいただけませんか?」


 ウショー師の表情は悪くなかった。

 悪い印象では終わってない。この提案に、「考えておきます」と返事があったとしても、印象は少しだけよい方向にできている。足跡は残せている。


「……明後日であれば」


 ウショー師の、倍音のある低音が返ってきた。


「週末ですが、明後日の放課後、子どもたちが帰ったあとであれば、お時間を取ることができます」


 その返答に、シェイラは爪先を蹴って浮かび上がりそうになった。

 表情は素直に出す。


「ありがとうございます!」

「……ほんとうに三十分でお願いしますよ」


 ウショー師が、なぜだか取り繕うように言う。内心を見せたくないようだった。

 シェイラは気づかぬふりをして、明るく応じる。


「はい、もちろんです! 明後日、夕方五時の鐘がなる頃に、また参りますね」


「……教導館に直接来てください。いなかったら、待っててください。子どもたちの指導で延びることがあるので」


「はい!」


 シェイラは、満足だった。声が、少し高くなった。



(ああ……)



 楽しい。

 シェイラは、そう感じる自分に気づく。


 こんなふうに人と話をして、だれかと少しだけ心が近づくのは、なぜこんなにあたたかい気持ちになるのだろう。自分が豊かになっている。豊かに、()()()()()()()()()()

 そんな気がするのは、なぜだろう。


 ウショー師と別れて、シェイラはまたべつの学環に足を向ける。爪先が、初夏の陽光に当たって、ぽかぽかとしているようだった。

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