表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第7章:できそこないの王子─後編─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/178

132話:秋冷えの朝

 テッペントの月(じゅういちがつ)に移り変わっても、秋霞は観測されることのない、福音ノ日の朝だった。


 秋冷えは、いよいよ深まって、シェイラは少しだけ掛布から足を出すのをためらった。朝の日課を終えて、王子宮への道のりを歩む頃には、朝陽が空気をあたためていたけれど、まもなく冬を感じる季節の移ろいを感じた。


 ブナやカエデ、イチョウなどの色づいた葉が、王城の長い階段や坂にしきりに落ちていた。下働きのものがせっせと箒で集めている。毎朝、大変だろう。魔法でぱっとやってしまえるほどの力を持っていれば、そもそも下働きになどなっていない。手作業でやらなければいけないような者たちが、下働きになるのだ。


 この長い斜面を登っていると、シェイラの頭はいろいろなことが思い浮かんでは通りすぎていく。


 結局、一昨日の霧の原因はよくわからなかった。


 渓谷の下、削られた谷河まで下りて調べてみたけれど、なにもわからなかった。突然現出した霧は、払われてしまうと、どこから湧いてきたのかもわからず、大規模な魔術が執り行われた形跡も見つけられなかった。一緒に調査に当たったものと途方に暮れるしか、なかったのであった。


(あの陣のおおもともまだわかりません)


 黒檀と査問官たちから、依頼された調査だ。

 少しずつ空いている時間で探ってはいるが、今のところなにもつかめない。


(まるで……)


 雲をつかんでいるようだ。雲を追いかけ、気づけば霧に覆われているような不快感と、薄気味悪さを覚える。


 シェイラは〈気高き魔女の騎士団〉という組織に詳しいわけではない。


 団長と呼ばれるものが組織を束ね、堅い誓いと符牒により互いの素性を把握する。騎士と見習いである従士などの位があるのは知っているが、それくらいだ。ノザリアンナ呪術とユベーヌの呪いのなかでも呪いに寄ったものが扱われる。

 大昔に組織されてから基本的に裏でしか動いていないが、何度か歴史の表舞台にも出てきている。一度大規模な粛清によって壊滅したと思われていたが、今でもこうして長外套(ローブ)の裾を見せ、実際シェイラも交戦している。


 ノザリアンナ呪了国(しゅりょうこく)の再興を願っているというが、実際のところなにを目的とした組織なのか知れないのが、〈気高き魔女の騎士団〉と呼ばれる結社だった。


 シェイラにできることも限界はある。


(ヴェッセンダリアに戻れば、もう少しいろいろ調べられそうですが)


 一旦は期日が決まっている。今できる最善を尽くすしかない。


 シェイラが、勾配を登り終えると第一王子宮が見えてきた。その末広がりの階段に、ちょこんと座る影が見える。



「イディさん……?」



 シェイラが口を開けば、イディオンが立ち上がった。ぱっとこちらへ駆けてくる。外で待っていたからか、少し厚着だった。

 冷えて赤くなった頬をほころばせる。結っていない髪が風に吹かれていた。


「おはよう、シェイラ。待っていたよ」


「寒くはありませんでしたか? 今朝は少し、冷えましたから」


「全然。むしろ気が急いて、さっきまでそわそわ歩き回っていたからあたたかいくらいだ」


「そうでしたか」


 シェイラはなんだか拍子抜けだった。

 少し、ほんの少しだけ、シェイラは身構えていたのだ。一昨日あんなことがあって、夜にはシェイラの過去を話してしまった。おどろおどろしい話もあったであろうから、いささか引かれることもあるだろうと思っていた。


 けれど、イディオンは驚くほどいつもどおりだった。むしろ、外で待っているなんて、当初を考えると信じられない変化であった。

 なんとも感慨深い気持ちになる。


「テニアにあたたかい茶を淹れてもらうように頼むよ」


 おまけに気づかいの精神のかたまりだ。シェイラは、ありがたくその気づかいに浸からせてもらってから、象牙の扉をくぐる。

 この部屋のにおいにも慣れてきて、きゅっと腹の奥が縮まるようだった。


(あと五ヶ月もない)


 ひとつひとつやっていかなければ、と背筋が伸びる。


「今日も、魔法の……練習をするの?」


 イディオンは髪を無造作に結って現れると、尋ねた。


「そうですね。一旦、表象魔法と呼びましょう。元素魔術とはまた異なるので」

「うん」

「その練習もしたいですし、しなければいけないのですが、ひとつ棚上げしている問題があります」

「〈導脈〉?」

「そうです」


 シェイラのなかで手筈は整っていた。

 イディオンもまた、理解はしているだろう。


「今の状態だと、魔力が心象風景に食い潰されている状態は変わりません。暴発の危険性もあります」


「そうだね」


「なにより、その状態だと魔法が使えない状態は変わらないですし、このあいだのようにファル(せき)に頼ってばかりもいられません。わたしが制御するわけにもいきません」


「うん」


「なので、今日は〈導脈〉制御の方法をお伝えします。同時に表象の練習も少しずつ行っていきましょう」


 シェイラは部屋を見渡す。それから、イディオンの許可を取って、{浮遊}{操作}を用いて、いくつかの調度や書籍などの位置を動かした。周囲になにもぶつからない程度の距離を、ふたり分確保する。それぞれの場所に椅子を置く。背もたれのない椅子を用意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ