表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第6章:できそこないの王子─中編─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/178

111話:試行と焦り(2)

 言うと、シェイラとイディオンは早速準備をはじめた。書き物机を整理して、まずは室内にある適当な魔導書を広げた。適当な頁を開き、シェイラはイディオンに座ってもらってから、指で指し示す。


「まずはここを黙読してもらっていいですか?」

「黙読でいいのか?」

「はい。そのあと、音読をしていただきます」

「わかった」


 『風ノ書』の頁だった。突風を起こす魔法だ。実際に発動してしまうと、せっかく片づいた部屋がまた散らかってしまうかもしれない。片づけのための生活魔術も考えておく。


「読んだ」


「は、はやいですね」


 数秒あったかなかったか。一頁分だ。

 速読術でも身につけているのだろうか。


 シェイラもはやいほうだが、そんな速度では読めない。もはや読んでいるのではなく、見ているのではないだろうか。

 人によっては、目を通して、鏡のように記憶して読む人間もいる。


「読んでいる時に、目がちらちらしたり、あとは文字が浮いたり混ざったりすることはなかったですか?」

「それはない。すでに覚えている内容ではあったが」


 なるほど、とシェイラは耳飾りを爪弾いた。


「わかりきってはいましたが、読みの〈限局症〉ではないですね」


「読みの場合だとまたちがうのか?」


「はい。そもそも、そんなにすらすら読めません。黙読が難しいです」


 読みの場合は、文字が浮遊して見えたり重なって見えたりするのだという。判読がしづらく、読むのに疲労を伴う。

 読めないのではなく、極端な疲労が読みを妨げる。拒否や回避につなげてしまう。そうして読まないことによって語彙が増えず、語彙が少ないからさらに読めなくなってしまう。負の循環が生まれる。


「それはないな」

「そうですよね」


 言いながら、シェイラは近くのルペドの植物紙を手に取る。持ってきた翰筆(ペン)墨壺(インクつぼ)を取り出した。突風の呪文を綴る。


「今度はこれを黙読してください」


 シェイラは書きつけたものをイディオンに渡す。


「特殊な(インク)です。通常であれば、読むだけで唱えなくても呪文が発動します。〈導脈〉の魔力が枯渇していても読めれば、発動するはずです」


 あまり魔力を持たない庶民が使う、護身用の魔法に用いる(インク)だった。魔法紙の折り方に工夫を施せば開いただけで発動もする。

 今は、イディオンの呪文を読む反応を見るためで、細工は施さない。


 イディオンは受け取ると、さっと記されたものを視線がすべろうとして、止まった。瞳が、がたがたと揺れるようになる。それからすぐに、くぐもった声を出すと両目を覆った。指のあいだから、魔法紙がすべり落ちていく。


「イディさんっ?!」


 シェイラが慌てて駆け寄ると、片手で制される。


「大丈夫だ……慣れて、いる」


 シェイラは、頬を打たれたように愕然とする。


 これほどの症状が出るのか。


 以前まで、散らかっていたこの部屋を思い出す。


 何度たえたのだろう。これだけの症状を。


 思うと、シェイラのなかで痛苦が広がる。広がったものを、シェイラは噛み殺した。イディオンに向き直る。すでに症状は落ち着いているようで、目の覆いは取られていた。


「次を試しましょう」

「ああ」


 それから、条件をひとつずつ変えていって、呪文や魔法陣が発動するかしないのか試していった。いずれも結果は見えていたが、ひとつひとつ筆記本(ノート)に、イディオンの動きや反応も含めて、細かに記していった。


 それらが終わると、今度は呪文ではなく、触媒をひとつひとつ試していくことにした。

 まずは月ヤナギの杖。


「握って、どうするの?」


 問われる。


「頭のなかで、イディさんが蓄えている知識を理論的に描いてみてください」

「……計算式みたいにってこと?」

「そうです。魔法の理論などはすでに頭に入っていますよね?」

「ああ」

「それをはじめから答えまで出すようにです」

「わかった」


 言ってイディオンは杖を持ちながら、目を瞑って思考に集中できるようにした。


 だがすぐに、


「う……っ」


 こめかみを押さえて、座り込む。


「どうしました?」


 その反応はさきほどから見慣れていているもので、シェイラもいちいち驚かなくなっていた。けれど、心配なのは変わらない。

 座り込んで覗き込むと、目を開けたイディオンが苦痛にまぶたを歪めている。


「今……」

「はい」

「いつもは考えられるはずなのに」

「はい」


「魔法を構築しようと、知識を考えでつなげようとしたら、静電気みたいにばちっとした」


 どういうことだろう。


 それではまるで、魔法を()()()()()()()()()()()()()()()みたいではないか。


 魔法は定義するものだ。あるいは式によって導き出すものだ。呪文によって形をまとめあげ、魔力を変換して行使する。もしくは、算術のように数式を構築して解を出す。


 そういうものだ。


 だから、教導目録でも、文学や算術は主要な教科として、学園にいる頭のやわらかいうちに学ぶ。それを体や感覚で覚えていくために。〈導脈〉と連結していくために。


(もしそれができないなら……)


 イディオンは、たとえ〈導脈〉があったとしても、魔法が使えないということになってしまう。


 思うと、鼓動がどきりと大きく打った。

 焦燥を、覚える。


(早合点はいけません、シェイラータ)


 まだ、試していないことはある。

 期日はある。だが、結果を急いては仕損じる。


「他も試しましょう」


 イディオンが肯けば、シェイラは焦らぬようにと言い聞かせながら、ひとつずつ触媒も試していった。


 翡翠スギの棒杖、短剣、白ファル(せき)、金剛石などの貴石原石、振り子(ペンデュラム)、希少な〈蒼鷹(あおたか)〉の羽、星砂に霧砂、銅の指輪など、もはや試せるものはなんでも試した。

 けれど、結果は出なかった、〝静電気みたいにばちっとした〟症状の強弱に悩まされるだけだった。


 疲弊する。



「そろそろ、お休みになってはいかがでしょうか?」



 そう言って青髪の侍女テニアが扉を叩かなければ、シェイラもイディオンも倒れていたかもしれない。途中で軽食は取っていたが、ふたりとも疲れ切っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ