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第2章 門兵と雑貨屋の朝

―リオとカレンの日々―



Ⅰ.朝の支度


 朝靄がゆっくりと晴れていく。

 リオは木の扉を開け、心地よい香りに包まれながら伸びをした。


「ん……カレン、もう起きてたのか」


 台所では、カレンが小鍋を火にかけていた。

 煮立つ香草の香りが、湯気に混じって漂ってくる。


「おはよう、リオ。

 今日も南門の当番なんでしょ? 疲れが取れるように、香草スープにしたの」


「ありがと。……ああ、いい匂いだな」


 リオは椅子に腰を下ろし、

 カレンの作る朝食を見守る。


 彼にとって、その光景は何よりの“平和”だった。



Ⅱ.すれ違う時間


 結婚して半年。

 けれど、兵士の仕事は忙しく、

 すれ違う日も多かった。


「帰ってこない夜が続くと、やっぱり寂しいな」


 カレンがつぶやくと、

 リオは困ったように笑った。


「ごめん。でも、君の作る香袋があると、

 門番してても、どこか“家の匂い”がして落ち着くんだ」


「もう、そう言って誤魔化すんだから」


 ふくれっ面をしながらも、

 カレンの胸の奥は温かくなっていた。



Ⅲ.市場のひととき


 休日の午前。

 二人は連れ立って市場へ出かけた。


 香草、果物、焼き菓子。

 あちこちで馴染みの店主たちが声をかけてくる。


「おや、カレンちゃん。旦那さんを連れてきたのかい!」


「はい、この人です。……ほら、ちゃんと挨拶して」


「ど、どうも。いつも妻が世話になってます!」


 頭を下げるリオの姿に、周りが笑い声を上げる。

 カレンは頬を赤らめながら、小声でつぶやいた。


「なんだか、変な感じね」


「何が?」


「“妻”って呼ばれるの。……まだ慣れなくて」


 リオは少し照れくさそうに笑った。


「俺は、悪くない響きだと思うけどな」



Ⅳ.風の丘で


 帰り道。

 丘の上から、王城の尖塔が遠くに見える。

 風が吹き抜け、香草の香りを運んできた。


「ねえ、リオ。

 王妃様って、どんな方だったんだろうね」


「噂じゃ、優しい人だったらしいよ。

 でも、こうして風が香るのは……きっとその人のせいだ」


「ふふ。

 じゃあ、私たちも、

 小さな風を残せたらいいね」


 カレンがそう言って、リオの手を取る。

 彼は少し驚いたように見てから、

 そっとその手を握り返した。


「きっと残せるさ。

 この風が、いつか誰かを包むなら――それで十分だ」


 風が二人の髪を揺らし、

 淡い香りが丘を越えて流れていく。



Ⅴ.夜、灯る香り


 夜。

 リリィ堂の2階の窓から、

 柔らかな明かりと香りがこぼれていた。


 カレンはリオの鎧を磨き、

 その横でリオは彼女の指先を見つめていた。


「ねえ、リオ。

 これから先も、ずっと一緒にいられると思う?」


「思うさ。

 でも、もし俺が門を離れる時がきたら――

 君が“香りの門”を守ってくれ」


「香りの門?」


「ああ。

 君の作る香りが、この家の“風”だから」


 カレンは笑って、リオの肩にもたれた。

 小さく囁く。


「なら、あなたは“風の番人”ね」


 リオはその言葉に、

 ただ静かに笑い返した。

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