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私、宇宙一可愛いので死ぬ予定ありません!

「私、宇宙一可愛いから多分死なない! だって、可愛いんだもん!!!」



 喉が裂けるほど叫びながら、私は宇宙船の床を転がっていた。

 視界は赤く点滅してて、警告音が脳に響く。



「なんで!? これ絶対ヤバいやつじゃん!? このままだと落ちるじゃん!! 誰か説明して!」



 操縦席の方で一人の男子が淡々としゃべっていた。

 落ち着いているというか、もはや諦めているというか……。



「簡単に言うと、跳界座標のズレ。船のワープ演算がバグって、未知領域に弾き飛ばされた」

「つまりどういうことなのよ!!」

「宇宙で遭難したってことだよ」



 彼の名前は星海翔琉。

 学校のクラスメイトで今回、私を惑星調査に誘ってくれた張本人だ。

 このブラック企業のインターン生で、大手企業のインターン試験に落ちた私に声をかけてくれた。

 それはそれでありがたいんだけど、こんなことになるなら断っておけばよかった。



「どうしてそんなことになるのよ!!!」

「社長がまた整備予算ケチったからだね」

「何やってるんですか、社長!!!」



 操縦席の後ろ、座席に腰かけたまま眠っていた小さな少女が、ふぁとあくびをしながら答えた。



「っち、んだよ。もう落ちんのか? 前回の航行じゃ二時間は持っただろうが」

「それ参考にしちゃダメなやつですよね!?」



 社長こと氷雫紗朱ひだすずかは見た目こそ小学生だが、この船の所有者であり、れっきとした大人である。


 宇宙飛行士になるために必要なのは、挑戦心・冷静な判断力・そして運。

 たぶん今の私は、最後のやつが大幅に欠けている。

 だって、私が初仕事で立つはずだったのは、地球圏外の安全な定期調査惑星だった。

 なのに、いきなり未登録惑星へジャンプして、船ごと墜落って――



「ねぇほんとに大丈夫なの!? このまま行ったら死ぬやつじゃない!?」

「重力は強めだけど、大気組成は地球類似。外気温はマイナス260度。まぁ、この程度なら平気かな」

「それのどこが平気なのよ!」



 夢だった。飛行士になること。

 新しい星を発見して、歴史に名前を刻むこと――そして、みんなにチヤホヤされたい。

 その第一歩が、これってなに!? ていうかなんでこんなことに!?



「まぁ、落ち着けって」

「この状況で落ち着けるわけないでしょ!」

「宇宙一の飛行士になるんだろ? なら、この程度で動揺するなって」



 っく……。割と正論を言われてしまった。

 でもそうだよね。まだ死んでないし、なにも終わってない。



「こんなところで諦めるほど、育ちは良くないのよ!」



 そして――

 船体が揺れる。視界が反転する。

 ものすごい衝撃とともに、私たちは未知の惑星に墜ちた。

 名前も知らない星。誰もいないかもしれない地表。

 でも、大丈夫。

 私は宇宙一可愛いし、爆発もできるし、ハッピーエンドを信じてるから。

 これは、そんな私の――宇宙でいちばん過酷な冒険の始まり。






 ドォォン!!! という音と共に、私たちは惑星に墜ちた。



「……生きてる!? ねえ! 生きてる!? これ死んでない!?」



 宇宙船は派手にぶつかった割には、機体の大部分が無事だった。



「とりあえず、外に出て状況を確認しよう」



 さっそく星海君が宇宙船の扉を開けて外に出ようとする。

 なんでこんなに冷静なんだろう? 本当に同じ船に乗ってた?



「ちょっと待って! 外って! 酸素あるの!? 死んじゃわない!?」

「あるよ。さっきも言ったけど、大気組成は地球に近いからね。でも、外気温はマイナス五十度だからそこは注意が必要だね」

「うっわ……絶対寒いやつじゃん。しかも薄着なんだけど!?」

神衣かむい纏ってるでしょ? なら問題ないよ」

「かむい? なにそれ?」

「……え? あー、あとで説明するよ。とりあえずそのまま外出て平気だから」



 星海君に言われるがまま、ハッチを開けて外に出ようとするが……。



「ちょっと待って。社長は? どこ行ったの?」



 先ほどから社長の姿が見えない。

 墜落の際、どこかに落ちてしまったのだろうか。



「ああ、社長ならそこ」



 星海君が宇宙船の天井に指をさす。



「なぁ~もう降ろしてくれよ」



 そこにはロープでぐるぐる巻きにされた社長が宙づりになって、ぷらぷらと揺れていた。



「たまには社長には反省してもらおうと思って」

「ほ、星海君って意外と容赦ないのね」



 社長を解放する気がない星海君は先に外へと出て行ってしまった。

 私もその後に続いて、人生初の惑星第一歩を踏みしめる。

 するとそこは凍り付いた一面銀世界が広がっていた。



「ねぇ、これのどこが地球に似てるの? ねぇ!」



 星海君の言う通り、外に出ても凍死するようなことはなく、寒さをあんまり感じなかった。

 それでもかなりの吹雪で周りがほとんど見えない。



「似てるのはあくまで大気組成だけだよ。天候まで同じだなんて言ってない。それにまぁ北極みたいなもんだと思えば地球と一緒でしょ」

「そんなこと言っても騙されないんだからね! この星に落ちる直前に窓から惑星表面を見たけど、全部真っ白だったじゃない! 絶対この惑星全体こんな気候なのよ!」

「へぇ~よく見てるね。僕も同意見だよ」

「じゃあ、さっきの気休めは何だったのよ!」

「そんな怒らないで。よく見てみなよ、ほら」



 改めて当たりの光景を観察してみる。

 地面は真っ白な氷の大地。けれど、ところどころに数十メートルはある巨大な岩壁が綺麗に立ち並んでいる。

 いや、雪で覆われて分かりにくいがよく見ると岩ではない。人工物の建物のように見える。



「景色だけで判断するのは早計だけど、この星には人工物の痕跡がある。知的生命体が生息している可能性がある」

「じゃあ、そのなにかに助け求めれば、地球に戻れたりする!?」



 私たちの宇宙船はまともにメンテされていなく、不具合のせいで跳界ワープすることが出来ない。さらに、先ほどの墜落でエンジンがいかれてしまい、近くの惑星に移動することすら叶わない。

 この星で何かしらの移動手段を確保できなければ、私たちは一生この惑星から出ることが出来ない。



「この気候じゃ、まともな生物は絶滅したと考えるが自然だろう」

「ウソ!? それじゃ、私たちは一生このままなの!?」

「そうならないために、最低限探索は必要だろうね。宇宙船に積んである食料は一週間分。それまでには何とかしたいね」

「なんでこうなるのよ!!」



 そもそもの問題はあの女のせいよ。

 あの女がいなければ、私は今頃大手飛行士事務所のインターンに受かって、華々しいデビューを遂げていたはずなのに。

 そうなっていれば、こんなブラック企業のインターンになんか参加することなんてなかったのよ。


 あれは二日前。私がインターン試験を受けた日。

 あの女、嵐山コトネに出会ってしまったことがすべての不運の始まりだった。


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