秋、昼の3
「こんにちは」
急に話しかけられて、アキトはびくりとした。世話人…といっても、ロボット姉ではなかった。
現れたのは、大柄で髭を生やした男性の世話人だった。この人のあだ名はクマさんだ。サンタクロースのように、肩に大きな袋をさげており、それをゆっくりとおろした。
「玉ねぎと、パンと…あと他にも色々と持ってきたんですが…丸太小屋のベランダに置いておけばいいですかな」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ…」
クマさんは、話し方が独特で気さくな雰囲気を持っていたが、他の世話人同様、子ども達と必要以上に話さなかった。意識して距離を置いているようだった。
そして、あまり子ども達を見ないようにしていた。子ども達と目が合うと、すぐに視線を外してしまうのだ。アキト達はなんとなくきまり悪くなることが多かった。
しかし、アキトは話をしてみたいと思った。
「あの…世話人さん…」
クマさんは驚いて立ち止まり、アキトを見た。そして、やはり目をそらして少し俯いてしまった。
「世話人さんのお名前は、なんていうんですか」
アキトは俯きがちのクマさんに思い切って声をかけた。すると、クマさんは少し怯えたような反応をした。
「…何のために、あたしの名前を聞くんです?」
明らかに警戒していた。なぜだろう?アキトには分からなかった。
「あの、世話人さんだと何人もいるから…呼ぶ時のために名前を知りたいと思ったんだけど…。余計なことを聞いて、ごめんなさい」
アキトはなんとなく申し訳なくなって、あやまった。それによって、クマさんの態度も和らいだ。
「…いえいえ、こちらこそご勘弁を。一応、決まりでして。あなた方と、沢山お話してはならないことになってるんです。あたしのことはクマオとお呼びください」
そう言ってクマさんークマオはあごひげをなでた。
アキトは内心、びっくりした。クマさんとあだ名をつけていた本人が本当にクマさんだったのだ。
「…クマさ…クマオさん、ぼく、アキトです」
「ほうほう、アキトぼっちゃんはとても礼儀正しいですな。…さきほどはすみませんでした。名前をよくないことに使うような連中もいるもんで、ついつい警戒してしまうんです」
クマオは頭をかきながら決まり悪そうに言った。
「ぼく、クマオさんに聞きたいことがあって…」
「なんですかな?少しだけなら…」熊尾は、腕時計をチラと見た。
「僕たち、いつまでここに住めるんですか?いつか街へ入れますか?僕たちのお父さんやお母さんはどこにいるんですか?」
アキトは立て続けに質問した。
のんびりした熊尾は2回ほど瞬きをし、ふーっとため息をついた。
それから、アキトの目を真っ直ぐ見つめた。
「いいですか、アキトぼっちゃん。不用意に何でも知ろうとしたり、誰にでも聞いたりしちゃいけません。
場合によっちゃ、知らない方がいいこともあるんです。時には、自分の身を危険にさらすようなことにも、なりかねませんから…。
その質問に答えるのは…あたしには難しい。でも、他の人に聞くのもおよしなさい。…何かわかったら教えますから」
「わかりました。ありがとう」
「あたしも、こっそり、聞いていいですかな?」
クマオは少し声をひそめ、辺りを伺った。
アキトはうなづいた。
「その…あなた方は…、魔法が使えたり、他の妖精が見えたりするんですかな?」
「・・・え?」
今度は、アキトが何回も瞬きをした。魔法?他の妖精が見えるか?…他の妖精?アキトは絶句した。
その質問は、まるで僕たちが妖精なんだと言っているように、アキトには思えた。
アキトが答えられないでいると、クマオは少しあわてた。
「これは余計なことを聞きましたな。お忘れください。では、あたしはこれで…」
そう言って、クマオは帽子を持ち上げて見せて、帰っていった。
アキトはしばらくの間、そこに立ち尽くしていた。
改稿
2025.5.12
2025.5.21