[1日目 - 午後] 水ヶ谷村 - 村を巡り、4人で遊んだ ③
小道を歩いて、道路まで出る。
「じゃぁ、私はこちらなので。カイ、明日もいつも通りでいい?」
僕たちと千夏は逆方向に家がある。だから、千夏とはここでお別れだ。
「おう、じゃぁまた明日な」
「はい、ミライとハルも、またお会いしましょう。おやすみなさい」
ペコリと頭を下げた後、千夏は手を振って帰って行った。
「じゃ、俺らも家に向かうか」
そう言ったカイを先頭に、僕たちは歩き始めた。
「そういや、ハル、ミライ、多分明日以降も暇なんだよな?」
「そうねぇ、記憶が戻らない限りは多分暇かな?」
「……僕も特に予定は無かったです」
「そうか!」
カイが嬉しそうに言う。
「ならさ、明日も一緒に遊ばないか?10時に、バス停集合で!」
おぉ、願ってもないお誘いだ!
「もちろん!明日も一緒に遊びたいです」
「ハルぅ~~~~!!!」
カイがまた感極まれり、という感じだ。
もはや恒例の、肩に腕を回してくるスタイル。
「やっぱり、男同士のダチが俺は欲しかったんだよぉ!!!」
嬉しそうだ。なんか僕まで嬉しくなってくる。
カイのハイテンションな感じに最初はちょっと戸惑ったけど、今日1日一緒に過ごして、逆に心地が良くなってきたかもしれない。
「ミライはどうだ?」
「私ももちろん!お邪魔じゃなければ、ぜひ!」
ミライもにこりと!
「よっしゃぁ!!」
カイがガッツポーズ。
「じゃ、もし何か都合が悪くなったら俺んちに電話してくれ。多分山守のじいさんが電話番号は知ってるはずだから」
「わかりました」
「そしたら、明日10時な!寝坊するなよーー!」
丁度カイの家について、じゃぁね~と手を振りながら僕たちはわかれた。
ミライと僕の2人になった。
「……楽しかったね、今日」
「そうですね」
「なんかさ」
ミライが、少し考えながら言う。
「こうやって楽しく遊ぶっていうの、凄い久しぶりな気がするの」
「……」
「やっぱり、誰かと遊ぶのって楽しいね」
「……そうですね」
僕もだ。
僕もここ数ヵ月、誰かと関わることなく生きてきた。引きこもり生活だ。
でもやっぱり、1人でゲームしたり本読んだり、そうやって過ごす時間とは少し違う楽しさのある、充足感のある時間を過ごせた気がする。
「楽しかったですね」
「そうだね。明日も、こうやってみんなと遊べると良いな」
ミライはそう言った。
「そうですね」
僕もそう思った。そしてそれは、多分叶う事だろう。
カイと明日10時に。約束したから。
自然と笑顔になる。
2人並んで、辺りは夕暮れでオレンジに染まっていく。
1日の終わりを感じて、今日の楽しかったことを振り返りながら。
僕たちは並んで家へと続く小道へと入って行った。
―――――――
「みらい、今日は1日どうじゃったかの?」
「凄い楽しい1日でした!大部カイさんと、越路千夏さんとハルの4人で遊んできました!」
夕飯はお鍋を囲みながら、おじいちゃんに今日1日の報告会。
「おお、大部さんと越路さんちの子と遊んできたんだね」
お父さんが驚いて言った。
「晴も遊んできたのかい?」
「うん。村を案内してもらって、その後カイと千夏の遊び場で一緒に遊んでた」
「それは良かった。村で仲良くできる子がいたんだね」
お父さんがうんうんと頷く。多分、引きこもり続けてた僕が誰かと関わっているのを見て、安心したのだろう。まぁ、最近は父さんを不安にさせ続けていた自覚はあるからなぁ……
「晴もみらいも、良い1日を過ごせたようで何よりじゃ」
おじいちゃんも笑顔。満足そうだ。
鍋から煮えた豚肉と豆腐を取りながら言葉を続ける。
「して、みらい。今日何か思い出したことはあるかの?」
「……」
ミライが沈黙している。顔を見てみると、口が半開きで、あ!しまった、というような表情をしている。
「……いえ、特に思い出せませんでした……」
「そうか」
おじいちゃんは何も気にすることなく、豆腐を箸で切り分けて食べている。
「まぁ、ミライさん。遠慮なく記憶が戻るまではこの家にいてくれていいですからね。色々お手伝いもしてくれて助かっていますし」
父さんが柔らかい笑顔でそういう。
「すいません……お世話になります」
「ま、逆に行く当てもないのに出ていく!と言われても、こっちも困るんだけどね。ははは」
それは、確かに父さんの言うとおりだ。記憶喪失のまま少女をほっぽり出したのか!と色々怒られそうだ。
「ははは、確かにです」
賑やかな食卓だ。
話がひと段落したところで、僕が聞きたかったことを切り出す。
「そういえばおじいちゃん」
「なんじゃの、晴」
「おじいちゃんってジジ団っていうのに入ってるんだよね?」
「そうじゃな」
「おじいちゃんはジジ団で何をしてるの?」
「ふーむ」
おじいちゃんが少し考える。
お父さんが良く知ってたね?と聞くので、カイと千夏から聞いたと伝えると、なるほど、と納得していた。
「何をしとるか、というのは難しいのじゃが……」
うーむ、と悩んでしまった。
「カイ曰く、自治体の団長みたいなものだと言っていましたけど……?」
ミライがそう言う。
「それも少し……いや、村を取りまとめてる、という意味ではあっておるかのぅ」
その後少し考えて。
「まぁ、ジジ団4人で村の安全を守るために、色々やっておるのじゃな」
「安全?」
「そうじゃ。4人でちょっとした約束をしておっての。皆が安心して暮らせるように、色々やっておるのじゃな」
「へぇ」
村の安全のために色々やっている。どんなことをやっているのだろう。
でも、そういうことをしているおじいちゃんは、ちょっとカッコよく思えた。
「ちょっとおじいちゃん、カッコいいかも」
「ぶっ」
おじいちゃんが白菜を吹き出す。
「わはははは。孫に褒められるのも悪くないの!」
上機嫌になった。
「簡単な話じゃ。死ぬときに、ちゃんと村を守り抜いたぞ!と誇れるように、しておきたいだけじゃな」
「誇れるように……」
やっぱりカッコいいかも。
「まま、難しい話は終わりじゃ」
その後は今日の話や、お父さんが村で給湯器の修理をした話とかで盛り上がった。
食事を終えた後、
「そうじゃ、明日はわしは朝から隣町に出てくるからの」
と言って、おじいちゃんは何か支度をしに部屋に戻って行った。
後片付けを僕とミライで分担して進める。
ふとミライの顔を見た。俯きながら鍋を洗っていたけど、何やら表情はいつもより暗い気がした。何か考え込んでいるのだろうか……?そんな僕の視線を感じたのか、僕の方を見て何時もの表情に戻る。顔をジロジロ見るのも恥ずかしい気がして、僕も手元の食器を洗うのに集中することにした。
―――――――
部屋に布団を敷く。昨日と同じ、ミライと隣同士。
お互い風呂に入って、パジャマに着替えて(もちろんお風呂場の脱衣所で)、ベットに寝転がって。
ミライがベットの上に正座して、開口一番。
「ちょっと、よく考えたら今日何もしてないじゃない!」
「いや、色々したよ!」
思わず突っ込む。
村を散歩して、サンドイッチ食べて、ボードゲームで遊んで、盛りだくさんな1日だったじゃないか!
と思って、はっとミライの現状を思い出し、急に不安になる。
「え、また記憶喪失……?」
「ちっがーう!」
また横滑りにミライがズッコケる。器用だなぁ。
「今日!私の記憶を取り戻すための!努力!何もしてないじゃない!」
あ、確かに村一周ツアーの後は遊んでただけだったかも。
「確かに」
「あぁ、もう……」
ミライが頭を掻きむしる。
「おじいさまに、記憶のこと聞かれるまで、完璧に忘れてたのよ……」
「正直僕も忘れてた……」
そもそも、村一周ツアーもミライの記憶を取り戻すキッカケ探しが元だったんだもんな。
「明日、明日よ!」
「明日?」
明日もカイたちと遊ぶ約束をしているはずだ。
「明日こそは、何か記憶につながる何かを見つけなきゃ……!」
「カイたちと遊ぶの約束は……?」
「それは、あれよ。遊びながら、何とか探すのよ!」
んな無茶なー。
「ハル」
真面目な顔をして、ミライが僕の方を向く。
「明日こそは、よろしくね」
「は、はぁ」
「よし、明日に備えて早く寝ましょ!」
その後は、ミライと他愛もない話をした。
今日楽しかったこと、カイや千夏の話。ジジ団の話など。
そんな話をしていたら、自然と僕たちは眠くなっていた。
「じゃ、そろそろおやすみなさい」
「そうね、おやすみ」
僕たちは互いに逆向きになって、布団に包まる。
うつらうつらと目が閉じかける中、僕は今日のことを振り返っていた。
楽しい1日だった。
4人で充実した1日を過ごした。
ミライも楽しそうだった。
記憶は戻らなかったみたいだけど。
記憶喪失。本当はとても大変な事なはずだ。でもミライを見ていると、何故か僕は気を遣うとか、不安になるとか、そう言った気持ちにはならない。何故だろう。
理由は簡単だ。ミライがずっと明るく振る舞っているからだ。そんなミライを見ていたら、ミライの置かれている状況を忘れてしまいそうになる。
ミライの記憶は取り戻さないといけない。ミライにとって大切なことのはずだ。
助けられるなら、助けたい。ミライには、僕を外に連れ出してくれた恩がある。でも、僕に何か、手伝えることがあるのだろうか……
そんなことを考えていたら、僕はいつの間にか、眠りについていた。