表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

[1日目 - 午後] 水ヶ谷村 - 村を巡り、4人で遊んだ ①

「第1回、水ヶ谷村1周ツアー!」


 ハイ拍手!!!という掛け声に合わせて、僕とミライが拍手をする。


 パチパチパチ……


 なんか2人だけの拍手って寂しいぞ……

 そう思ったが、カイは満足げだった。


「ツアー最初に訪れますは、私の自宅、越路家でございます」


 千夏が恭しく頭を下げて、少し離れたところにある建物の玄関を指さす。

 え、自宅紹介……?紹介するにしては、遠くない……?


「ちがーーう!そっちじゃないっ!」


 カイが突っ込む。

 あ、千夏がボケたのか……


「今俺たちの横にある建物が、図書館!この村唯一の図書館だよー!」


 振り返ると、立派な茶色の建物が建っていた。


 そこまで幅のある建物ではないが、奥行きは長く、天井も普通の2倍ほどの高さのある建物だった。ガラスの観音開きのドアが付いていて、縦置きの看板には「図書館」と3文字だけ書かれていた。中の様子をうかがうと、スタッフさんらしい人が1人、カウンターで本を読んでいた。それ以外にも僕たちよりも年上そうな学生さんらしい人が数人、テーブルで本を積み上げて勉強しているのが見えた。


「私たちもたまに学校の宿題の調べものをするときなんかに使ってます。住所と名前を伝えれば本を借りることもできますよ」


 千夏がそう説明してくれた。

 途中、宿題というワードが出たときにカイがピクっと反応したのを僕は見逃さなかったが、まぁ何も聞かないでおこう。


「この図書館は、普通の小説や辞典なんかと一緒に、村の人たちの私物の本なんかも預かっていて、みんなが見れるようになってるんです」


 だから、何か価値のありそうな本で、家で持ち余しているようなものがあれば預けちゃえばいいですよ。

 とのことだった。


 まぁ、1人父親に連れてこられただけの僕には関係のないことか……


「あ、雑誌とか漫画とかはダメだぞ。俺が家の読まなくなった漫画全部持っていったら、追い返されちまったから」


「当たり前です。公共の場所なんですから、保管する意義のあるものじゃないと」


「え~、漫画だって価値ある読み物だぞ?」


「……ふむ」


 千夏が確かに、という感じで視線を空に向けた。

 まぁ、カイの言うことも一理ある気がしてきた。


「ま、どっちにしても預けてもらえなかったから、なんかそういうのはダメなんだろうな」



 じゃ、次に参りまーす。と歩いていく。


 途中越路家の玄関を本当に訪れた後引き返していく。


 一度は通り越した、川の上にかかる橋を渡って、バス停や図書館がある側とは川を挟んで反対側の方面へ向かっていく。


「こっちの方は畑が大多数だな」


 辺りを見渡すと、川を隔ててこちら側には畑が広がっていた。山際の方に目を向けると、段々になって、やはりそこにも畑が連なっていた。その中に数件だけ家が建っていて、後は農機を収めているであろう倉庫が幾つかあるだけだった。


 その畑の中に、ひときわ目立つ建造物があった。それは畑の中にぽつんと1つだけ建っていて、見た目からして、役割は物見櫓というか、いやそこまで立派なものでもないから監視塔というか。3階建てくらいの高さの鉄塔が立っていて、その上には人がギリギリ乗れるくらいの足場が付いていた。足場のさらに上には、妙に目立つアンテナと電灯、スピーカーが3方向に向けて備え付けられている。

 その鉄塔の下には木々に囲まれた一軒家が畑に囲まれて建っていた。


「目立つだろ?あれ」


 カイが、僕が鉄塔を見ていることに気が付いて話す。


「あれはスピーカーの為の鉄塔だな。村でなんか連絡したい時にたまに放送が流れるんだ」


 行政無線という奴だろうか。


「あの鉄塔は、高校生以上は自由に登っていいんだぜ。人探しする時には便利だな」


 確かに、この田舎では高さのある建物なんてないから、あの程度の高さの鉄塔でも上からはかなり広い範囲を見渡せるだろう。覚えておこうかな。


「へー、登っていいんだ!」


 隣でミライが腕を組んで鉄塔を見上げてる。

 目が輝いているように見える。登りたそう?


「で、あの鉄塔の下の家が田中さんの家ですね。ちょっと行ってみましょうか」


 千夏がそう言って、鉄塔の方へ歩いていく。


「ハル、田中さんとは会ったことあるか?」


 田中さん……記憶をたどっても、思い当たる人はいない。

 そもそも、この3人以外の村の人を全然知らないのだが。


「いや、会ったことない……はず」


「そうか。田中さんはジジ団の一人だな。お前んちのじいさんと仲良くしてるはずだぞ?」


「へぇ、おじいちゃんと」


 おじいちゃんと仲のいい人か。

 どんな人か気になると同時に、カイの言葉の中に気になるワードがあったことに気が付く。


「ジジ団って?」


 じじいの集まり……?


「あぁ、ジジ団も知らないのか。まぁ村に来て2日じゃ、しょうがないか」


 カイは頭をポリポリ。あたかもジジ団というものを、皆が知っていて当然のような口調だ。

 村の中では常識なのだろうか。


「ジジ団って、朝役所に集まってた山守さんと田中さんと、大部さんの集まりのこと?」


 ミライが話に交じってきた。そういえば朝、ミライはおじいちゃんと寄り合いに付いて行っていた。

 その寄り合いがジジ団の集まりだったのかな?


「そうそう。村の自治体の代表団みたいなもんだな。頼れる人たちだ!」


「困ったことがあったら、ジジ団の皆さんに相談すれば何とかしてくれるんです」


 千夏もそういう。

 僕は気になったことを聞いてみた。


「ジジ団って、なんでそんな名前なの?」


「あ~何だっけな……?」


「昔は、何か別の名前があったらしいのですが、山守さんと田中さん、どちらも年を取られたので、ジジ団に改名したそうですよ」


「あぁ、そうだそうだ」


 なるほど、本当にジジイの集まりでジジ団なのか。


「あれ?」


 ミライが話を聞いていて、気になることがあったようだ。


「でも朝の集まりでお会いした方は、確かに山守さんと田中さんはおじいさまでしたけど、大部さんは全然若かったよ?」


「あー俺の父ちゃんな」


 どうやらカイのお父さんもジジ団の一員の様だ。


「結構前だけど、うちのじいさんからジジ団を引き継いだっぽい。代替わりってやつ?」


「私のお母さんもジジ団の一員ですけど、同じくおばあちゃんから引き継いだらしいです」


 おや、ミライが言うには朝の集まりには3人しかいなかったらしいけど。

 千夏、つまり越路家のお母さんもジジ団の一員なのかな。


「ま、元々がジジババの集まりだったからジジ団ってだけかな」


 ふむ。


「つまり、僕のおじいちゃん、カイのお父さん、千夏のお母さん、それに田中さんの4人でジジ団ってこと?」


「あぁ、ハルの言う通りで合ってるぞ」


 なるほど。おじいちゃんは色々な事をやっているとは聞いていたが、その内の1つがジジ団ってやつなんだな。



 話しているうちに田中さんの家につく。千夏がピンポーンとインターホンを押すが、誰も反応しない。カイが家の周りに目をやるが、どうにも人の気配がしない。田中さんはどうも留守のようだ。


「珍しいですね。大体田中さんはこの辺りに居ることが多いのですが……」


 千夏はそう言うが、ここには確かに居ないのだから仕方ない。


「ま、ここはこれくらいにして、次は役所の方に行ってみるか!」


 カイが切り替えて、また新しい場所に歩を進めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ