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遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


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[エピローグ] 水ヶ谷村 - ミライ

 バス停近くの枝垂桜の下に、良い感じに真ん中のくぼんだ石があった。その石は、年季の入ったバス停の横に4つ置かれていて、妙な存在感を放っていた。そんな天然石の椅子、ロッキングチェアに身をゆだねて本を読みながら、僕は2人の友達が来るのを待っていた。


 村は大きな被害を受けながらも、備蓄資材や見守り隊、行政の協力を得てぐんぐんと復旧工事が進んでいた。村を横断するように引かれた中枢道路が十分に災害対策されていたおかげで、工事に必要な機材や資材を迅速に運び入れることが出来たのが功を奏したらしい。これも、何年もかけてジジ団が実現したプロジェクトだったとのことだ。


 ふと道を往来していた車両が途絶え、シンと辺りが鎮まる。

 耳を澄ませてみる。木の上で小鳥がさえずっているのが聞こえた。森の方からも、僅かながら何かの動物の鳴き声が聞こえてくる。元々山守家のあった場所ほどではないが、こんな村の中心からも森の動物たちとの関りを感じることが出来た。自然に暴力を振るわれながらも、水ヶ谷村は結局、自然と共存していく運命なのだろう。


(色々あったけど、この村には沢山救われたな…)


 春休みが空けて4月、僕は親友と和解し、別れを告げて、この村に移住することを決めたのだった。


―――――――


 あの日、村を離れた後の僕は、水ヶ谷村の事を沢山調べた。

 森深くに入ると魂を乗っ取られるとか。川の水は死人の血で汚れているだとか。

 そんな眉唾な話もたくさん合ったけど、それ以上に自然災害の記録が多い場所だった。

 水ヶ谷村は呪われている、なんて言われていたのも理解できるほどに。


 そして、ミライの事も気がかりなままだった。

 カイや千夏とも連絡は取り合ったけども、ミライに関する事も何もわからなかった。


 結局は、僕たち3人はミライのその後を知ることなく、取り残されたわけである。


 あの日、神社でミライは何を思い出したのだろう。

 そして、どうして僕たちの前から消えてしまったのだろう。


 ジジ団の皆は、大丈夫だから、とばかり口にする。

 家でもお父さんは、大丈夫だから安心しなさい、と言う。

 何かを知っているようだが、誰も教えてくれない。


 ミライは今、どこで何をしているのだろうか?


―――――――



 ミライのことは、ずっと気になっている。

 でも、不思議と僕たちはミライの事を心配していなかった。


 きっとまた会える。


 カイも、千夏も、不思議とそう信じていた。


 僕たちは、ミライと繋がっていた。

 一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に泣いて、怒られて。

 そうやって過ごしてきた日々の中で、僕たちは友達として繋がっている。

 僕はその繋がりを忘れない。ミライもきっと忘れない。

 ならばいつか、ミライと会える日が来るだろう。


 僕はそう信じていた。



 風が吹いた。

 枝垂桜から、ピンク色の花びらが舞う。


「おはようございます。ハル」


 声が聞こえた。

 まずは千夏がバス停にやってきた。


 遅れてカイもバス停にたどり着く。


「だりぃ、学校サボりてぇ……」


 ボサボサの頭を千夏がチョップ。


「春休みは終わり。ほら、もうすぐバスがくるからバス停に行きましょう」


 カイは手押し車に3メートルの梯子を載せていた。

 そういえば自由工作の宿題のためでもあったんだっけ。

 バス停で待っていると、直ぐにバスが到着する。


「お兄さん、流石にそれはバスには持ち込めませんよ」


 そりゃそうだ。


「えぇ、どうするよ」


「じゃぁ、カイは歩いてきてね」


 千夏はそう言ってバスに乗り込んでいく。


「おい、ハル、助けてくれ」


 カイが必死そうだ。


「仕方ないし、そこに置いていくしかないんじゃない?」


「くっそう、俺の宿題が……」


 カイは空き地に手押し車ごと置いて、バスに乗り込んだ。

 バスの扉が閉まって、僕たちを学校へと運んでいく。


 一番後ろの席に3人横並びで座った。

 どうでもいいような話をする。

 新しい場所での日常が、今日から始まった、そんな気がした。



―――――――



 学校で、カイと千夏と別れて職員室を訪れる。

 担任の先生と挨拶をして、ホームルームまで待機。


 担任の先生に連れていかれて、教室の前で呼ばれるまで待っていた。


「では、今年から転入してきた生徒を紹介します。山守君、入ってきて!」


 先生が僕のことを呼んだ。

 深呼吸をして、部屋に入る。


 知らない人ばかりの視線が、僕に向けられた。

 この場所で、僕は新しい生活を始めるんだ。


 窓際に、カイ。前の席に千夏がいるのに気が付いた。

 2人が、ニヤニヤしながら僕のことを見ている。


「初めまして、山守 晴です。水ヶ谷村に先月引っ越してきました。よろしくお願いします!」


 元気よく挨拶をして、頭を下げる。

 皆が拍手で迎え入れてくれた。少し安心する。


「はい、晴君、よろしくお願いします」


 先生も笑顔で話しかけてくれる。


「さて、本当はねぇ」


 先生が教室の外に目をやる。


「あともう一人、転校生がいるのだけど……あら?」


 ドタドタドタドタ。

 廊下を元気いっぱいに走る音がする。


 その音の主は、この教室に近づくにつれて足音を減らし、やがて教室の前にたどり着いた。


「あっ!」


 僕は思わず声を上げた。

 教室の皆の視線を一斉に浴びて、しまった、と思って口を抑える。


 その少女は笑顔で教室に入ってくる。


「間に合いましたね。でも、廊下は走ってはいけませんよ」


 先生が腕を組んで怒って、少女はバツが悪そうに頭を下げる。


「では、自己紹介をお願いします」


 先生に促されて少女は教壇の前に立った。


「みなさん、初めまして!今日から、水ヶ谷村に引っ越してきました!」


 少女は元気よく挨拶する。

 その声は、明るくて、元気いっぱいだった。


 皆からの拍手を浴びている。僕とカイと千夏からも、大きな歓迎の拍手を。


 少女は、僕の方を向く。

 そして、笑った。


 僕も思わず笑った。


 そして、僕たちは2人、教室の一番後ろの席に横並びで座った。


 カイと千夏が手を振ってくれる。僕たちも手を振り返した。


 ホームルームで先生が色々連絡をする中、僕は少女のことをちらっと見た。


 彼女は、まっすぐに前を見ていた。

 自信に満ち溢れた、そんな目で、前を見つめていた。



 僕も、前を見る。

 そして思いを馳せた。


 これから始まるであろう、僕たちの日々に。

 そして、これから生まれるであろう、色鮮やかな思い出の数々に。


 さぁ、きっとここから始まるんだ。

 踏み出した一歩から、見つかる景色を確かめに行こう。


 4人で一緒に。

 遥か、彼方まで!

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