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遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


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[ミライ] 未来を導くもの ③

 日記を閉じた。

 あの日々に思いを馳せる。



 4人で遊んで、色々な人と関わって、喧嘩して。

 笑ったり、怒ったり、泣いたり、はしゃいだり。

 とても楽しい日々だった。


 私の中で、かけがえのない1週間だった。

 こんなに楽しくて、充実した日々は今までになかった。



 皆に自慢できる、そんな大切な思い出だ。


 この思い出を、誰かと共有したいと思った。


 そうだ、お母さんだ。

 お母さんに、この思い出を自慢したかった。


 ……でも、お母さんはもういないのだった。



 想像する。

 もし、お母さんにこの1週間の日々を自慢したら、どんな反応をするだろうか?

 ハル、カイ、千夏。個性豊かな友達との毎日を教えてあげたら、お母さんはなんて言ってくれるだろう。


 素敵だね、って言ってくれるだろうか。

 良い友達だね、って言ってくれるだろうか。

 きっと、笑って、私の話を聞いてくれるのだろうか。


 窓の外を見た。

 青空が広がっている。


 お母さんの、優しい笑顔が窓に写った気がした。


 お母さんは、遠い所から、今も私のことを見てくれているのだろうか。

 青空に向かって、私の思い出を口にしたら、お母さんは答えてくれるだろうか。


 きっと答えてはくれない。

 そんなことは分かっている。


 でも叶うなら、大切な友達が出来て、大切な思い出が出来て。

 本当に本当に楽しかった思い出を、お母さんに話したい。

 そして、一緒に笑って、明日はどうしよう、なんて話をしたい。


 そんなことを考えていたら、お母さんがいなくなってしまった、という事実が重く、重く心にのしかかってきた。


 もうお母さんには会えないし、何も話すことは出来ない。

 その事実を、私は直視してしまう。


 お母さん、私の本当に大切な思い出を一緒に知ってほしいよ。

 何でいなくなってしまったの……?


 思いが、心から溢れてくる。

 ずっと感じていなかった。

 いや、忘れようとしていた、お母さんがいなくなった悲しさが、私に襲いかかる。


 抑え込もうと思った。

 でも、止まらなかった。


 目から、涙が零れた。

 枯れていたと思っていた涙が、止めどなく溢れてくる。


「おかぁさん………!!!うううぅぅぅ……」


 嗚咽が零れる。声も、涙も、私の感情も止められない。


 誰もいない部屋で、1人、私の声だけが響く。


 ずっと、ずっと、涙が止まらなかった。

 お母さんに、私の事を伝えたくて。

 でも、もう伝えられない事を知っていて。


 もうどうしようもない、この状況を思って、涙が止まらなかった。


「うああああああぁぁ……ぅぅぅ……」


 お母さん、会いたいよ。

 大好きなお母さん。

 でも、もう会えないのでしょう?


 どうして、もう会えなくなってしまったの?

 なんで、こんな理不尽なの?

 なんで、私だけ、こんな悲しい思いをしなければいけないんだ。


 なんで、なんで……!


 頭の中はぐちゃぐちゃで、考えもぐちゃぐちゃで。

 私はずっと、1人で泣き続けていた。



―――――――



 嗚咽は止まらない。

 でも、涙は枯れてしまったのか、目は充血したまま乾いてしまった。


 抱えた枕は、グチャグチャだ。


 深呼吸をした。

 そしたら、少し心が落ち着いた。


 頭の中の思考は、妙にクリアだった。


 お母さんには会えない。

 悲しい。悲しすぎるけど、これってもうどうしようもない事だ、というのは理解していた。



 こんな私を見たら、お母さんはきっと怒るだろうな。

 そしてきっと、いつも私に言っていた事を言うんだ。


 何事も悔いの無いように努力しなさい、と。

 胸を張って誇れるように、1つ1つ頑張るのよ、と。



 お母さんがいなくなってから、何もしてこなかったな、私。

 これでは、お母さんに何も誇れないや。


 どうあがいても戻ることは無い、お母さんがいなくなってしまった事。それに私は向き合えなかった。

 弱いなぁ、私。



 どうあがいても戻ることは無い、と言えば。

 似たような話を、水ヶ谷村でも聞いた気がする。

 結寿葉さんの言葉だったかな。


――取り返しのつかない事は、どうにかして自分で受け入れないといけない。乗り越えないといけないの


――大抵、それは乗り越えるのが大変な物なのよ。それでも、自分で何とか乗り越えないといけないの


――でも、乗り越えるために他の人を頼れることは、忘れないでね


「自分だけでは受け入れられない事でも、誰かと一緒なら乗り越えられることもある」


 日記にメモしていた、結寿葉さんの言葉を読み上げた。


 あぁ、そうか。

 お母さんが戻ってこない、という事実を乗り越えられなくて、私はずっとここに留まってきたんだ。


 でも、その事実は、取り返しがつかないんだ。

 どうにかして、私はこれを乗り越えないといけないんだな。


 でも、どうやったらお母さんがいなくても、私は生きていけるのだろうか。


 そう思ったけど。

 水ヶ谷村での生活を思い出した。


 何もかも忘れていたけど、私はあの場所で、楽しい、と思える日々を過ごせたんだ。

 お母さんに自慢したい思い出を作ってきたんだ。

 あそこでなら、私は、お母さんに誇れるように、生きていけそうな気もする。


 日記をパラパラとめくって、思い出をもう一度なぞる。


 ふと、最後のページに1枚の折り畳まれた紙が挟んであることに気づいた。


 開いて読んでみる。



 ハルの筆跡だ。


 ……


 ……


 そっか。


 短く書かれた、ハルの気持ちを受け取った。

 約束を、もう一度思い出した。


 水ヶ谷村に、まだ残している思いがある。


 私は、あそこでなら、きっと前に進める。

 そしてまたいつか、きっとハルもやってきて、4人で集まれる日が来るだろう。


 カイ、千夏と一緒なら、楽しい時間を沢山過ごせそうだ。

 ハルと一緒なら、自分の弱さも、一緒に乗り越えられるかもしれない。


 また4人で一緒に遊びたい。

 一緒に過ごして、沢山楽しい思い出を作りたい。

 本当の私の、素直な気持ち。

 叶えたい夢が今、ここにある。



 前に進まなきゃ。

 止まっていたら始まらない。

 こんなんじゃ、いつかお母さんにあった日には顔向けできないだろう。


「よし!」


 声に出してみた。


 私が努力して手に入れた、きっかけじゃないけれど。

 これはチャンスだ。

 記憶喪失になって、村を巡って、変な地図を拾って。

 そんな、意味のわからない状況で得た、チャンスなんだ。


 きっとおばあちゃんは驚くだろうけど。

 叶えたい目標が出来たのだから。


 まだ、当分お母さんがいなくなってしまった事実は、私は乗り越えられそうもない。

 でも、それでも前に進んでみようか。

 いつかきっと、沢山の思い出ができたら。その時、もしかしたら乗り越えられるのかもしれない。そう思った。


 勇気を出して、一歩踏み出すんだ。

 塞ぎ込んでた私じゃ踏み出せなかった一歩。

 今ならできる、今なら、ちょっと勇気を出せば手に入れられる。


 私から、一歩前に踏み出してみようか!


 携帯を手に取って、おばあちゃんに電話する。


「もしもし、おばあちゃん」


 まずは初めの第一歩から!

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