[7日目 - 夜] ジジ団 - 旗のもとに誓ったこと ①
大変なことが起きた、という実感を持ったのは、当分先の事だった。
僕たちは夜になるまで、多忙を極めた。
村を土石流が襲ってから、神社では本格的に避難場所としての設営が始まった。
神社に設置された2つの大きな蔵が開かれ、物資が取り出されていく。
村の中の若者を中心に物資を取り出し、見守り隊を中心にテントなどが設営が進む。
もちろん僕たちも手伝う事となった。村の人たちに交じって、設営を手伝う。
神社の中が速やかに区画分けされていく。
全て事前に計画されていて、結寿葉さんが設営の指揮をしていた。
境内近くに避難所本部の区画が設定され、その横に仮設役場のエリアが作られた。
炊き出し用のスペース、救護区画、ゴミ捨て場、配給所。
その他広い範囲が居住スペースとして区画が分けられる。
最優先で避難所本部の設営がされ、その後分担して各所の設営が進められた。
避難所本部では、運動会で使われるようなタープテントに長机2つとホワイトボード2台が設置された。
おじいちゃんとお父さんが中心に、避難場所の設営や物資の分配の段取り、人員の配置などの指示を出している。
おじいちゃんが圧倒的なリーダーシップを発揮し、お父さんは適時ホワイトボードに状況を纏め上げる。
こうしてみると、山守家が村の中で中心的な存在であることが良く分かった。おじいちゃんは、村で本当に信頼されているのだろう。その家庭の一員であることが少し誇らしかった。
僕もお父さん、おじいちゃんに恥じないように頑張らないと。
暫くすると、本部の横で仮設役場が動き始めた。
10台ほどの長机と簡易椅子、仮設の衛星電話やノートパソコンなどが設置される。
役場の職員や警察が集まり、何やら書類を書いたり、どこかへ電話したりなど、忙しく仕事を始めた。
手伝いをしている人と、避難所本部、役場の人たちにビブスと腕章が配られた。
防災、事務、物資、医療、福祉、施設、警察、見回り隊、などなど、担当者ごとに色とりどりのビブスが身に付けられる。これも事前に準備されている物だった。
僕とカイと千夏には、ジジ団、と書かれた腕章が配られた。ジジ団メンバー4人と予備を合わせて5つしか用意されてなかったが、その内3つを僕たちに分けてくれた。ジジ団メンバーの4人は持ち場のビブスを付けてるし、顔も知れているから要らないとのことだった。ちょっと嬉しい。
徐々に徐々に、避難所が出来上がり始める。
並行して安否確認が始まった。手伝っている人も一時的に手を止めて、役場で自分の名前にチェックを入れていく。
僕はこの村に籍を置いていないので、住人のリストには載っていなかった。しかし、訪問者のリストの中に僕の名前が手書きで書かれていた。名前の横にチェックマークを入れる。
既に辺りは真っ暗である。
投光器の人工的な明かりが辺りを照らし、住人には小さなLEDランタンが配給される。
「大丈夫ですかーー!無事ですか!」
神社の鳥居の方から、誰かが叫ぶ声がした。
声のする方に目を向けると、4人の大柄な人が大きな懐中電灯で辺りを照らしながら徒歩で神社まで来ていた。迷彩服に身を包んで、巨大なバックパックを背負っている。
お父さんが、その人たちの元へ向かう。お父さんは運営本部と書かれた黄色のビブスを付けていた。
自衛隊の人たちは直ぐに避難所本部の中に入っていった。
僕はその時、避難所本部の前に1枚のホワイトボードが掲げられていることに気が付いた。
『安否確認完了 住人は全員無事です』
大きく、赤い文字でそう書かれていた。
おじいちゃんが宣言していた、誰一人として犠牲者を出さない、という事は達成されたことを知った。
それに続いて、県の職員、警察、消防隊などが続々と集まってくる。
全員が歩いて神社を訪れていた。
この頃になると、人手も増えたことで避難所は一通り立ち上げが完了した。
時刻は21時になろうとしていた。
「つ、疲れたし、腹減った」
久しぶりにカイと千夏と合流できた。そういえば、今日は昼ご飯を食べていない。空腹を通り越して、何も感じない所までたどり着いてしまった。
その上、相当な重労働をした。休憩を始めると、体の節々が痛み始める。こりゃ、明日は地獄だな。
「大変なことになっちゃいましたね」
「そうだね」
地面に敷かれたブルーシートの上に座りながら、僕たちは話す。
「おじいちゃんの家、流されちゃったなぁ」
山守家は、高台の一部が崩落して、家ごと無くなっていた。
家がどこに流れたのか見当がつかない。家が建っていた場所ごと、ごっそり削り取られるように無くなっていた。
でも、疲れているからか、一種の興奮状態にあるからか、何の感情も沸かなかった。
「みんな、お疲れ様」
お父さんが僕たちが休んでいることに気が付いて、僕たちの元に近づいてきた。
「みんなは本部のテントで休むといい。おいで」
そう言って、返事を聞かず父さんはテントに戻る。
僕たちは、顔を合わせた後、父さんに従う事にした。
足を動かす。
ミシッ。
嫌な音が。筋肉が悲鳴を上げる。
これは、ヤバい。ここからの行動を間違えると、足が攣る。
慎重に、慎重に立ち上がる。
ミシミシミシ。
嫌な音はするが、何とか生まれたての小鹿のように足を震わせながら立ち上がることは出来た。
既にミライとカイはテントに向かっている。
僕も何とか追いつけるように、足を震わせながら2人を追いかけた。
―――――――
テントの下で、おじいちゃんたちと自衛隊の人たちが話し合っていた。
曰く、村へ通じる国道の一部に木材が流れていて、車両が入れない事。県と連携して撤去作業を行う事などが話し合われ、支援を受けるための計画がされていた。
「みんな、何も食べていないし疲れただろう。夜も遅いし、これを食べて今日は寝なさい」
お父さんが炊き出しのおにぎりと、インスタントの味噌汁を持ってきてくれた。
僕たちは無言で食事をとる。暖かい味噌汁が体中に染み渡り、おにぎりをお腹に入れると活力が戻ってくるような、そんな感覚がした。そんな中で、僕が疲労困憊していることも理解した。多分、火事場のバカ力なのか、アドレナリン的な奴なのか、今まで感じていなかった疲れが途端に溢れてくる。
カイと千夏も同じようで、表情から緊張感が抜けて、疲労感を漂わせている。
おじいちゃんたちも、周りの人たちに任せて、一休みを取るようだ。ジジ団の面々が僕たちを中心に集まってきた。
「本当にお疲れ様じゃ」
おじいちゃんが僕たちをねぎらってくれた。
「おじいちゃんこそ、お疲れ様。やっぱりジジ団ってすごいんだね」
「うむ、こういう時の為に備えてきたのじゃ。腕の見せどころだの」
結寿葉さん、勇輔さん、お父さんも3人で話しながらおにぎりを食べている。少し気を抜いた表情で、和やかに会話していた。
田中さんはというと、味噌汁を飲みながら机に突っ伏していた。流石に疲れたようだ。顔が火照って、赤くなっている。田中さんがどういう立ち位置の人かはわからないが、各方面のリーダー、何なら警察や消防、行政含めて田中さんに情報が集約されている様だった。今は見守り隊の人に引きついているようだったが、先ほどまで一息つく暇もなかったのだろう。傍から見ても一番大変そうだった。
皆、自分の役割を全うしていた。僕たちも、出来ることは全力で出来たと思っている。非常事態であるのに、不思議と充実感を感じる数時間だった。
そういえばおじいちゃんだけは、そんなに疲れたような表情をしていなかった。何なら、辺りに気を配って、適時指示を飛ばしてすらいる。
何がおじいちゃんをここまで動かすのだろうか。僕は気になった。
「ねぇ、おじいちゃん」
「晴、なんじゃの」
「おじいちゃんってさ、村を本気で守ってるよね」
「……そうじゃの」
「なんでおじいちゃんって、そこまで頑張ってるの?」
「ふむ」
おじいちゃんは、少し目を瞑って考えるようにしていた。
「山守のじいさんだけじゃなくて、ジジ団の皆って、色々本気だよな。なんでそこまでできるのかは、俺も気になる」
カイが言った。
千夏も頷く。
「そうじゃのう」
何かを決心したかのように、おじいちゃんは口を開いた。
「こんなことになってしまった。それに晴、快、千夏、君たちには私も助けられた。暫くは村の事を助けてもらう事になるだろうからの。わしらが、何故、村の安全に固執しておるのか、理由は知っておくがよかろう」
おじいちゃんが話し始める。
僕たち3人だけじゃなくて、お父さん達もおじいちゃんの話を聞くために近くに寄ってきた。
「わしら、と言っても、今から言うのはわしと田中の2人が経験した事じゃ」
おじいちゃんは話し始めた。




