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遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


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[7日目 - 夕方] みらい地図 - 大切なものを守る事 ②

「カイ、出来ることを考えるよ」


「おう、取りあえずこの地区のリーダーの家に行くぞ」


「わかった!」


 そう言って、地図に従ってカイと走る。

 僕にはこの辺りの土地勘は無い。だけど、カイは流石に村にずっと住んでいるだけあって詳しかった。


 こっちだ、と案内されるがままに走る。


 走る。


 走る。



「あ!」


 目の前に、1人のお兄さんが年寄りの男性をおんぶして歩いていた。


「だいじょうぶですか!」


 僕は叫びながら、その人の所へ駆け寄る。

 カイも一緒に駆け寄ってきた。


「はぁ、はぁ。君達、すぐに逃げなさい」


「いや、避難を助けに来たんだ。ジジ団の少年分団だ!」


 勝手にカイが適当なことを言う。

 話を聞くと、このお年寄りの人がこの地区のリーダーだった。

 でも、避難しているうちにコケてしまって、息子さんがおんぶをして何とか避難をしようとしていたようだった。

 お年寄りの人が、手に壊れたトランシーバーと青色の旗を持っている。

 旗には「川南里上」と書かれていた。


「なぁ、この地区は他は全員避難できているのか!」


「あぁ、大丈夫じゃ。わしと、こいつだけじゃよ」


 背中のお年寄りの人が言う。


「わかった」


 カイが頷く。


「カイ、車を寄せてもらおう」


「そうだな」


 カイは無線機に声をかける。


『カイから、大部。川南里上のリーダー発見。けがをして、息子さんがおんぶしている。車を回して、どこかで合流できないかな』


 そう言うと、しばらくしてこんな言葉が返ってきた。


『大部から、ジジ団。誰かピックアップに行けるか』


『越路から、大部。もう向かわせた。合流地点は川南里上の安全旗の設置位置』


 結寿葉さんの声だ。いつものふんわりとした感じではない。はきはきと明確に連絡事項を伝えている。


『カイからジジ団。了解、ありがとう!ちなみに川南里上のトランシーバーは壊れちまったらしい』


『田中から、大部快君。わかった。後は任せなさい』


 田中さんまで会話に入ってきた。

 ジジ団、全員集合だ。ジジ団一丸となって、村全員の避難を全力で進めているんだ。


 けが人が出てしまって、歩けない人がいる。

 このようなイレギュラーにも、ジジ団の人たちが直ぐに対応してくれる。何て心強いんだろう。

 相当訓練を積み重ねてきたのだろう。検討を重ねて、相当なパターンを考えて、対応策も練ってきたのだろう。

 どれだけ準備を積み重ねてきたのか、僕には想像する事しかできない。でも、それが今日、遺憾なく発揮されているのだと思った。


「よし、あともうすこしです」


 僕は、声をかける。


「君たちは、山守さんと大部さんの所の子か。やっぱりジジ団の人たちには、敵わないな」


 お兄さんはふふっ、と笑っていた。



 暫くすると、1台の車がピックアップしに来た。

 お年寄りの人が僕たちに青色の旗を託す。

 お兄さんと共に、2人は車で運ばれていった。


 僕たちは旗を電柱に設置されたポールに突き刺す。

 そしてチェックリストにチェックを入れた。


「よし、これで全部だな」


「カイ、戻ろう!」


 僕たちは駆け足で、勇輔さんの車の所に戻る。

 既に勇輔さんは車の運転席に乗っていて、窓を開けて手を振っていた。


 後部座席に2人で乗り込む。


「いくぞ」


 勇輔さんは直ぐに車を走らせた。


「2人とも、よくやってくれた」


 勇輔さんが言う。


「へへ」


 カイが頬をポリポリ。


「カイ、やったね」


「やったな、ハル」


 僕たちは小さくハイタッチをした。

 緊急事態の中だけど、僕は少し誇らしい気持ちになっていた。



 車は車道を走る。

 もはや、周りを走る車は一台もない。歩く人影も一人も見えない。

 僕たちが車を走らせる音と、村中に響き渡るサイレンの音だけが聞こえていた。



 暫くして、越路家が見えてくる。


「お、なんだあれ!」


 勇輔さんが驚いた声を上げる。

 僕たちは覗き込むように、前を見た。


 越路家の正面の道にある電柱に、横断幕が掲げられていた。


 赤色の横断幕に、白色で案内が書かれている。

 一般避難車両は直進、水ヶ谷村関係車両は斜め前、緊急車両は右へ。


「おいおいおい、あんな横断幕、しらなかったぞ?結寿葉が準備したのか!」


 勇輔さんが驚いたように言う。


「おい、あそこ!」


 カイが前を指さす。


 指の指す方へ目を凝らすと、横断幕の下で千夏が僕たちに向けて旗を振っていた。

 例のジジ団、と大きく3文字書かれている旗だ。

 反対には避難地図が見え隠れしている。


「千夏だ!」


 すれ違いざま、僕たちは手を振り返す。

 後ろから走るように千夏が追いかけてきた。


 勇輔さんは迷いなく、警察車両に横付けするように車を止めた。


「よし、降りるぞ!忘れ物するなよ!」


 僕たちは車から降りる。

 そして振り返れば、皆が勢ぞろいしていた。


 おじいちゃんが立っている。

 結寿葉さんと、千夏が立っていた。千夏はジジ団の旗を持っている。

 田中さんもいる。手にはタブレット端末を持って、背中に大きなリュックサックを背負っている。やはり手にはジジ団の旗を持っている。

 お父さんがその横に立っている。抱えているショルダーバッグからは、いくつもの書類やフォルダが顔を覗かせていた。右手で、ジジ団の旗をしっかりと握りしめていた。


 僕とカイもこの輪の中に加わる。

 そして、勇輔さんが最後にこの輪に入った。

 輪には8人、そして4本の旗が集っていた。


「田中、漏れは無いな」


 おじいちゃんが田中さんに確認する。

 タブレット端末を操作しながら、田中さんは言った。


「大丈夫だろう。全員避難できたはずだよ」


 全員、全員と言えば!!


「おじいちゃん!」


「晴、なんだ」


「ミライがいない!」


 そうだ、ミライが消えてしまったままだった。

 千夏とカイもハッとしたようにして、僕に目を合わせる。


「田中!」


 叫ぶようにおじいちゃんが言う。


「待て」


 応えて、田中さんはタブレットを操作する。

 そして10秒ほどして。


「大丈夫だ、ミライはこの村をもう離れておる!」


「よし、ならば我々も避難するぞ!」


 そう言っておじいちゃんは、神社へと続く坂を上り始めた。

 自然と、僕とカイと千夏は合流して、歩き始める。


「なぁ、たなじい、村を離れてるってどういうことなんだ?」


「詳しくは後だが、バスに乗ってミライはこの村を離れている記録がある。君たちは一旦安心しなさい。きっとミライは安全な場所にいるからね」


 田中さんは少し早口に、それでも丁寧に僕たちに教えてくれた。


 何故バスに乗ったということがわかるのか。

 何故ミライはバスに乗ったのか。

 ミライはどこに行ったのか。


 気になる事は沢山あった。

 それでも、今は一旦、これ以上聞くことはしなかった。


 皆がおじいちゃんに続いて神社へと向かう。

 僕たちが最後の避難者になったわけだ。


 風が吹いた。ジジ団、と書かれた旗が4枚なびく。

 長く伝えられてきたみらい地図、重ねられた避難訓練、徹底した自然災害への対策。

 ジジ団の名の下に積み上げられてきたそれは、今日の為に続けられてきたのだろうか。

 今日1日、来るかもわからない日の為に、何年も、何年も。



 田中さんが持つタブレットから、けたたましいサイレンの音が鳴る。


「どうした」


 おじいちゃんが振り返る。


「いかん、川の水量が急増しているようだ。本当に、あの日の地獄が繰り返されるのかもしれん」


 田中さんのタブレットを持つ手が震える。

 おじいちゃんは、田中さんから目を離して皆を見渡す。


「走るんじゃ。わしらも急ぐ。なるべく安全な所へ、神社の方へ走るんじゃ!」


 おじいちゃんと田中さんが肩を並べて、早歩きで進む。


 僕たちはその後ろに付き従う。

 おじいちゃんと田中さんが振り返った。


 田中さんが言う。


「なにをしている!私たちを追い越して、逃げなさい!安全第一だと言っているだろう!」


 凄い剣幕だ。

 真っ先に反応したのは勇輔さんだった。


「わかった。山守さん、田中さん、なるべく早く来てくださいよ」


 勇輔さんが真っ先に2人を追い越す。


「おい、結寿葉、聡。カイ、ハル、千夏。付いてこい!走るぞ!」


 勇輔さんが全力で走る。

 僕たちもそれに従って走り始めた。


 でも、おじいちゃんとすれ違う時、僕はおじいちゃんの方を見て、立ち止まってしまった。


「晴、先に行きなさい。きっと大丈夫じゃ。すぐに追い付く」


「そうだ、ハル君。行きなさい。そもそもこの道はかなり安全なのだから、念のためだよ」


 僕は無言でうなずいて、走った。

 カイや勇輔さんには追い付けなくて、結寿葉さんと肩を並べて何とか走っていく。


 そしてようやく、僕たちは神社へとたどり着いた。


 それと同時に、辺りに異音が響き渡った。



 ズズズズズ……


 腹の奥底から響くような、足元が揺れるような、地響きのような。

 そんな低くて深い音が辺りにこだまする。


 神社に避難していた人たちも、何事かと辺りを見渡す。


「おい、あそこだ!」


 誰かが叫んで村の方を指さす。

 僕も木々の隙間からわずかに村を見渡すことが出来た。


「きゃーーーーー!!」


 誰かが叫ぶ。


 ズズズズズ!!!


 地響きは大きくなる。

 そして地響きの根源は、やがて質量を持って可視化される。



 その日、水ヶ谷村は78年ぶりに、大いなる自然の脅威に襲われたのだった。

 18時24分、川の上流からの土石流が、村を襲った。

 未曽有の大災害により、水ヶ谷村は甚大な被害を受けることとなる。



―――――――



 XXXX年3月X日 18時35分


[速報]

 水ヶ谷村で先ほど、大規模な土石流が発生した。県によると、複数の家屋が流され甚大な被害が出ているとのこと。



 19時10分

 県によると、先ほど19時に災害対策本部を設置し、自衛隊に災害派遣を要請している。なお、県知事による臨時の記者会見が19時30分から予定されている。



 19時40分

 県知事は臨時の記者会見で、土石流によって少なくとも5棟の家屋が流されて全壊したとの情報が上がっていると明らかにした。人的被害を含めた被害の詳細については現在調査中という。また、水ヶ谷村全域で停電と断水が発生している。


 また防衛省によると、県知事からの災害派遣要請に基づいて、陸上自衛隊の隊員20名が水ヶ谷村へ向けて移動している。



 19時58分

 水ヶ谷消防「水ヶ谷村住人 全員の無事を確認」

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